感情
美桜に部屋を案内して、少し経った頃。
雪とリビングに2人きりになっていた。
雪は座っていたくろに近づいて来て、横に座った。
「どうしたの?」
「…。」
何も言わないまま、くろの手を握った。
「ひゃ?!」
雪の手は、とても冷たかった。けれど、くろの心臓はバクバク動いていた。
「ひゃわわわわ…。」
「くろはさ。」
出会った時より少し声変わりして、背も少し高くなった雪は、くろからしたらお兄ちゃんが出来たかの様な感覚だったが、くろには何か違う感情があると気づいた。
「人を殺すって言うことの意味、わかってる?」
「え…?」
ゆきの目を見ると、光が入っておらず、ただ、吸い込まれてしまいそうな綺麗なオッドアイはそこにはなかった。いつになく、真剣な眼差しでこちらを見ていた。その目を見た途端、くろは下を向いた。
「俺はお前の家族を…なんであの時、そんなにおどろかなかった?怖くなかったのか?」
「それは…。」
(言えない。まだ雪には言えない。でも…。)
雪の顔をチラッと見ると、水滴が頬に落ちていた。
「俺は、お前が怖い。わからなくて、怖い。」
そう言われたくろは、心の中がもやもやする、良く分からない感情になった。
(今ここで雪に攻撃したら、もしかしたら倒せるかもしれない。でも…。)
「私は魔王の娘だよ。そんなことなれてる。殺すことの意味も分かってる。この世界は弱肉強食。いつ殺されるか、殺すかも分からない残酷な世界。覚悟はできてるよ。」
(私がこんなこと言っても説得力ないか。でも…。)
くろは雪の白くて冷たい手を握りなおして自信に満ちた顔になって言った。
「私以外に殺されないように気を付けるのよ!雪は必ず私が殺してあげるから。それまでに、もっとお互いのこと知ろ?」
「くろ…。」
雪の目に再び光が戻り、いつもより表情が緩んだ気がした。
「わ、私も雪のこともっと…知りたいし…。」
くろが顔を赤らめて言うと雪は耐えられず吹き出した。
「な、なによ!人が真剣な話をしてるときにっ!」
「う、うしろ…。w」
くろがぐるりと振り向くと、そこには変な格好をした美桜が立っていた。
「美桜さん?!」
「暗殺といえば、この格好じゃん…?」
忍者みたいな洋服に、頭にはピエロの帽子をかぶっていた。驚いてるくろに構わず、雪はまだ笑い続けていた。
「どんな反応をしたらいいかわからないです!!」
「なんかごめんね?!」
「でもありがとうございます!」
「なぜ?!」
そう言ったくろはちらりと雪のほうを見た。
(あんな顔の雪、初めて見たかも…。)
「雪って表情筋死んでないんだね。」
「あ?」
今日も平和な魔王様でした。