(5)★
「なっ」
手首から先が消えている。
瞬間的に腕から鮮血が吹き出す。
「ッイイイ、ウ、ウが、手ガアアア」
ずしりと寝台が揺れた。サントが暴れたからではない。
「――なんっ!?」
何かが寝台の上に転がっている。
頭部だ。
見慣れた相棒の虚ろな瞳と目が合う。
「ギャ!」
自分でも醜いと感じるほど、甲高い声が立てられた。
ぞわっと頭まで抜けて行くような悪寒。
「イーサン、どうしたの。ねぇ、あなた、わたしをどこか良いところへ連れていってくれるのではないの」
「イッ、やっ、来るなぁ!!」
無い手を払ったが、少女は裸体のままゆっくりと身体の距離をつめてきた。
――死の恐怖。
殺される。
相棒のように、無惨に、――死ぬ。
サントは寝台から転がり落ちた。
「結婚なんて、駄目に決まってるだろう」
背後から低声が響いた。
サントは無様に床を這いずって武器を探す。
殺らねば、殺れる。ただ、必死であった。
「ぎゃあっ」
足下に鋭い痛みが走る。
涙目で体を辿って見ると、足首に火かき棒が突き刺さっていた。
片足はピクリとも動かない。床へと貫通しているのだ。
「ア、アアア、アアア――」
「おい」
「――ヤッ、やべて、いやだっ」
「おい、おまえだ」
コートマントの男に見下げられている。彼の表情は真顔だ。
「いいか。『彼女』は、優しいが。俺はそうじゃない」
そこで、少女の横やりが飛んでくる。
「ねぇ、ハーシェ。その子、おびえているわ。やめてあげたら?」
「いいや。もう一度、言おう。
――神は、優しいが、俺の方は優しくない。楽に旅立てると思うな」
「や、やめろぉ!」
側に落ちていた短剣を片手で掴み上げて、相手へ投げつける。
しかし、それは、男の持っていたサーベルでいとも簡単に弾かれた。
相手は冷静沈着な様子を変えぬまま近寄ってきた。
無惨にも火かき棒が引き抜かれる。
「ギャアアア!! が、あっ、あああ……」
「そちらの男は、局部を潰したところまでだった」
突き刺すような殺気と共に残酷な男の言葉が降ってくる。
「無様なものだが、神を貶めた罰だ。貴様も厳粛に受けて貰おう」
「うっ、ぐっ、やめっろーっ、アガ、アアッ!!」
サントは髪を掴まれて、床を引きずられていく。
泣いても、暴れても、絶対に男は手を離してはくれないだろう。
「はなして、たすげてっ」
サントは、寝台の上でことの顛末を眺めていた少女に最後の慈悲を求めた。
だが、いつからそうだったのか。女神のような美しさはすっかり消え去っている。
相変わらずの甘ったるい物言いで、彼女は最悪の言葉を放つ。