第16話 sideミゼッタ=リーン3
──ここが、ソルト様のお家! まさかソルト様から誘っていただけるなんて……
ソルト様の家へと無事に侵入したミゼッタは、興奮が抑えきれないでいた。
当のソルト様といえば、青ざめていた顔色はだいぶ良くはなってきてはいた。しかし、それでも本調子ではないのは明らかだった。
──時おり顔をしかめているのは、たぶん頭痛でしょう。おいたわしい……
その症状は、事前に調査課のリリー課長から全局員に通達されていた、ソルト様への対応に関する注意事項に記載されているものと合致していた。
ミゼッタはその通達を貰った際に、何度も何度も、それこそ通達の書かれた紙に穴があくほど読み返していた自分の過去の所業に、いまは感謝したいほどだった。
──局長にオーガロードの件で誉められて言われた、ソルト様と関わる機会が増えるって。こんなに早く、それが叶うなんて……
感動すら覚えてソルト様の家の中を怪しまれないように気を付けながら記憶に焼き付けようとしていると、経理課のハリークルさんがソルト様へと可愛らしい声で話しかけている。
「わぁ、ソルトさん。お住まい、とても綺麗にされてるんですね」
仕草といい、その様子は小動物のように可愛らしい。
ミゼッタはハリークルさんが、いまこの場に居てくれること自体はとても感謝していた。自分がもし、ソルト様と二人っきりになんてなったら、滾る気持ちのままに粗相をするのを抑えきる自信がなかったからだ。
しかしそれはそれとして、女の子として、とても可愛らしいハリークルが、朗らかな様子でソルト様へ話しかける様子に、ミゼッタの胸の奥は、チクリと痛む。
そのハリークルさんの行動が、あまり調子が良くなさそうなソルト様の気を確かにさせるため、あえて話しかけている気遣いなのだと、ミゼッタも理解はできる。
──ああ、私もあんな風に可愛らしい女の子だったら、良かったのに……
記憶に焼き付けようと室内を見ていた視線が自然と自分自身の肢体にうつるミゼッタ。
──伸ばして一つにまとめた金髪は、厳しい魔導騎士の勤めの合間に、できる限りの手間をかけているもの。それなりの艶は維持できている。でも、激しい運動を伴う魔導騎士の仕事と訓練はどうしようもないのよね。お陰で、この体から彼女みたいな柔らかさは、すっかり無くなって……
そっと片手で触れたミゼッタの腹部は、綺麗に筋肉で六つに割れているのが指先に伝わってくる。そしてその四肢は、柔軟ながらもも強靭な筋肉で包まれていた。
すらりと伸び、実用的に鍛え抜かれたその体は、実は、見るものが見れば鋭い刀剣のような美しさを秘めていると称賛するであろうものだった。
とはいえ、自分自身をそこまで客観視出来ていないミゼッタからすると、武骨で、可愛らしいハリークルと比べて劣等感を感じてしまうのも、致し方のないことだった。
そんな自分自身の体に魅力がないと思い込んだまま、ミゼッタは、せめて行動で挽回しようと奮起する。
「ソルトさん、良かったら台所を教えてください。お茶を淹れてきます」
「──いやでも、さすがに」
「まだ、少し顔が青白いですから。ほら、こちらの椅子にお掛けになっていてください」
どさくさに紛れてソルト様の肘をとり、椅子へと誘導するミゼッタ。
役得に緩みかける頬を維持しようと必死に顔に力を込めながら。
「──わかりました。すいません。台所はそちらに……」
「お借りしますね。ハリークルさんは、ソルトさんと」
「はい。わかりました」
再びチクリとする胸の痛みを完璧に覆い隠し、ミゼッタはソルト様から聞いた台所へとお茶を淹れに向かうのだった。




