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終わりと始まり

35年の結婚生活に何を想う。

私、小宮正恵60歳と夫、小宮忠志65歳

子供達は、それぞれ独立して家を出ている。

長女の小宮由里は、東京の病院で内科医として勤務している。

32歳の独身、本人曰く独身主義らしい。

今の時代、結婚する事が良い事とは言えず、結婚に夢を抱く必要もない。

長男の小宮涼介30歳は、会社員で嫁と子供達を連れて海外へ赴任中、海外生活とは、何とも羨ましい。

子供達が独立して夫婦二人の生活となって8年、そんなある日、誰が言い出したのか忘れたが、卒婚とやらを、夫へ宣言してみた。

「残りの人生、自分の思うように生きてみようと思います。離婚して下さい。」

忠志「はぁ、突然何を言い出す。バカじゃないのか。」

キレる事は分かっていたが、怯むわけにはいかない。

「残りの時間を無駄にしたくないんです。」

忠志「…。」

都合が悪くなると、黙ってしまう癖は治らない。

きっと時間が解決してくれていると信じている。

昔からそうだった。

私達が結婚する時に約束した事がある。

喧嘩した時は、とにかく夫から折れて謝る。

そうしたら、私は、必ず機嫌を直して終わりにする。

夫も喧嘩が長引くのを嫌がり、分かったと、約束してくれたが、折れるどころか、黙ったまま家を出て行く、なんて事は一度や二度ではない。

驚いたのは、アパートを契約して家を出て行った事もある。

そのくせ、一か月も経たないうちに、何もなかったかのように戻って来た。

後先考えずに、その場の感情で行動する人だった。

相手に期待しない事と、娘のママ友であるサエは言うけれど、そう簡単に割り切る事が出来ないのが、夫婦というものだと、私は思う。

そんなサエもひと足先に離婚している。

サエの場合は、下の娘さんが大学入学した後、うつ病になり、どんどん痩せてしまった事に驚き、旦那さんに相談したが、旦那さんは、驚きもせず、何もしてくれなかったそうだ。

サエは頭にきて、私一人の子供じゃない。あなたの子供でもあるのに、あの子の姿を見て心配にならないのかと、怒鳴りつけたが、旦那さんは、冷めた目でサエを見つめていたそうだ。

結局、サエ一人で娘さんの病院探しから通院まで対応し、娘さんは、大学を中退する事になったが、サエの献身的な支えもあり、うつ病も少しずつ良くなり、就職も出来た。

今では、結婚して子供もでき、子育てしながら仕事もしている立派なお母さんになった。

サエは、あの日から、旦那さんとの離婚を固く決意し、離婚に向けて着々と準備を進めていた。

サエが離婚を切り出した時、旦那さんは、もっと早く離婚してやれば良かったと、自分達の関係が終わっていた事に気づいていたようだ。

そして、サエが出て行った後、サエが暮らす新居にはエアコンが付いていなかったので、旦那さんに、家に付けてあるエアコンを一台持って行きたいと、頼んだ時も必要な物は持って行って良いと、快く言ってくれたらしい。

娘さんの件は別として、サエの旦那さんは、寛大な人だと私は思った。

私の夫では、こうはいかない。

現に、口を聞かなくなってから、生活費を半分出すようにと、夫からLINEが届いた。

顔を見て話をせずに済む、LINEという便利な機能を作り出した人に感謝したい。

一昔前の夫婦なら、罵り合いの喧嘩へと発展していただろう。

私は、図体は大きいくせに、器の小さい夫からの要求を受け入れ、生活費を細かく書き出し、毎月テーブルの上に現金を置いた。

そして、家庭内別居へと突入して行った。

私が卒婚宣言をしてからは、夫へ離婚届にサインを要求し続け、夫は無視を続ける日々が続く中、子供達へ離婚する事を伝えた。

娘は、そうなの、良いんじゃないと、驚く事もなく受け入れてくれたが、息子の方は、電話越しに何度もため息をついていた。

私は、ため息の意味を息子に尋ねてみた。

息子は、ため息を一つついて、二人が幸せなら良いと、諦めたように答え、またため息をついた。

この時、私は息子に対して悪い事をしてしまったと、初めて罪悪感を抱いた。

だからと言って、離婚を回避する気にはなれず、息子よ悪い母親ですまないと、心の中で謝る事しか出来なかった。

家では、冷戦が続き、サエからは、何処かの国みたいねと、笑われた。

私達が口を聞かなくなって、三ヶ月経った頃、嫌がらせをしても折れない私を見て、諦めたのか、ようやく離婚届にサインをしてくれた。

離婚届にサインをもらってからの、私の行動は早かった。

まず、住む家を探した。(サエから60歳を過ぎると家探しも難しいと、アドバイスをもらっていたので、スムーズに事を運ぶことは出来た。)

次に、家の片付けに取り掛かった。

この片付けが大変で、泥棒が入ったのかと、思うくらい整理するには時間を要した。

子供は二人しかいないはずなのに、子供達が使っていたお弁当箱が50個も出てきた時には、我ながら物持ちが良いと、関心した。

洋服と靴は、殆ど処分してミニマリストとして生きていこうと決めた。

こうして、紙切れ一枚で他人となる作業を淡々と進めながら、新たな人生のスタートを切ろうとしていた。

結婚には、始まりしかない、離婚には、終わりと始まりがある。

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