ジレンマという愛…。
忠志から、仕事を辞めたと聞かされて、初めてこの結婚は間違っていたと、思った。
何もかもが上手くいかない…。
何故なんだろう、何が間違っていたんだろう。
何処から…
そんな言葉しか出てこない。
忠志は、黙ったままで立ちつくしている。
私は、何もかも投げ出して逃げてしまおうと、思った。
出来ない…そんな事が出来るのなら、もっと早くそうしてたはず。
「どうして、どうして仕事を辞めたの。」
忠志「…、イヤになったから。」
「何が。」
忠志「全部。」
笑うしかなかった。
辞めた理由を「全部」で終わらせるなんて、彼らしいと、笑うしかなかった。
「で、これからどうするつもり。」
忠志「働くよ、バイトでもしながら、次の仕事先を見つけるよ。」
「だから、自分が思うような仕事なんて無いよ。皆んな、何かしら諦めて働いてるんだよ。あなたは、もう親なんだから家族の事を思って、我慢してでも働いてよ。」
忠志「そんな事、分かってる。」
分かっているならと、言いかけて言葉を飲み込んだ。
これ以上言葉に出してしまうと、自分を止められなくなる、きっと言葉の暴力で忠志を傷付けてしまう。
忠志のように親の愛情を充分に与えてられずに大人になれば、心はガラス細工のように、些細な事でヒビが入り、壊れてしまうと…
こんな時にも、忠志の心配をしている自分に呆れた。
傍で眠っている子供達の顔を見ていると、涙が溢れてきた。
私が悪いのか、こんな男を選んだ私が悪いのか、最初から、こんな男と幸せになれるはずがなかったのかもしれない。
私は、これから先の生活も不安ではあったが、忠志が仕事を辞めた事を私の親には知られたくなかった。
いや、知られるわけにはいかない。
私は、これ以上、親に心配をかける訳にはいかないのと、恥を重ねたくなかった。
蓄えたお金でどこまで持ち堪えられるのだろう。
忠志は、いつになればまともに働いてくれるのだろう。
気持ちだけが焦る。
忠志「ごめん。仕事は探すから。」
「生活出来なくなったらどうするつもり。貴方の親に助けてもらえるの。」
忠志「そんなの無理に決まってるだろ。」
「何、また私の親を当てにしているの?」
忠志「そんなつもりはないよ。」
「じゃあ、自分で何とかしてよね。」
忠志「分かってる。」
分かってる?分かっているなら、こんな事繰り返すはずない。
答えは出てるのに、これ以上は言えない。
私は、どこまで我慢すれば良いのだろうか。
いつまで、自分を騙しながら暮らすのだろうか。
一人で抱えるには辛すぎる。
でも、まだ捨てる程の勇気もない。