ある意味伝説の初配信
オルタービアの場所にスポーン座標を固定した瞬間、俺の身体を虹色の多重円環が包んで行った。いや、これよく見たらゲーミング多重円環だ。まあ、どうでもいいから置いておくが。
そして世界は蒼に包まれて...。
「...っと」
再び蒼が世界を包んだ瞬間、俺の身体はぽかぽか陽気に包まれていた。体感的には、4月の半ばぐらい。摂氏で言うなら15度前後と言ったところだろうか。ほんのり潮の匂いがする風が体に当たって、とても心地良い環境だ。これぞまさに桃源郷だな。いや、ここは〈幻想郷〉だったか?
『称号:〈オルタービアの先駆者〉を入手しました!スキルポイントが10加算されます!』
『称号:〈無人島の発見者〉を入手しました!スキルポイントが10加算されます!』
『称号:〈無人島の住人〉を入手しました!スキルポイントが10加算されます!』
『称号:〈うちの運営陣限定スタダ用スキルポイント付与〉を入手した。とりあえず、スキルポイントは500加算な』
と、突然そんな合成ボイスによるアナウンスが流れた。最後の一個のボイスは聞いた事のあるバリトンボイス...岸堂祐希だろう。親父に潜っていないか言われるって、何やってんだか。
【ワールドアナウンス:オルタービアが発見されました。発見者に50のスキルポイントが加算されます】
?なんでワールドアナウンスが流れたんだ?俺は親父に言われるがままここにきただけなんだが...?
...ああ、そういえばこのゲーム自体は運営陣は親父達じゃなくて『Alia』にあるんだったな。そりゃ、身内内での特別隠しコマンドできたこの場所が運営としてのエンドコンテンツ...明らかに今来る場所ではないと言うことも十二分に考えられる。
だからと言って、控える気はさらさらないがな。
「...どうもー。初めまして、黒う...じゃなくて、〈莉華〉です。まあ、誰も見てはいないが配信を始めます。...このサービス、気づく奴はいるんだろうか」
俺は、STOの対応ハードである〈AL-02〉の、STO限定特別版に付けられたデスクトップpcのUSBコンセント対応であるケーブルを、通常時には使われない緊急配信用のデスクトップpcにブッ刺しておいた。あとは、このように任意のタイミングで配信を始められるってわけだ(右手の人差し指で、上から下にフリックするとメニューが出て、それの一番下に配信という物があるのでタップすると配信が始まる)。
同接は...0だ。まあ、最初はこんなものか。俺だって、ヴェアヴォルフという企業がほとんど無名と言っても過言じゃない時期にデビューしたクチである、初配信は2桁後半の同接、その後も暫くは同接2桁前半から3桁に行けばラッキーと言う日常。普通の人だったら心が折れて雲隠れしただろうが、一期生の牙王ロウエンの初配信は同接0だったそうだし、初めてこの業界に飛び出した始祖のライバー、発破レントなんて、初配信では『初音ミ◯のパクリして何が楽しいの?』というコメントが投げられて、その後も暫くは同じアンチが停留していた。...まあ、俺なんだけどな。
そんな逆風の中でも続ける精神力は見習わなければならない。と言っても、企業が力を持って金で売り出す中ノウハウも伝手もない個人がちんまりと配信をしても、今は一桁、下手したら0もザラだろう。でも、案外なんとかなるかもしれないだろ?少なくとも俺は、昔は「こんな絵が喋って、初◯ミクのパクリして何がいいんだ」って思っていたよ。それでも、そんなクソコメとしか言えない俺の黒歴史があったから、こんな精神力がある奴なら見てみたいかも、と思ったから俺はV業界のファンになって、そして気づけばその世界を構築する一つの存在になっていたんだ。
いやあ、懐かしい。女しかいないライバー業界に現れた男は、颯爽と現れたライバー女子ガチ恋キモオタ勢...今だとユニコーンなんて呼ばれているんだったか?あいつらにボロクソ燃やされたっけな。その後も暫く燃やされて...俺はそもそもコラボ配信なんて滅多にしないしあっても逆凸されるぐらいだな。と言うか、俺の家はV界隈での集会所、もしくは本当の意味での「家」なんだろう。よく、オフで居酒屋に行ったライバー達が俺の家に突撃して来る。まあ、どうせ空き部屋しかない家主俺のマンションなんだ。自由に使ってくれたまえ。...そう言って、本当に住み込みが増えて親父が買ったマンション全体で【VTuberの家】なんて呼ばれているのは笑えるが。
と、そんな懐かしい事を思っていると、同接数が1に増えた。
「あ、初めまして!私、莉華と申します。こんなふうに気ままに配信しておりますので、クソコメお気持ちコメ罵詈雑言コメント、好きに叩き台にしてください!」
やべ。