第12話 起動式剥がし
「あ、リリーさん。お疲れ様です」
「ソルト、帰るところか。ちょうど良かった」
魔導局の敷地を出ようとしたところで、また声をかけられる。
今日は帰りがけに良く知り合いに声をかけられる日らしい。
「どうしたんですか?」
「──とりあえず、そのまま」
「え……? はい」
私の帰る方向に歩き出すリリーさん。
どうやら帰り道に同行する雰囲気だ。
──あれ、リリーさんってうちの場所知ってたっけ? ああ、調査課だから、それぐらいは知っているのか。しかし、何でついてきてるんだ。出来たら一人で歩きたかったんだけど……
無言のままのリリーさん。
私から付かず離れずの位置で同じ方向に歩き続けている。なぜかキョロキョロと視線が定まらず、少し緊張しているようにすら見える。
そういえば服装も準戦時ローブに防具の胸当てを追加で装備している。
──ここで、私は買い物寄るからーとか言い出すのは、流石にあからさまだよね?
何とか私がそっとフェードアウト出来ないか考えている時だった。
「ん?」
それは見覚えのある《《存在》》。
この状態の生き物や物品を前の職場で、嫌になるほど見たことがあった。
「おかしいな。なんでこんな、町中で?」
「っ! そ、ソルトっ」
私の視線の先をみたリリーさんが、ひきつった表情を浮かべている。
──あ、そういえばリリーさんて、犬が苦手だったような?
「ああ、大丈夫ですよ」
私はその低い声で唸っている子犬に近づくと、片ひざをついて手を伸ばす。
その状態のせいで体調が悪くて機嫌が悪いのだろう。
子犬が私の手を見て、不思議そうに唸るのをやめる。
そしてその私の手に、恐る恐る鼻先をつける子犬。
──起動式、展開……ああ、やっぱり……
私は子犬を驚かさないように無声で古代魔法の起動式を展開させる。
私の予想は的中したようだ。
なんの問題もない生き物からは現れないはずの起動式が立ち上がり、子犬の体を覆っていく。
──ああ、かわいそうに何か古い魔導具に触れたのかな。今、解除してあげるからね。
私は無言でそう子犬に語りかけると、子犬の体に絡み付いた起動式を一つ一つ解すようにほどいていく。
古い魔法はこうやってうつってしまうことがあるのだ。そうなると生き物であれば体調を崩しがちだし、物品だと何らかの障害が発生する。
「良い子だね。あと少しだから」「くーん」
私が起動式をほぐす間、大人しくしている子犬。起動式が剥がれていくにつれて、どこか気持ち良さそうにその目が細められていく。
「ほら、出来た」
「わんっ」
元気な声をあげると、尻尾をフリフリ子犬が私の回りを駆け出す。まるでお礼を言っているかのようだ。
「いつみても、なんとも──グリンハイムと言い……まったく」
「ん? 何かおっしゃいました? リリーさん」
子犬の元気な声でリリーさんの声が良く聞こえない。
「いや」
「とりあえず君はこっちおいで。リリーさんて犬、苦手でしたよね」
「──ああ」
私は、走り回る子犬が近づくのはリリーそんが嫌かなと気を使って子犬を抱き上げる。
なぜか変な顔をして、リリーさんはそんな私の方を見てくるのだった。
そこへ、どたどたと複数人の人間がかけてくる音が響いた。




