復帰配信
最後の配信をして丁度半年。俺は、よくコメントをくれる『†二条 優姫†』と『雹堂†刀也』の二人と【Vの家前に、今日の17時に集まりましょう】というコメントを貰って、16時半に配信を切り上げて、同時に実名で作ったチャンネルを削除して、16時50分に下に降りた。家の前にはロウエンさんとノエル君がいて、何をするでもなく適当にくつろいでいる。俺も、彼等に倣って暫くは待つことにした。15分以内に来なければ、家の中に戻ろう。
...だが、俺の期待は裏切られて彼らが来る事は無かった。時折、二人が俺の顔をちらちらとみるが彼等も俺同様待ち合わせしているのだろうか?
そして、17時16分になり。彼らが来なかったことに落胆してマンションに入ろうとすると、「「おい」」という二重の声が俺を呼び止め、次いで二つの腕が俺の両肩を掴んだ。
「...なんですか?私は、誰も来ないので戻ろうとしているだけで...」
戸惑いながらにそう言うと、二人は目を見開き...そしてほぼ同時に、「...はぁ」と溜息を吐いた。
「「私(俺)がその待ち人だよ!」」
理解不能。
「...ということがあったんですよねー」
『ほぅ、今までは実名で配信していたと。うrlよろ』
「残念、チャンネルはもう消しましたしそもそもアーカイブは残らない設定になってたので意味ないですよ?」
「ホント、クロはニブチンで猫かぶりだな。元の方じゃ『俺』が一人称だったのに」
「...あの、イメージ戦略って言葉知ってるかな?」
18時からは、俺達3人で配信をしている。コメントの流れは今までと変わらないが、復帰配信ということで心なしかいつもよりも多い同接数を記録している。ともすれば、それは俺とロウエンさん...二条優姫、ノエル君...雹堂刀也の3人がコラボしているからなのかもしれないが。
「では、ずっとSTOにうつつを抜かして配信を怠っていたクロに報告があります」
「はいはい...で、何ですか?」
「自分の、説明欄のタグをご覧ください。読み上げてもらえると、理解できると思うよ」
何を言っているんだ。俺はヴェアヴォルフ所属ライバーやぞ?
「えーと、#黒様、#KiKuNo、#デュアルソーズ...デュアルソーズ?」
俺が疑問たっぷりに答えると、優姫は無い胸を張り、
「そうだ!報告というのは、まずヴェアヴォルフから脱退して企業を創った」
「ほうほう。軽く調べてみると二条グループ代表の二条寛太が取締役...あの人、そんな人だったのか」
「ついでに言えば、親馬鹿ながらもまともな経営者である私の父親だ。そして、ヴェアヴォルフは消滅」
「え?なんか重大な事の二連続だったんだけど」
『ない胸張って、誰にアピってるのかな?^^』
『↑明らかにノワールだろ。クロ呼びで、しかも今も稀にメスの顔出してるぞ』
『マジかよ。じゃあノエルは?』
『このメッセージは消去されました』
『ノエルは単純に限界化した黒子やから。BL展開は無いゾ』
『ユニコーン早速湧いてて草』
『ゑ?ヴェアヴォルフって、ロウエンのために創られたんだ』
『〈妹者〉¥50,000 兄者、お納めくださいませ』
『この反応、ノワールはなんも知らんかったんか』
『うせやろww』
『お、珍しく妹者が危険信号じゃなく普通に上限スパチャしてる』
『妹者を囲め!そして配信してもらうんだ!はぁはぁ』
『妹者ガチ恋勢初めて見たわ。ひくわー』
コメントはすごい流れている。
「あれ、妹者が普通にコメントをしていて、警告コメじゃない...だと...!?」
「なんでそんなに驚いているんだ」
「警告がない上限なんて物足りない!解釈不一致だ!」
「ああ、こりゃ荒れるね。クロ、乙」
『¥50,000 これがええんか?』
『¥50,000 やっぱりこれなんだよなぁ』
『¥50,000 盛り上がってまいりました』
『¥50,000 ktkr』
「わお。上限赤スパありがとうございます。というかロウ、乙とかいうな」
「実際そうだろー?うりうりー」
「やめろ。外から見ていればいちゃついているようにしか見えねえ」
「良いじゃねえかー、私たちの仲だろー?」
「...そういやコイツ、俺のSTO配信最初から見てたな」
ちょっと恥ずかしいからやめて欲しい、などという本音を言う事は無い。そうすればネットのおもちゃ化は確実だ。...最も。
『¥50,000 ご祝儀代』
『¥50,000 ロウクロって事か?てぇてぇの波動を感じている!』
『¥50,000 ↑てぇてぇではない。これは、少し恥じらいを覚えた男子高校生と、その幼馴染で自分に恋なんかされるはずなんてないと言う間違った確信を抱いた高校生無意識カップルだ!』
『〈妹者〉¥50,000 不束者の兄ではございますが、父の部署共々ご愛顧くださいませ』
『¥50,000 高校生じゃねえんだよなあ...。』
『¥50,000 上限スパチャが基本になっていて草』
『¥50,000 妹者いたぞ!囲め!そして何としてもライバーにするんだ!』
上限が飛ぶ中、一つの気になるコメントが流れてきた。
『〈妹者〉¥50,000 嫌じゃ!私はッライバーになどなってやるものか!卯月の家に誓って、悠音母様の名に懸けて!私はライバーにはならん!』
「...おい、手前。いつから俺の個人情報を漏らしていいなんて言ったんだ?人様の忠告は聞いてやろうと思っていたが...オイ、妹者。テメェ、このことは同落とし前付ける気してんだ?まさか、このまま何事もなかったかのように帰る...なぁんてことは、ねえよなぁ?」