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41.クラークスの最期

 クラークスは撃った。自らの胸を、その銃をもって。


 刹那にジュードは目を見開き、叫ぶ。


「――馬鹿野郎! 死ぬんじゃねえよ!」

「いやだね、罪を償う? そんなくらいなら……僕はここで終わりがいい」


 血反吐を吐きながらクラークスは言った。胸に空いた風穴を塞ぐ方法など、ない。ポーションを塗り込んだところでどうしようもない。


「てめえ! 最初っから決めてやがったな!? こうなったら、死んでさよならだ、って!」


 青ざめた顔で、クラークスはニヤ、と笑う。


 ……だから、クラークスは、ずっと飄々としていたんだろう。

 自分に迫るジュードのこともいつでも消せたのに泳がせて、遊んで。

 追い詰められても自分は逃げられるから、と。


 そういう気持ちでクラークスはずっと、人の気持ちを弄び、ゲーム感覚で遊んでいたのだ。


 いざという時は、こうして死んで、一切の罪を償わないまま逃げ切る気でいたのだ。


「最低……!」


 思わず口をついて出た。


 クラークスは笑ったまま目を閉じた。その顔があまりにも美しいままで、腹が立つ。

 こんなふうに逃げられるなんて考えてもいなかった。


 衛兵たちも狼狽え、ざわめいていた。


「……クラークスさま……!」


 幼い少女の声が、ざわめきの中で響く。


 庇われるように部屋の扉近くに控えていた衛兵らの後ろにいたカメリアが、この動揺の隙をついて衛兵の前に出て、血まみれで横たわるクラークスに駆け寄った。


 カメリアはボロボロと大粒の涙をこぼし、クラークスの白魚のような手をとる。


 ぎゅっと強く目を瞑り、そして、部屋中が白い光に包み込まれた。


「……これは……」


 部屋にいる全員が、息を呑む。


 聖女の奇跡だ。


 聖女が死にかけの男を癒した。

 身体に空いた大きな穴はみるみるうちに塞がり、青白い顔にもたちどころに血色が戻る。


 クラークスはこれ以上ないほど目を見開き、傍らで座り込む聖女・カメリアを見下ろした。


「おい、おいおいおい、ふざけるなよ、なんてことしてくれるんだ、おまえ」

「……だ、だって、あたしは、死んでほしくなかったから……」

「は……?」


 クラークスの整った顔が引きつる。


 ひっく、ひっくとカメリアがしゃくり泣く声が静まりかえった部屋に響いた。


「あ、あたしに一番やさしかったのは、クラークス様だから……クラークス様がいなくなったら、嫌だから……」

「――っざけんな!」


 ずっと穏やかであったクラークス。彼が声を荒げる姿は初めて見た。

 顔に青筋を立て、クラークスはカメリアに激高する。


「お前なあ! こんなことさせるために僕はお前を拾ったんじゃない! 最後の最後に、とんでもないことしやがって……!」

「や、やめて! もうそんなことしないで!」


 クラークスは小さな手のひらで制止しようとする少女を蹴飛ばし、もう一度自らの腹に銃口を突きつけた。


「……馬鹿野郎!」


 そんなクラークスの頭を、ジュードが蹴り飛ばした。周りを囲む衛兵たちよりも早く。


「ぐ……ッ」


 床に打ち付けられたクラークスの頭をジュードが踏みつける。


「テメェが助けて騙し続けたガキに、助けられて逃げ道を失うか」

「……ジュ、ジュード……!」


 頭を蹴られて、もう意識が朦朧としているのだろう。回り切らない呂律でクラークスは苦しげにジュードの名を呼んだ。


 ジュードはそれをハッ、と鼻で笑い、口元を歪ませる。


「アンタにはお似合いの皮肉だな。アンタはこれからどう足掻こうが逃げられねえ、生きて罪を償い続けるんだよ」


 吐き捨てられたジュードの言葉に、クラークスからの返事はなかった。




 こうして、『聖女』を隠し続けていた国の巨悪クラークスは捕えられたのだった。


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