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34.打診


 思わず目を見開く。

 いや、まさか。


「だって、カメリアは……」


 生まれつきずっと足が悪い。そのうえ、彼女は偽者である私のことをとてもキラキラとした目で見てくれていた。

 そんな彼女が本物の聖女だなんて。


「アイツ、刺繍を習ってるんだってな。でもなかなかうまくならなくて、昨日もいっぱい手を刺してしまったって話してた」


 でもな、とジュードは一拍置いて二の句を告げた。


「針を刺したって痕が手のひらのどこにもなかった。綺麗なつるつるの手をしてたよ」

「そんなに深くまで刺していなかったら目立たないんじゃない?」

「穴が空くほどよく見た。クラークスにやたら懐いているのも怪しかったからな」

「他の子どもたちだって、クラークスに好意的だったじゃない」

「カメリアはそんな中でも特別そうだった。言っちゃなんだが、異常なくらいに」


 そこからジュードはカメリアにアタリをつけたというのだろうか。

 驚く私をジュードは軽く笑い飛ばす。


「たまに顔を見せに来るだけの王子様にそんなに懐くかよ。あの子、ロザリーよりもクラークスの方に懐いているようだったぜ」


 ロザリーはいわば、彼らの雇い主であり保護者的立ち位置の人物で生活を共にしている。ジュードいわく、他の子はロザリーを一番信頼しているようだったが、カメリアだけはクラークスのことばかりを語っていたと言う。


「……お待たせ。今日はありがとう。ねえ、ジュード。折り行ってお話しってなあに?」


 ジュードがそこまで話したところで、ちょうどロザリー様が部屋に入ってきた。パーティがお開きになったところで帰る予定だったところを、ジュードが「これから話をしたい」とロザリー様にお願いしたのだ。


「カメリアを引き取りたい」

「えっ」


 ロザリー様が目を丸くする。


「私は……兄が王位についたら、城を出て、領主に恵まれない地方を治めることになると思うんです。その時に、カメリアを使用人として引き取りたいな、と」

「まあ……。いいの? ほんとうに?」


 ロザリー様は戸惑いつつも、声色には嬉しそうな色が混じっていた。


「あの子は見ての通り、足が悪くて人の手助けが必要な子だし、歳よりも少し子供っぽいところもあるのに」

「ええ。むしろ、それもあって……。彼女みたいな子どもを雇用するにはある程度余裕が必要でしょう? あえて彼女を引き受けようとする人物が善良とも限りませんしね」

「……そうね」


 ジュードがそう口にすると、ロザリー様は軽く目を横に逸らしながら小さく頷く。


「あの子のことはずっと心配だったの。あなたがカメリアの主人になってくれるのなら私も安心だわ。クラークスも自分の弟がそうなってくれるなら私と同じ気持ちだと思う」


 ロザリー様の話す言葉は、演技ではなくて本心な気がする。


「でも、正式なお返事は念のためクラークスに確認してからでいいかしら? あの子のことはクラークスも特別気にかけていて……。もしも引き受けの希望があったら、自分に話を通してからと強く言われているの」

「そうなんですね。もしかして、カメリアは兄が連れてきた子なのですか?」

「ええ。クラークスがたまたまスラム街の近くで見かけたらしくて……どうも、人売りに連れていかれるところに出くわしたみたいで」


 ジュードの目つきが一瞬険しくなる。ロザリー様の手前、すぐに表情を和らげたけれど、ロザリー様から得た情報で『カメリアは聖女だ』と確信を強めたのだろう。


「……どうして兄はそんな治安の悪いところに足を運んでいたんでしょう」

「クラークスはこの国の現状を憂いているのよ。聖女不在が続いて荒れ果てた国の状態を知るために、そういう危ない場所にも良くお忍びで視察に行っているみたいなの」

「義姉様も同行されることもある?」


 ロザリーは少し視線を彷徨わせてから、首を横に振った。


「……数年前にクラークスに無理を言って、連れて行ってもらったことはあるの。でも、わたくし、怖くてあまりその時の記憶がなくって……」

「そうなのですね、大丈夫。他人に言ったりしませんよ」

「そうしてちょうだい」


 ふう、とロザリー様はため息をつかれた。頭が痛いのか、額を手で抑えられていた。


(ロザリー様は、クラークスがしようとしていることはご存知のはず。……だけど)


「ところで、義姉様。この間、兄と一緒にデイリズに行きませんでしたか?」

「あら、良く知っているわね。ええ、クラークスと一緒に出かけたわ」

「パーティにでも参加されたのですか?」

「そうよ。でも、私、ひどくお酒に酔ってしまったみたいで……気がついたらクラークスに連れられて家まで送ってもらっていたわ」


 デイリズの乱行パーティで見かけた彼女は、薬物がかなり回っている様子だったから、記憶の混濁も無理がないだろう。


(ロザリー様は……もしかして、ずっと前からクラークスに薬物を使わされていて、記憶がハッキリしていないことが多かったんじゃ……)


 ともすれば、ロザリー様はクラークスの行いをあまりハッキリとは認識していない可能性もある。

 ロザリー様はまたため息をついて、頭を押さえているようだった。


「……あまり体調が優れなさそうですね。すみません、お忙しいのに疲れさせてしまいましたね」


 ジュードが柔らかな声でロザリー様に話しかける。ロザリー様は「いいえ」とはにかんで応えた。


「こんな姿をお見せしてごめんなさいね。カメリアの件はクラークスに伝えておきますから」

「ありがとうございます。では、また」


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