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28.実は


 もう猶予がない。

 陛下が亡くなれば、今の状況ではクラークスが王になる。


 王城の例の秘密の部屋で、私とジュードは互いに焦燥感にかられていた。


「……思ってたよりも早かったな、あのクソ親父。もう少し持ち堪えろよ」


 ジュードは舌打ちする。


「子どもを産むのに向いてない女を何度も孕ませたくせに、てめえだけアッサリ逝こうとしやがって」

「……そういえば、あなたとリーンもだけど、クラークスとあなたも歳が離れているわよね」

「ああ。母上は本当なら、クラークスを産んで、もうそこで身体は限界だったんだよ。それをあのクソ親父……」


 忌々しげにジュードは顔を歪める。

 彼がもつ父親への嫌悪感の根幹はそこか、と思うと胸が痛んだ。


「クソ白々しいことばっか言いやがってクラークスのやつ。お前が死ぬように仕向けたんだろうが」

「本当にね、笑えないけど、笑っちゃうくらい白々しいわよね」

「さっさとこの国を帝国に売っちまいたくて仕方がねえみたいだな、はー、本当にクソ野郎」


 いつも以上にジュードの言葉遣いが汚い。


「クラークスの罪をちゃんと裁くのなら、国王陛下には存命でいてほしいわよね。罪の判定人がいなくなってしまうから」

「ああ。アイツに洗いざらい全部悪事を吐かせて、償わせるなら、そうでないといけねえ」

「……ねえ、もしもよ。どうにもならなかったら、あなたはクラークスを殺してでも彼の悪事を止める?」


 何もかも、うまくいかなくなってしまったら。彼の命を絶てば、少なくともこれ以上の悪事は食い止めることができる。


「死んじまったら、アイツがしでかしたことの全貌もわかんねえし、手先だって生き残ったままになる。意味がねえ、それだけは絶対にしねえ」

「そっか……」


 それを聞いて、少し安心する。使命あってのことだとしても、彼が兄殺しを――人を殺すのを是するのは考えたくなかった。


「アイツは絶対に生きて罪を償わないといけねえんだ。死んで終わりなんて楽をさせちゃいけない」

「……そうよね。私もそう思うわ」


 陛下の命があるうちに、クラークスの罪を認めさせてみせる。この国を滅びの道にへは向かわせない。


「そして、少しでもまともになった状態でリーンにバトンを渡さないといけねえんだ」

「……あなたがずっと治めるんじゃなくて?」

「リーンのが俺よりよっぽど国王に向いてる。アイツ、賢いしな。リーンが成人して、なんか国がいい感じになったら王位はリーンが就くべきだ」


 リーンはたしかに、聡明そうだ。だが、ジュードがこうも断定するのも意外だった。王は権力に伴う責任を有する。ジュードはそれを弟にはさせたがらないような気がしていたのに。


「……俺はな、お前と婚約してでもないと王位継承権は最下位だったんだよ。身体が弱かったから」


「……え?」

「え、ってなんだよ」

「あ、いえ、びっくりしたから」


 どう見ても元気そうに見えるのだけど、驚く私を、ジュードはフッと小さく笑う。


「ま、今はな。だいぶ良くなったんだよ。でもいつまた急に具合が悪くなるかもわかんねえからな」


 でも、そういえば、ジュードのことをそういうふうに含みを持たせてコソコソと話していた人たちが夜会の時にいたかもしれない。アレは、ジュードの身体が弱かったから――だったのか。


(お母様も身体が弱い人だったということだから……遺伝、かしら……)


 ジュードはなんだか懐かしそうに目を細めた。


「俺、小さいときには寝込んでばっかでさ。そういうのもあって、王位を継ぐことは全く期待されていなかったんだ」

「そうだったの?」

「ああ。なんなら死んでもいい、ってくらいの扱いだった。……だから、しょっちゅう城を抜け出して街に降りてた」

「身体弱かったんじゃないの!?」

「つまんなかったからな」


 ジュードはケロッとした態度で言う。


「よくそんなことができたわね。いくらなんでも、一国の王子様なのに……」

「まあ、クラークスが似たようなところに入り浸ってて俺のことも上手いとこ言っておいてくれたからな」

「……え?」


 ここでクラークスの名前が出てくる? 目を丸くする私に、ジュードはゆっくりと頷いた。


「えっ、待って、あなたがクラークスが陰で悪事を働いているのを知ったの、って……」

「現場で見てたからだよ、途中で『おかしい』って気づいて離れたけどな」

「……なんてこと」


 王子二人が治安の良くない場所に入り浸っている王国とは。どれだけ治安が悪いんだ、うん、ほんとうにすっごい悪かったな当時。


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