金髪美少女
路地裏に1人の女の子が立って、過呼吸になりながら泣いていた。
「ごめんね、りり。私があの魔人を倒すから。」
そう言って女の子は強くペンダントを握りしめた。
ゆきと暮らして5年、私は11歳になっていた。
5年の間、なんの変化もなく、ただ平和な日々を過ごしていた。ただ、生活の中でお互いにすれ違わないように、色々な秘密は打ち明けていた。
くろの部屋も充実してきて、箪笥の横に鏡、机と並んでいて、もちろん机には椅子もついているし、高さも丁度よく、暮らしやすい部屋になった。
朝。いつも通り、部屋で寝ているとゆきが勢いよくドアを開けた。
「号外が出たぞ。」
「号外?」
ゆきは新聞紙片手にコーヒーを持って報告しにきた。
「これ、読みな。」
ゆきが手渡ししてきた時にくろはゆきの手にナイフを突き刺して満面の笑みを見せた。
『グサッ』
「ありがとう♡」
ゆきは痛さでコーヒーを床に落として顔を引きつらしながらナイフを手から抜いた。
「そりゃどーも。」
ゆきは手を擦りながら傷を治した。
「アス市場の八百屋の娘が転生者であることが判明、魔王討伐に駆り出されて批判殺到か…転生者ねぇ。」
「確かお前も転生者だったよな?」
コーヒーカップの破片を拾いながらゆきが言った。
基本的に転生者は魔王を倒すために色々な能力を持っている。
「こんなの記事にして、馬鹿みたいだね。」
「そうだな。」
くろは起き上がって背中を伸ばした。
「勇者のパーティーそろそろ作るかぁ。」
「やっとやる気になったんだな。」
ゆきはいつのまにかこぼしたコーヒーを拭いていて、部屋を出て行った。
「今日は街に行ってみようかな。」
ゆきが言うには、くろは属性や能力を持たないので色々なことを脳が学習してファイリングし、実践で脳にインプットすることができるらしい。
能力が無い分、脳に空きが発生するらしい。
学習したものは応用して混ぜたり切り離したりできるそうだが、脳への負担がとんでもなく大きく、実用的ではないらしい。脳が学習するのも負担がかかるため、能力は一日に一つまでしか学習できないらしい。物体を学習するには、構造を学ばなければいけない。
これは単なるコピーする能力と違う。コピーでは一回能力を見ただけでコピーできるが変化や応用が効かず、オリジナルよりも性能が劣り、物体などは学習できないということが違う点だ。
なぜそんなことがわかるかなんて、くろが聞いても教えてくれなかった。目が良いから、と言う理由で通している。
「今日もなんか良い感じのないかな〜。」
くろが近くの街を歩きながらあくびをする。
すると、同じくらいの年齢の女の子が突進してきた。
「うわあ!な、なに?」
薄汚れた水色髪で服もボロボロ。沢山切り傷がある小さくて細い手で顔の大きさくらいの袋を持って走っていた。
「ひったくりじゃああ!捕まえてくれー!」
遠くで小さくて杖を付いてプルプルしているヨボヨボのおじいさんが目一杯の声で叫んでいた。
くろは咄嗟に女の子の前に出た。
「邪魔っ!」
女の子はくろの前に来ると袋を振り回して威嚇してそのまま走って行った。
「あっぶないな!」
くろが振り向く頃には女の子はどこかに行ってしまった。
「なんなのよもう!」
くろは一旦その場を離れた。
「ここなら良いかな。」
薄暗い路地裏にくろはやってきて魔法を展開した。
「あの子の服につけてたによね。位置情報魔法。」
そう言いながらルンルンで魔法の画面を見る。
「ゆきが教えてくれたの、早速役に立ったわ。街は魔法禁止だから使うところがないのよね。」
位置情報を見ていると、叫び声が聞こえた。
「また盗難?」
路地から顔を出してみると、そこには巨大スライムが居た。
「巨大スライムが三体…討伐ランクはC。三体なら並の兵士じゃ倒せないかな。」
くろは路地裏から出て走って現場に向かった。
すると金髪美少女が剣を持って走ってスライムを切り付け、綺麗に討伐した。その横でピンク髪の人が褒めちぎっている。
「出る幕はなかったね…。あのピンクの人は確か…。」
ピンク髪の人はくろに気づいて大きく手を振って来た。
「ゆきの執事のちゃるさん…。」
金髪美少女がスライムに飲み込まれてた人をちゃるさんに任せると、こちらに凄いスピードで走って来た。
「やば。逃げなきゃ。」
くろが後ろを向くと、
「待ってくださいー!」
と美少女は追いかけてきた。すぐに追いつかれ、手を握られた。
「うげっ。」
(まあ美少女に手を握られるのも悪くない…。)
「あなた!ビジュ超良いですね!」
「え?」
くろが戸惑っているのにも関わらず、話を進められた。
「綺麗な黒髪ロングに前髪の白いインナーカラー!毛先だけ赤くなっているのもポイントが高い!」
「は、はい?」
美少女はどんどん早口になって目をキラキラさせている。
「背は低めでなんとも言えない優しい垂れ目!」
「褒めてるのかい?」
くろのまわりをぐるぐる周りながら観察している。ちゃるさんもニコニコ笑顔でこちらを見守っているだけだ。
「少し細くて折れそうな足!」
「そんな細くないよ?!」
「極め付けはそのまな板みたいな、おっp」
『バキッ』
美少女はくろに近くの壁まで殴り飛ばされた。くろはかつてなく禍々しいオーラを出している。
「黙れガキが。その先言ったら潰す。」
「ひゃあ!」
美少女は顔を青くして怖がっていた。
「先ほどはご無礼を働き、申し訳ありませんでした!」
近くのカフェのようなところでちゃるさんが謝ってくれた。
「まあ良いですけど。」
オレンジジュースを一口飲み、くろはまた話し始めた。
「あのクソガキの名前は?」
「クソガキってなんだよ!」
金髪美少女がちゃるさんの後ろから文句を言っているが、どうでも良いな、と思った。
「この子は美桜です。手違いで転生して来てしまって…。」
(主人公ポジだなあ…。)
「私は女神をぶっ飛ばして帰るの!そのために日々鍛錬してるのよ!」
ふふん、と自慢げに美桜は話した。
「じゃあさ、魔王倒さない?」
「魔王?」
美桜は首を傾げて興味津々で聞いて来た。
「一緒に倒して帰ろうよ、元の世界に。」