表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バラ園の約束  作者: ヤン
21/22

番外編・二 別れの時

今回は、三上さんのバイト先の店長が語ります。

  つい数日前のこと。信じられないことを言われ、私は動揺を隠しきれなかった。三上(みかみ)沙羅(さら)さんが、ここでのバイトをやめたい、と伝えて来たのだから、驚くなと言う方が無理だ。


「店長。実は、前に勤めていた老人ホームから連絡があって。戻って来てほしいと言われたんです。事情があってやめたんですけど、やめたかったわけじゃなくて。どうするべきか考えて、考えて。最終的に、戻ろう、と思いました。だから、ここをやめさせて下さい」


 その真剣な眼差しに、私はしばらく口を閉ざしてしまった。何と言っていいのか、わからなくなってしまったのだ。


 彼女がここに来てから数か月。同年齢の子たちとはしゃぐようなこともなく、いつも少し距離をとっていたように見えた。彼女には、どこか影があって、そこも含めて気になっていた。彼女を見ると、ついふざけたことを言っていたが、それは彼女に構いたかっただけだ。


 ファミリーレストランの社員をやっていれば、バイトの入れ替わりがそれなりにあることは、もちろんわかっている。が、今回のこの気持ちはなんだろう。やはり、好きという感情が、動揺させているのだろう、と思う。それは、もはや社員としての思いではない。


 この前ここに来てくれた、名前は何だったか忘れてしまったが、美容師の青年が、私に彼女を好きだということを認めさせた。その日から、彼女にどう接していいのか迷ったが、結局それまでのような感じでここまで来た。このままで、ずっといられるような、そんな気でいた。ありえないことだ。


「そう。前にいた所から声が掛かったなら、戻った方がいいよね。うん。わかった。それで、いつまでいてくれる?」

「出来れば、来月から戻りたいので……」

「いいよ。残念だけど、仕方ないね」

「すみません」


 彼女は、自分で自分の幸せをつかむ為に、ここを出て行くのだ。引き止めてはいけない。でも、もしも叶うなら……。


 その先は、心の中でも言うまいと思う。彼女の幸せを祈れ。それが、大人のすることだ。そう言い聞かせる。その方が、絶対かっこいい。自分では、そう思う。


 彼女の勤務最後の日、バイト仲間の吉本さんから花束を渡してもらった。彼女は笑顔で、「ありがとう」と私たちに言うと、背中を向けて店を出て行った。


 それから彼女には会っていない。幸せでいてくれたらいいな、と思いながら、今日も営業をしている。


次回で完結します。三上さんが勤めていた、こもれびホームの施設長が語ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