新しい関係と少しの勇気
高校生活が始まってから1カ月が経ち、一哉も少しずつ新しい環境に慣れてきた。最初は太一に頼りきりだったが、最近では自分からクラスメイトに話しかけることが増えてきた。
ある日、一哉が昼休みに教室で弁当を食べていると、隣の席の男子生徒が声をかけてきた。
「白鳥くん、いつも昼はここで食べてるんだね。よかったら一緒に食べようよ!」
彼の名前は木下修斗。明るくて少しお調子者の修斗は、クラスのムードメーカー的な存在で、誰とでも気軽に話す性格だ。一哉は少し戸惑いながらも、その誘いに乗ることにした。
「いいのか?ありがとう、じゃあ一緒に」
修斗のグループには他にも数人の男子がいて、彼らも気さくに一哉を迎え入れた。昼休みの会話は、くだらない冗談やゲームの話題が中心だったが、一哉は不思議と心地よいと感じていた。今まで一人でいた時間が、少しずつ色づいていくような気がした。
その日の放課後、ふとした偶然で一哉と明日香は再び顔を合わせることになる。
一哉が図書館で参考書を探していると、向かいの席に明日香が座っていることに気づいた。彼女は真剣な表情でノートに何かを書き込んでいる。おそらく、次のテストに向けた勉強だろう。
「また…数学かな」
一哉は軽く微笑みながら心の中でそう思った。しかし、今回は声をかけるべきか迷った。前回のように、彼女が自分に話しかけてくれるのを待っているだけでは、何も進展しない。
勇気を振り絞り、一哉はゆっくりと明日香の近くに歩み寄った。
「藤井さん、また数学で困ってる?」
その言葉に、明日香は少し驚いたように顔を上げ、すぐに笑顔を見せた。
「あ、白鳥くん!うん、ちょっとね…実はまた分からないところがあって…助けてもらえるかな?」
「もちろん。前回と同じ感じなら、たぶんすぐに解けると思うよ」
一哉は自分の席からノートを持ってきて、明日香の隣に座った。彼女のノートを見ながら、丁寧に問題を解き明かしていく。一哉の説明は明快で、明日香もすぐに理解したようだった。
「本当にありがとう!白鳥くん、すごく分かりやすいね。勉強が得意なんだね」
「いや、そんなことないよ。ただ数学がちょっと得意なだけで…」
一哉は謙遜しながらも、心の中では少し嬉しかった。彼女との距離がまた一歩縮まったような気がした。
その週末、クラスの担任が文化祭についての話を持ち出した。毎年恒例の大イベントで、生徒たちが各クラスで様々な出し物を行う。
「さて、今年も文化祭が近づいてきたぞ。みんなで出し物を決めるから、アイデアをどんどん出してくれ」
クラスが活気づく中、一哉はどうしようかと考えていた。太一が真っ先に手を挙げて「お化け屋敷がいい!」と叫び、クラスメイトの笑いを誘う。だが、他の生徒たちはカフェや屋台など、もっと現実的な案を出し始めた。
「青春をテーマにしたカフェなんてどう?」
クラスの中央から、明日香が手を挙げて提案する。彼女の発言はすぐに注目を集めた。明日香は、自分の提案に少し照れた様子を見せながら続ける。
「例えば、来場者が自分の青春時代の思い出をシェアできるようなカフェにして、壁にメッセージを書いてもらったり…そんな感じのイベントをしてみたいなって」
クラスメイトたちは興味津々に彼女のアイデアを聞いていた。一哉もその提案に興味を惹かれ、無意識に頷いていた。明日香が言う「青春」というキーワードに、一哉は何か心が揺れるものを感じたのだ。
放課後、一哉はクラスメイトたちと文化祭の話をしているとき、ふと自分ももっと積極的にならなければいけないと感じた。これまでの自分なら、ただ流れに乗るだけで終わっていただろう。だが、今は少し違っていた。
「カフェのアイデア、俺もいいと思う。やってみたい」
その言葉を口にした瞬間、クラスメイトたちの視線が一斉に一哉に向けられた。普段あまり発言しない彼が、自分の意見を表明したことに少し驚いているようだった。
「白鳥くんが言うなら、みんなで協力してカフェを成功させよう!」
太一がすかさずフォローし、他のクラスメイトも賛同する声が次々と上がった。一哉は自分の言葉がクラスメイトたちに受け入れられたことに、内心で大きな喜びを感じた。
「やっぱり、一歩踏み出すことが大事なんだ」
そう自分に言い聞かせ、一哉はこれから始まる文化祭の準備に向けて、新たな気持ちで臨む決意を固めた。
文化祭の準備が始まり、クラスメイトとの絆が少しずつ深まっていく。明日香との距離も縮まり始めた一哉だが、これから待ち受ける様々な出来事が、彼の成長を促していくことになる。彼の新しい高校生活は、まだ始まったばかりだ。




