試練が人を育てる⁇
出産までの準備は大変だ。
生まれてくる子供の産着からベビー用ベッドまで準備するとなると、かなりの出費になる。
こんな時、女親は頼りになる。
もちろん、私の母親の事だけど
母親「生まれるまでに色々と買い揃えないとダメだから、一緒に見に行っとこう。ベッドや布団は配送してもらえば良いね。」
母親は、とても嬉しそうに初孫の誕生を楽しみにしていた。
そんな母親を見ているだけで、私も嬉しかった。
忠志は何とでもなる。と言って、相変わらず納得する仕事を探し続けていた。
私は、産休を取り、極力心穏やかに過ごす事に集中していた。
恭子「随分とお腹も大きくなってきたね。その中に人ひとりがいる何て、恐ろしいね。」
「何言ってるのよ。私達もそうやって産まれてきたんだから。」
恭子「そうなんだけど、私は無理だわ。子供を産むのも無理だし、責任を持って育てる事も無理だね。」
「子供ができれば、責任は自然と持てるよ。」
恭子「そうなの、じゃあ、忠志さんは責任感があって、定職に就かないの?」
痛い所を突かれた。そして墓穴を掘った。
「本当、容赦ないね。」
恭子「母はつよしって言うから、正恵なら大丈夫だね。」
「頑張るよ。」
母はつよし…本当にそうなのか?
恭子は、ズバズバもの言うけど、私にとっては有難い存在だ。
そして恭子といると、心が安らぐ。
だから恭子と会った日は、その反動から忠志と顔を合わせるのが苦になる。
そして忠志との会話が、仕事とお金の事になると、お互い感情的になるから、避けるようにしている。
避けて通れるはずはないのに
忠志「今日は、何処へ行ってたの。」
「恭子と会って来た。」
忠志「家に来てもらえば良かったのに。」
貴方が家にいるから気を使うとは言えなかった。
最近の私は、思った事を口に出す事が出来なくなっていた。
忠志と喧嘩になるのが嫌だからというのも理由の一つだけど、正論を吐いてしまう自分が怖かったからだ。
そんなある日、忠志が、また相談なく仕事を辞めて来た。
「今度は何があったの?もうすぐ子供が産まれてくるんだよ。」
忠志「…。」
あー、イライラする。
「黙ってたら分からないじゃない。ちょっと、何処へ行くの。」
忠志は黙ったまま出て行った。
忠志が逃げ込む所は、一つしかなかった。
そう忠志の実家だ。
仕方なく、忠志の実家へ行ってみた。
義母「あら、いらっしゃい。忠志も来てるわよ。あの子、また仕事辞めたんだっで、何か嫌な事があったの。」
そうじゃないだろう、子供が産まれるのに、父親になるのに、何をしているんだ。しっかりしろと、親なら叱って欲しい。
貴方たちは、そんな事も出来ないのか、この親にしてこの子ありだなと、呆れながら忠志と義母を見ていた。
義母「正恵さん、今日の所は、一人で帰ってくれる。」
そう言われて忠志を見たけど、彼は下を向いたまま、私の方を一度も見なかった。
「…、分かりました。」
忠志の実家からの帰り道、結婚とは忍耐なんだと言い聞かせながら、私は大きなお腹を摩っていた。
次の日、何も無かったかのように忠志は帰って来た。
「忠志さん、もうすぐ父親になるんだよ。しっかりしてくれないと。」
忠志「分かってる。ごめん。」
いつもと同じセリフ、もう聞き飽きた。
私の両親は、そんな私達をヤキモキしながらも支えてくれた。
そして娘が生まれて間も無くして、忠志もやっと仕事に就く事が出来た。
忠志「これからは僕が頑張るから、正恵とこの子を幸せにするから。」
「うん。」
私は、自分の両親に顔向けができて安心したのと、これでやっと幸せになれると信じていた。
耐えた分だけ幸せになれると…。