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23.聖母、その愛

「彼の婚約者として生まれてこれたこと、これこそがわたくしの生の最大の幸運だったと思っておりますわ」

「うふふ、コルネリア様。ロザリーお嬢様はいつもこうなのです。わたしたち使用人にもたくさん第一王子殿下のお話をしてくださるのですよ」

「そ、そうなんですね。……第一王子殿下があなたたちの様子を見にいらっしゃることも多いのですか?」

「はい! そうなんです」


 アザレアさんは顔を綻ばせて答えた。


「我が公爵家は昔から身寄りのない子供たちの救済を行ってきましたが、聖女様の不在が長引いて、そういった子供たちが増えてからは全ての子には手を差し伸べることはできなくなって……。クラークスは我がロバーツ家以外にも子供を引き取る余力のある貴族を探して受け入れ態勢を整えたりと、そういうこともしてくれているのです。本当に、優しい人で……」


 ……昔からこの取り組みをしているロバーツ家よりも、むしろクラークスの主導で協力するようになった貴族たちこそ怪しいだろうか。困っている子供たちが何か良からぬことに悪用されていなければいいのだけど……と考えていくと、少し背筋が冷える気持ちになった。


 うっとりと語るロザリー様からは、クラークスに対してのやましさは一切感じない。彼女はただ、愛しい婚約者のことをただただ惚気ているように見えた。


「クラークス王子殿下はわたしたちにもお優しいんですよ」

「そうなのですね、私はまだあまりお話をしたことがないので、また機会があれば今度はジュードも一緒に、お話ができたら嬉しいです」

「ふふ。そうですわね。……やだ、もうこんな時間?」


 それとなく、話を切り上げようとすると、ロザリー様は時計に目をやり、驚いた表情を浮かべた。

 とうとうと語られ続け、圧倒されていたけれど、気づけばもうすぐ神殿に戻らないといけない時間が迫っていた。


「では、馬車にお乗りになるまでお送りいたしますわ。アザレアも一緒に」

「ありがとうございます」


 用意していただいたお部屋を出て、大広間の階段下まで来たところで、ガタッと大きな物音がした。


「――きゃっ!」


 続いて聞こえたのは、女の子の高い声。ギョッとして階段の上を見上げると、そこには黒い髪の小さな女の子がうずくまっていた。


「あ……」

「カメリア!」


 ロザリー様が悲鳴をあげる。使用人であるアザレアさんよりも、誰よりも早く少女の元に駆け寄って行った。少女の肩を抱き、大きな怪我をした様子がないのを確認すると、ロザリー様は傍目から見てもわかるほどハッキリと安心したようにため息をついた。


「カメリア。ダメじゃない、この時間は刺繍をしているはずでしょう?」

「あ、ご、ごめんなさい。あ、あたし、どうしても……聖女様をひと目見てみたくて……」

「……もう。それなら、前もって言ってくれたらよかったのに。そうしたらあなたもちゃんとコルネリア様に紹介していたわ、一人で無理して歩いては危ないでしょう?」

「はい。ごめんなさい、ロザリー様」


 カメリアと呼ばれたのは手足のとても細い少女だった。年はまだ、十歳くらいだろうか。小柄で華奢なせいでそう見えるけれど、もしかしたらもっと上かもしれない。


 ロザリー様に支えられて立ち上がった彼女は、真っ黒い瞳で私を見つめていた。ふと目が合うと、恥ずかしそうにはにかんでロザリー様の後ろに隠れてしまう。


「ごめんなさいね、コルネリア様。好奇心は旺盛な子なのだけれど、人見知りで」

「いえ、そんな。かわいらしいお嬢さんにまた一人お会いできて嬉しいですよ」

「……」


 カメリアは小さく「わぁ」と感嘆するように吐息を漏らしたようだった。


 なんとなく、キラキラとした目で見られている気がする。


(聖女に憧れてる女の子かしら……。こういう純粋な瞳、罪悪感がすごいのよね……)


 私が後ろめたさから、純粋に「聖女様」と慕われるのが苦手だった。苦手とか言ってられないから開き直るしかないんだけど、でもやっぱり真正面から憧れの眼差しを向けられるとどうしてもどうしても良心が痛む。


 ロザリー様はアザレアに指示を出して、カメリアを二階のどこかの部屋で連れて行かせたようだった。その後ろ姿を眺める私に、ロザリー様は苦笑混じりに話した。


「カメリアは生まれつき足が悪かったみたいで、それで親から捨てられてしまったようなの」

「そう……なのですか」


 彼女はアザレアにもたれかかるようにして、ゆっくりと歩いていた。


 足が悪いとわかると、彼女の身体の細さにも合点がいった。日常的に歩く機会が少ないから、筋肉が細くなってしまっているのだろう。


「だから、重労働のメイドの仕事はさせられませんからね。彼女にはもっぱら刺繍や裁縫を教えているのよ。とてもいい子だから、どこか良い働き口が見つかると良いなと思っているのだけど……身体のことだけでなくて、性格的にも人を避けるところがあるから心配で」

「そうですね……」


 今はとにかく、みんな自分のことで精一杯な時代だ。足の悪い彼女の扱いは、かわいそうだけれど、どうしても悪くなるだろう。同じくらいの能力の子と比べたら、身体的に支援する必要のない子の方が労働力としては選ばれやすい。

 ……クラークスがしようとしていることを阻んで、国全体の治安や生産力の向上に努めればこういう立場の子も働きやすい未来を作ることができるだろうか、とふと思う。


「できれば、外の世界に出られるようになってほしいけれど、どうしても厳しければあの子はずっとここにいてもらおうかしらと思っているのよ」

「年齢的なところもあるでしょうし、次第に克服していけると良いですね」

「ありがとう。コルネリア様はやっぱりお優しいわね」


 上品に微笑むロザリー様こそ、まるで聖母のようだった。


(この人が……本当に、クラークスの悪事を知ってなおクラークスを庇う……?)


 ――好きな男を売るわけがねえだろ。


 ジュードはそう言っていた。でも、本当に、そうなのだろうか。


 ロザリー様はクラークスのことをどこまで知っていて、わかっていて、彼のことを想っているのだろうか。

 今日の彼女との会合では、彼女が――とにかくクラークスという男を愛しているらしいということしかわからなかった。

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