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出会い

元素魔法、それは古くから伝わる古の魔法。

大昔では植物魔法が人々に崇められていた。

植物魔法は最初に生まれた元素魔法で、人々が欲する空気を作ってくれていると言われていたのだ。しかし、魔法を反対し、嫌う者たちが対植物魔法用に赤く熱い炎を使う魔法を完成させた。それが現代の火炎魔法だ。

しかし世の民は火炎魔法に対抗するため、清水魔法を生み出し火炎魔法を抑え、さらに植物魔法を活性化させる魔法を生み出した。そうしてこの世界は魔法を使わないものが減っていき、魔法を使った戦争なども起きた。負の連鎖が続き、人々が神頼みをしていると、1人の天才児が生まれた。その天才児は空間魔法を使い、人々が使った魔法を一瞬にして亜空間に飛ばした。そう、最強の元素魔法の空間魔法が誕生したのだ。しかし空間魔法が生まれたことで、亜空間からモンスターや色々な種族が出てくるようになった。

長く続いた戦争は終戦し、平和な生活を送れていたが、学校や会社内での虐めが多く見られるようになった。

この時は元素魔法しかなかったので、生まれながらにして空間魔法の適性をもっていたものは強かった。

他の魔法は手も足も出ずに空間魔法使いには頭が上がらず、空間魔法使いの名前の後には絶対に様をつけたり、職業の選択でさえ空間魔法使いが優遇される世界になりつつ、各地に出現したモンスターも暴れ、知能があり、共に生活を送っていた魔族も虐められていた時。


1人の少女が生まれることで大きく変わることになる。


吸血鬼の魔王と人間の間に生まれた少女は生まれつき魔法を持っていなかった。それらしい属性も確認できず、村の人々は魔王も落ちたな、と噂するほど駄目な子だった。

魔王である母親はその少女に対して、女の子らしい遊びをしなさい、下民と関わるのはやめなさい、もっと強くなりなさい、ときつく教育していた。母親は自分の子が無能力者だと信じたくなかったのだろう。


少女が三歳になる頃、弟が生まれた。

その弟は空間魔法持ちで、生まれながらに強かった。

少女は母親に逆らえなかったが、弟は逆らえた。

そう、この時点で魔王に逆らえるほど、強かったのだ。

早めの反抗期だ、と母親も見逃していたのだ。


少女は1人で狭い部屋にいた。

椅子がない、少女が届かないような高い机、ここに寝ろと言わんばかりの薄く汚れた布、異臭がした状態で朝食に出された物体。部屋には小さな窓しかなく、扉にも外から鍵がかかっていた。


一日に一回、弟が少女の部屋の扉の前に座り込み、歌を歌った。少女はそれが楽しみで、生きる勇気をもらっていた。少女は転生者。言葉はわかることがなく、意味はわからないが、聞こえた声の感じは心地の良いものだった。

そのせいか、少女が弟を恨んだことは一切ない。


そう言う生活が続き、六歳になった時、転機が訪れた。

外に少女と同じくらいの髪が肩まである男の子がいた。

ここは魔王城。門番も沢山いる。少女は悟った。

ああ、この生活が終わってしまうんだな、と。

でも、何か違和感があった。


男の子が来て数日が経った。急に部屋中にサイレンが鳴り響いた。男の子が来てからは、弟が来なくなった。暇なのであの違和感の事を考えていた。

「サイレンか。逃げないと…でもずっとここに居たい。」

そう言った時、母の甲高い叫び声が聞こえた。

「母様が叫ぶなんて…何があったの。」

すぐに扉を突き破ろうとしたが、扉に手を当てて諦めた。

これは母親が作った扉。厚く、重く、そして魔法がかけられている決して壊せない扉。

「ここで頑張らないと…でも、壊したら怒られて出て行かないといけなくなる。」

悩んでいると、城内放送が流れた。

なんと言っているか、不思議とわかった。放送は遠回しに言っていたが、すぐ理解した。母と弟が死んだ、と。

その事実に膝から崩れ落ち、泣きじゃくった。

嬉しいのか、悲しいのか、わからなかった。

一時間くらい経った時、扉の向こうから足音が微かに聞こえた。

「誰かいるかー?この城燃やすぞ?」

中性的な柔らかい声だった。何かほんのり懐かしいような声だ。

「ねえ、私の言葉、わかる?」

「そこに誰かいるのか?」

そう言い、柔らかい声の持ち主は扉の前に来た。

「少し下がっていろ。」

少女が下がると扉は勢いよくこちら側に吹き飛んできた。

「わあ」

気づくと少女の目の前に壊れたドアがあった。

「どうしよう…怒られちゃう。」

「すまん。壊した。だめだったか?」

「…大丈夫です。」

そう言いながらドアの破片を小さな袋に入るだけ詰めた。

「…母様は?」

「魔王のことか?」

「はい。」

「俺が殺した。」

その言葉を聞いて、悲しいような、嬉しいような感情が心を覆った。

「この世は無情。生きたいなら強く負けない。」

「え?」

少女は転生前の母親に最後に言ってくれた言葉を思い出した。

「あなたは私を殺しますか?」

「殺さない。」

少女はため息を吐いた。

(きっと奴隷にされるんだよね。別に慣れてるし良いけど。)

