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「何故俺を見ないんですか?」
怜悧な目つきが、整った顔立ちのなかでいっそう際立っている。
男は片手をスッと上げ、先が鋭く尖ったハサミを私に見せつけた。
切っ先が逆光に煌めく。
オールバックの黒髪に黒いスーツだが、態度が葬式帰りではないことを如実に示している。
この男は━━━━━
刺す、打つ(撃つ)、刻む(損壊)が得意な世界の男だ。
そんな男が私を見下ろしているのだ。
果たして、何故こんなことになっているのか。
事の発端は、私が白い山茶花の咲く道を見つけたことから始まった。
仕事帰り、近道ができるのではないかと、たまたま自転車で入った路地だった。
塀の代わりなのか、白い山茶花は道路と敷地を隔てている。
高さは二メートルほど、横幅は五メートルくらい。
純白の清楚なさざんかに心奪われ、今度の休みの日に歩いて通ろうと決めた。
そして今日がその休みの日であった。
さざんかは庭木としてはあまり好まれないという。
チャドクガという毒を持った毛虫が発生するからだ。
触らなくても、側を通っただけで人の皮膚は毒の影響を受けてしまう。
さざんかに罪はないのに敬遠されてしまうとのことだった。
私はチャドクガが発生していないかを確認しつつ眺めて歩いた。
うん、見当たらない。側を歩いても良さげだ。
松の木もすごく整えられているから、もしかして庭師さんが手入れしてるのかもね。
いろいろ想像しながら花を眺めて歩いていると、枝葉の隙間から敷地内が見えた。
人がいる。
決してのぞき趣味ではない。
さざんかの花に見とれていたら、自然に敷地内まで見えてしまっただけ。
お家のご主人かな?
瞬間━━━━━
私はその場にしゃがんだ。