タイトル未定2024/04/18 01:54
誠に勝手ながら、一度打ち切らせてもらいます。
しん、とコメント欄が水を打ったように静まり返る。それを確認してから、俺はゆっくりと口を開いた。
「...俺はな?アンチコメだろうがお気持ちコメだろうが、どれだけ投げられても問題はない体なんだよ」
「その割には、私のコメントを見て号泣してたけどな」
うるせえ。俺は流れ作業で横にいるロウの口を片手で強制的に塞いだ。
「...こほん。あー、個人情報というのはそれだけで大炎上のきっかけとなるんだ。そして、お前は今その禁忌を破った。妹者、お前が誰なのかは知らんが...お前には、うちの事務所のライバーになってもらう。これは強制だ。明日親父に言って強制的に来るように指示されるだろうから、頑張れよ」
「...私は将来の義理の妹の顔を早く見たいッ」
「うるせぇ!ロウとは結婚するどころか恋愛にすら発展しねえよ!」
復帰配信という名の、俺が新事務所所属となった一連の配信は、最高同接数が脅威の20万超えだった。これは、最大手の企業の中でもトップクラスの集客を誇るライバーが、3Dライブやらなんやらで集められれば凄い、というような数である。飛び交ったスパチャの合計額は、途中から寛太という名の取締役が大量に投げ始めて再び上限ラッシュが起こったので、これまた3576万というなんとも区切り悪くも莫大な額となっている。
それに加えて、妹者...卯月なんとかの、ライバー化確定演出が入った。これはまあ、当たり前だろう。そもそも、人として、ネットを使用するものとしては個人情報漏出というのは最も犯してはならない禁忌なのだから。それを踏み越えるようなことがあったのだ、多少の灸は必要だろう。...それはともかく。
俺は今、無人島に三人を導いていた。
「ってことで、どうも。こっちの方では素の感じのテンションで配信していくぞ、クロだ」
「おいおい、インターネットのモラルなんてなくて良いだろ?だって、俺たちの仲じゃないか!」
「うるせえ。セクシャルハラスメントコードで牢獄にぶち込むぞ」
「おお怖い。ああ、一応ロウエンだ」
「一応ってなんだよ」
俺たちは、現在配信を行なっている。テンションは激低。
「...二人ってやっぱり夫婦漫才じゃないっすかねえ?」
「はっ、んなわけねえだろノエル。俺は恋仲になる気なんてねえよ」
俺のその言葉に、ロウが俺の前ににゅっと現れた。
「それは少しショックなんだが?あの頃の逆ネカマをして素のクロを見ていた私というこの島の最古参から言わせて貰えば、あの時のお前はもう一押しすれば私に落ちそうだったのに」
「なっ、な訳ねえだろ!?アンチコメに対して固められた心の鎧は優しい言葉には弱いんだよ!」
「真っ赤になってるぞ?ん?可愛すぎか?」
「うるせえ!」
ついでにロウを押して、海水に浸す。ざまあみやがれ。
「...ッハァ!離岸流怖い」
「自業自得だろ。それと、ロウは運営に行ってbanするからな」
「おっと、それは困るな。私だって、ここでクロと私の愛の巣を築きたいんだ」
あまりにもおかしい言動ばかりしているロウ。ちょっとどころではなく心配になってくる。
「...ネジ外れたか?大丈夫か?」
そう言って顔を覗き込み、額に俺のそれを当てる。
「熱く...はないな。単純にぶっ壊れてるだけか?」
そこでようやく、俺はロウからの返事が一切ないのに気づいた。
「...ロウ?本当に大丈夫なのか?」
つん、とつつくと。
「...ふしゅぅ」と、おおよそ人があげる音ではない効果音の如し声をあげて、現実のそれに準拠した平たくも仄かに存在する胸が俺から離れて、ロウは後頭部を強か砂浜に強打した。
砂浜はセーフゾーンだったのだろうか、砂浜に接触したロウの後頭部は紫電を上げて一瞬にして斥力が発生したのか頭が跳ね上がっていたが...2回めは発生せず、砂浜にぶつかったのではなく金属を殴りつけたような、ゴン!という鈍い音が響いた。遠くの方の砂浜から、おそらくのちに肥料とするのであろう貝殻を収集していたノエルの驚く顔が見えた。