夢のない子供
窓から太陽の光が差し込む。外では鳥も元気に鳴いている清々しい朝だった。朝の8時まで寝ていた私は、幼い声で目を覚ました。
「早く起きて?」
「ふぁああ。あと5分…。」
「あ、ふーん。」
幼い声の主は手を前に出して何か光っているものを生み出した。
「いいの?これをぶつけるけど。」
「な、なにそれ?!」
光が強すぎて完全に目を覚ました私はよくよく見てみると…。
「え?まじで何これ?」
「雷。早く起きて?」
「ん?」
「雷。氷も出せるよ。早く起きて?」
どうやらこの子には話が通じないようだ…。
リビングに行くと、美桜さんもゆきも集まっていた。
「ああ、くろ。起きたか。」
「起きたけど…。あれ誰?」
私は美桜と一緒に掃除をしている女の子の方を指さして言った。
「覚えてないのか?昨日。」
「私をどうするつもり?」
家に連れて帰って来たが、どうしたものやら…。
俺は先に家に帰ってくつろいでいたが、まさかクエストがないという報告を受けると思っていなかった。
「とりあえず、お前、名前は?」
「…言わない。」
「種族は?」
「…言いたくない。」
その返答を聞いて、俺は大体察した。
俺は美桜とくろを見て言った。
「こいつの事は保護って形で良いんだよな?」
「保護?警察に突き出した方が…?」
「この世界に警察はないぞ。あるとしてもギルド容疑者保護部くらいだな。犯罪者はもれなく殺されるし…。」
美桜はひええ、と驚いていたがくろは不思議そうな目でこちらを見ていたので、悪いことでもしたのか不安になった。
「じゃあわかった。取引をしよう。」
「取引?そんな事をしたって私の方が不利になるだけじゃないの。」
こいつ、結構年下に見えるのに意外と大人びてるな。夢がない子供だな。
「内容だけでも聞いてくれ。」
「聞くだけ、ね。」
「お前は個人情報を俺たちに教える、俺たちはお前に寝床、飯、ある程度の生活資金をやるよ。」
目の前の夢がない子供はこちらを疑いの目で睨みつけて来た。
「とか言って、ご飯に毒が持ってあったり、人体実験したり…。あ、個人情報で親特定したりして脅す手もあるな。」
被害妄想が過ぎる…。なぜこんなに次々と酷いことが出てくるんだ。
「じゃあ約束しよう。飯はお前が最初に皿に装ってもらって構わない。俺たちが皿に装う時も監視しててくれ。あと人体実験はしないっていう契約書と個人情報を悪用しないという契約書を書いてやろう。これでどうだ。」
これほど盛り盛りにしているのにまだ夢がない子供は疑いの目をこちらに向けていた。
「大人は契約書を破ることだってできるんだよ。だってそっちが管理しているんだもの。仮に取引をするとしても契約書は私が肌身離さず持っているって事にして。あとご飯は私が作る。」
「良いの?ゆき。こんなの縛られる毎日になるんじゃない?」
くろがこちらに近寄ってきて耳打ちして来た。
「大丈夫。秘策があるんだよ。」
そう言って俺はフッと笑った。そしてさっきの夢のない子供に話しかけた。
「そんなこと言って良いのか?こっちはお前を死刑にもできるんだぞ?」
「はあ?」
「つまり、お前の生活はもう俺たちの手の中にある!」
俺は魔法で縄を出して威嚇した。
「どうする?あと30秒で決めないと…。」
そこまで言った時、後ろから美桜にチョップされた。
「逆に脅してどうすんの。」
「ゆき、ここは私たちに任せて!」
「お、おう?」
後ろから見た2人の背中はとても大きく見えた。15秒後までは。
「お嬢ちゃんお菓子いるう?」
「お姉ちゃんたちに情報教えてくれたらいくらでもあげるよお?」
そんな事を言った瞬間、2人に雷が落ちた。
「あばばばばば!」
「もうちょっと真面目に勧誘しなさいよ。」
夢のない子供はフッと顔を上げてこう言った。
「さっきの取引、承諾するわ。」
「ほ、ほんとうか?」
「だって、見た目は私よりお兄さんっていう人たちがそんな必死になって私の個人情報聞き出し違ってるっていう絵面が最高だったし。」
こっちに小さい足でてくてく歩いて来てこう言った。
「私はろろ。エルフの自然属性。よろしく。」
「ってな訳で昨日からここに住むようになったろろだ。料理の仕方とか諸々教えてやってくれ。」
ろろと私は顔を見合わせてよろしくと言った。
「よし、じゃあ朝ごh…。」
私は床に穴が空いていたのに気づかずに大きく転んだ。
「ああ、そこ昨日雷落ちたから。今美桜の修復待ちだ。」
「はやく言って?」
今日も平和な魔王の家でした。
ろろ
属性:派生/自然
能力:なし
魔法:自然系
身長:140cm前後
体重:??
好物:白米
苦手:なし
歳 :??
種族:エルフ