「お前、属性がないのか。」

「なんか文句ありますか?」

「一緒に冒険してくれないか?」

「ん?」

予想外の質問に戸惑う少女。

「お前の能力を探してやるよ。」

「何言ってんですか?」


ゴゴゴゴゴ


部屋に轟音が響いた。

「城崩れそうだな。とりあえず脱出するぞ。」

「えっ、置いてかないでくださいよ!」

2人は出口に向かって走った。


「ここは何階なんですか?」

「…」

そよ風が吹いていて、明るく、気持ちが良い。そして、どこからともなく腐ったような、気持ち悪い匂いがした。

(3年ぶりだなあ)

「すごく気持ちが良い空間ですね。」

「…左は絶対見るなよ。」

左は異臭がする方だった。

少女は大体察した。母様だ、と。

「そう言えば…弟は、弟はもう避難したんですか?」

「…」

「殺したのですか?」

「ごめん…。」

覚悟はしていたが、改めて聞くと泣きたくなる。

「その代わり、弟が付けてたマフラーは拾った。巻いてやるよ。」

マフラーが首に巻かれると、涙が出てきた。


2人は魔王城を出て、森に入った。

2人が入った瞬間、大きな音がした。

「なんでしょう。地震ですかね?」

「…お前、目見えてる?」

そう聞かれてハッとなる。

少女は3年前に小さな部屋に閉じ込められた時に母親に目を潰されていた。

「…なんで忘れてたんだろう。」

「?」


失明した時、倒れた。倒れた時、意識だけ不思議な空間に飛ばされた。

「ここは?」

「よくきたな。」

失明したはずなのに目が良く見える。

辺りは暗く、玉座が光っていて、その上に人が乗っていた。

「神様かな?」

直感で神だとわかった。

「お前、勇者になりたくないか。」

「母様を殺せと?」

「後に魔王は変わる。利用して成り上がれ。そうしたら褒美をやろう。」

「え?」

そこで意識は戻った。


「見えてないんだったら治すぞ。」

「!!お願いします!」

優しい声の人は自分と少女の目に手を当てて魔法を使った。

「どうだ?」

「すごい…です!」

急に目に光が入り、眩しいが、緑に生い茂る木が見えた。

「わあ…すご」

振り返ると、倒壊した魔王城があった。

「…」

目が見えるようになっても悲劇は変わらない。

「あなたは…魔王ですか?」

そう言いながら振り返ると、髪が肩まである男の子が立っていた。同年代の子が母親を殺したと思うと胸が苦しくなる。

「俺は、今日魔王になった。」

(この人を…倒さないといけないのか。)

近くで見ると、赤と青の綺麗なオッドアイで、白髪。かわいいと言うより、美しいと言う言葉が似合うような男の子。

「森の奥に進もう。」


森の奥に進むと、ツリーハウスを見つけた。

「ここ、俺の家。もう夕方だし、泊まれ。」

絶好のチャンスが訪れた。少女は寝ている間に奇襲することを計画した。


夜。広い部屋で2人でご飯を食べていた。

「おい、風呂は入るか?」

「ひっ、1人で入れますよ!」

「おいおい…」

そんな会話をしながら夕飯の白米を頬張る。こんなにちゃんとした食事を摂ったのは前世ぶりだった。

「お前、名前は?」

「名前…ないです。生まれた時から人権はないから。」

「そうか。じゃあ名前つけて良いか?」

「良いですけど…」

少年は少し考えて、

「もか…とか?」

(異世界でもそういうのはあるんだ…)

「全然茶色じゃないでしょ。」

「ううむ…」

2人は悩んだ。そうして出た名前は、「くろ」だった。

少女は髪色が黒かったので、まあ良いんじゃない、となった。

「あなたの名前はなんですか?」

「俺はゆき。くろ、よろしくな。」

「よろしくです。ゆきさん。」

そうやって夕飯の時間が終わった。


お風呂も入り、あとは寝るだけと言う時。

くろは台所の包丁を盗んだ。

「これで…。」

(本当に…殺せるかな。殺せたとしても後悔しないかな。)

悩みながら客人室に戻り、準備を進めた。


「おやすみだな。」

「おやすみなさい。」

各々が部屋に戻ったところで、くろは包丁を握った。

「…」

シタシタ歩き、隣のゆきの部屋の中に入った。


「…ごめんなさいっ!」

そう言って寝ているゆきに包丁を突き刺した。

と思ったら、包丁が無かった。

「え?」

目の前には粉々になった包丁と起きたゆきだけがいた。

「…!ごめんなさい!」

「はあ。」

ゆきはため息を吐きながら起き上がった。

「俺が話したいことは2つ。」

くろは殺されることを覚悟した。

「1つは殺す相手に慈悲の心を持たない、そして少しでも価値があると判断した相手は殺さないこと。」

くろは目を瞑って静かに話を聞いた。

「もう1つは勝てないと少しでも思う奴には手を出さないってこと。」

いつ殺されるかと考えながら呼吸を整える。

「お前は強い。生きろ。」

「え?」

「帰った帰った。おやすみー。」

そう言われてくろは部屋の外に出された。

「…」


「やったあああ!強いって言われちゃった!」

うきうきしながら部屋に帰って布団に入った。



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