純魔人
誕生日メッセージ1日目。
朝起きて部屋から出ると、リビングに置き手紙と綺麗な封筒に入った大きめの紙が置いてあった。
置き手紙には、こう書いてあった。
「今日1日、少し遠出をする。飯を食べといてくれ。」
ゆきらしい…と思った。だけど何も言わずにどこかに行ってしまうってことが無くなったのは褒めてやろう!
さて、封筒を開けてみようかな?
私は封筒を手に取って開けた。中には紙が入っていてこの世界の文字が不規則に並んでいた。
「昨日言ってた暗号かな?…意外とむずいな。」
私は自分の部屋に紙を持って行った。
そのちょうど入れ替えの時に、ろろがリビングに来た。
「お菓子あるかな〜♪…ん?」
机の上の置き手紙を見てろろは顔色を悪くして玄関に走って行った。
「暗号の答えは、一?どういうことかな?まあ明日も多分暗号はあると思うし。暗号は明日の自分に任せるとしよーう!」
そう言って私はピーッと笛を吹いた。
「ふう。んー、暇。とりあえず街に出てみるか。」
私は玄関に行くと、違和感を感じた。
「なんか…いつもと違うな。まあ良いか。」
私は気にせず外に出た。
「相変わらず街は平和ね。ここが異世界だって忘れそうになるわ。ギルドには登録したけど全然魔物の討伐依頼なんてないし。なんでかな?…人間の魔王が家にいるわ。寄りつかないんだろうなあ、魔物も。」
そんなことをぶつぶつ言いながらいつも買いにくる街の八百屋の近くを歩いていると、路地裏の景色がふと目に入ってきた。
「俺と似てる人を知りませんか。」
「知らないな。他をあたりな。」
よくみると、美桜さんぐらいの年齢の青年が誰かを探しているように見えた。おじさんに声をかけていた。
「俺の双子の弟なんです。見つけたら言ってください。」
「お前にそんな義理はねえよ。他をあたれって言ってんだろ。」
私はなんとも言えない気持ちになった。
その場を離れようと振り向くと、ふりむきざまにその青年と目が合った気がした。
「路地裏生活かあ。」
結局私は何もできずに街の方まで戻ってきた。
「そう言えば、街で私みたいな魔人を見たことないな?路地裏の青年とかは魔人っぽかったけど。」
あの青年は純獣人族だ。いくら耳や尻尾を布で隠していても気配でわかる。私みたいな非純吸血鬼は悟られないことが多い。
「あ、そうだ。野菜買わなきゃ。足りないやつが合ったはず。」
私はくるっと後ろを向いて歩き始めた。
「よし、野菜も買えたし、そろそろ帰るか。…?」
八百屋から出ると、さっきの路地裏が騒がしい事に気がついた。
「どうしたんだろう。…行ってみるかあ。」
「な、何これ…。」
路地裏には、さっきの青年と…もう1人のそっくりの青年がいた。そっくりの青年の方は倒れていて血だらけだった。その青年の背中には大きな刃物で切り付けられたような傷があり、とても痛々しかった。さっきの青年は血だらけの青年を抱えて震えていた。
私はその光景を見て立ち尽くしていると、抱えて震えている青年と目がまた合った。だが今度は目が死んだ魚のようだった。私はハッとなり、すぐに駆け寄った。
「きゅ、救急車を呼びましょう!」
「いいよ、別に。」
「え?」
振り向くと青年は笑っていた。
「もう…死んでるから。」
私は背筋が凍り付き、その場から動けなくなった。
「俺たち純魔人は差別を受けている。君も知ってるでしょ。こいつが死んでても誰も助けてくれない。目にもとめない。俺らが酷い仕打ちを受けても貴族は目を逸らして生活している。」
「大切な人が死んで…悲しくないの?」
この質問をするのは正直辛かった。だって自分も人のことを言えないから。
「悲しい。悲しいけど、泣いてても死んだ人は戻ってこない。それより俺らはご飯とかのことを考えないと死ぬ。泣いてても何も死んだ人は喜ばない。君もそういうことなかった?」
私は何も言えなかった。
「君も…よかったね、純魔人じゃなくて。非純魔人で。じゃ、さよなら。心配してくれてありがとう。」
私は何もできなかった。