サービス開始当日
「皆様、こんばんは。本日の黒主ノワールの配信の時間ですよ」
定例の挨拶とは少し異なる挨拶を行って、コメント欄が沸き立ったのを見て。飛んできた投げ銭には「後ほど、読ませていただきますね」といつもの形式で済ませ、俺は『しばらくお暇させてもらいます』と黒い背景に白文字で打ったサムネイルを表示させて、言った。
「皆さんは、明日サービス開始のAlia社．．．Comets開発の、今までとは毛色が異なると言う前評判のVRMMO、『Startail Online』をご存知でしょうか？実は私、黒主ノワールはComets関係者でして。内部開発者の方々から、『是非プレイしろ、だが配信はするな』と言い含められておりまして。暫くの間、そうですね
．．．半年ほどでしょうか？私は配信を一切行いません。当面はStartail Online内でプレイを行いますので、皆様はお待ちくださいませ。いやあ、つい最近に周年ライブが開けて良かったですよ。配信休止期間に配信するなどと言う愚行はお見せできませんからねえ」
俺の言葉に、コメントが悲嘆に包まれた。いや、ノエルくん、なんで君は上限スパチャを何回も飛ばしてくるのかな？制限自体はないにせよ、金なくなるよね？推しに生活費分もあげます！なんて言われたら、恐ろしくて配信できないんだけどね？
予想以上の悲嘆コメントの流れを少し堰き止める用の言葉を言う。
「まあ、安心して下さいよ。要は、私が半年間運営に『黒主ノワールとは関係ない一般プレイヤーが配信を行なっている』と思わせればいいんですから。ユアーチューブ君が複垢保持いいので、私は別垢で配信を楽しまさせていただきます。報告はこれだけですので、あとは雑談しつつ、スパチャ返信でもしますかね」
そのあとは、いつも通りに配信が行れた。俺がいなくなるわけじゃないが、ヴェアヴォルフの男性ライバーはまともに配信をしていない一人を除けば俺とノエル君ぐらいのもので、ノエル君は俺がいないと活動が途端に鈍りそうなものなので、実質男性ライバーが半年間いなくなるのに等しいためか悲嘆コメントが多くあった。まあ、「絶対帰ってきますよ」と言ったせいでさらに荒れたんだが。
配信を終了させて、俺は大きく息を吐く。どうせこんな俺を知るものなど俺のファンにはいないのだろうが、稀に現れる『妹者』は今回現れた事を鑑みるに、何かしらトラブルが起こるのだろう。
『妹者』は俺の配信に現れては『兄者、お気をつけて！』と言うコメントを50000円の上限スパチャで投げてくる存在だ。そして彼女(彼？)がそのコメントをした次の日とかさらに次の日には、何かしらトラブルが起きる。しかもリアルの方で、大抵は親父が何かしらやらかしたり意図的にやらかしてきたりする。そのせいで、『妹者』は別名「預言者」だ。あゝ恐ろしや恐ろしや。
Startail Onlineサービス開始まで後二時間。俺は自らが操るアバターの生成を始めた。この一動作が加わる事で、アバターに千差万別の差が生まれる。と言うか，弄らなければ本来の自分の顔を晒すことになるので皆が最低限弄ることになるだろう。と言っても、俺のように大きさや位置、色やペイントなど細かいところまで設定を決めているプレイヤーは中々いないだろうが。
俺が使用するのはいわゆる獣人アバターで、シークレットコード．．．と言いつつも、Cometsと言う存在を知っているのなら打ち込める者も多いだろう，彼らが初めて出したMMOのタイトル、『Startale』を打ち込む事で獣人アバターが解放される。同様にエルフなら『Hi-Meteor』、ドワーフなら『Destruction Icicle』だ。親父曰く「後のアプデでここら辺の種族選択自由化と専用スキル解放は行うけど、暫くは封印かな」だそうで、Cometsを知っている者以外は「あれはなんだ！？」と思いながら冒険することになるのだろう。
次に、スポーン位置の設定だ。通常は6つある国．．．『ディルヘイド公国』、『エンディーヴェリア共和国』、『ロックルカン山岳地帯』、『ミッドガルズ』、『迷宮国家ヴァンデリア』、『ケンティオ第四帝国』の街や村から選ぶことになるが．．．俺は、迷いなく『Apocalyptic swords』と打ち込んだ。瞬間、無機質な合成音声ではなく親父が収録したものと思しき声がアナウンスとして流れる。
『六華、これを迷いなく打つなんて．．．と言うか本当に六華だよな？祐希とか、そう言うオチじゃないんだよな？．．．まあ、いい。これを打っていると言うことは、少なくともうちの内部関係者なんだ。全てのエリアが選択可能だが、まあ魔王城にスポーンされると相当危険だからやめた方がいいとだけ言っておく。それと、お前の性格上空中都市リーヴェンスも合わないだろう。おすすめは〈幻想郷〉だな。あそこはおすすめの島だ。．．．まあ、選択は自由だが。オルタービアの座標は───』
俺は、オルタービアの座標をスポーン地点に選んだ。
