(3)☆
眠いのか、ぼんやりとして隙だらけの少女をサントは手早く、寝台の上へ押さえつけた。
幼い体へ馬乗りとなり、大声を出されないように片手で口を塞ぐ。
「おとなしくしていれば、危害は加えない」
それは、子供でも分かるような単純な嘘だった。
少女が嫌がるような素振りで小さく首を振る。
彼女の禍々しいほど黒ずんだ瞳に、横暴な『男』の姿が映されている。
サントはそんな自分の姿に吸い込まれるような錯覚を覚えた。
「おいおい、サント。お前だけ先に楽しむなよ」
相棒の声に顔だけで振り向くと、色男が血濡れた短剣を面倒くさそうに放り投げるところだった。
「ロイド、男の方はどうだ」
「ああ、後ろからブスリだ。ありゃ死んだね」
「おい、ちゃんと確認しなかったのか?」
「なんだよ。今日はほんとに心配性なんだな。ってか、代われよ。俺が先だ」
ロイドは舌なめずりをしながら、上着を脱ぎ捨てた。
サントは少女の口から手を離す。
「ねぇ、イーサン」
可憐な少女からは想像できないような低声が耳に入った。サントの心臓が痛いほど脈打つ。
「お父様は、お元気?」
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少女のか細い悲鳴と、相棒の乱暴な声が闇夜に混じっている。寝台が軋む音は、嫌というほど聞いた後だ。
サントは、どこかの誰かから強奪した煙管を吹かしながら、ぼんやりと燭台の光を見つめていた。
ふと、昔の記憶を思い返す。
偉大な父親がまだ側にいた頃、サントは自分も立派な行商になれるのだと信じていた。
自分はどこで道を踏み外したのか。母親が死んだ時か、それとも父親に捨てて行かれた時か。
サントとして生き始めてから、いろいろなものが変わってしまった。
まぁ、理由はあれどこの有様だ。涙の枯れた少女たちを、痛ぶることにもずいぶん慣れた。
サントは、それを悔い改めているのではない。好きでやっていることなのだから尚更だ。
「なぁ、サント」
ロイドに声をかけられて、煙管を手放す。
「俺はちょっと休むぜ」
寝台から移動した相棒の姿を受けて、サントはゆっくりと立ち上がった。
少女がぐったりと横たわっている。白濁の這う柔らかな太股を撫でてから、彼女の上へ覆い被さった。
「……っ」
柔らかい白肌に腰を打ち付けると、少女のか細い腕が絡みいてくる。
サントは荒い息をはきながら、高揚する火照りを下半部のみならず全身で感じていた。
「……っ」
先ほどからずっと少女が何か言っている。
――「やめて欲しい?」、
「許して欲しい?」、それとも「もっと欲しい?」。
サントはその様を想像して悶えた。
どれもいい。最高だ。気持ちの良いまま絶頂を迎えた。
「ねぇ、イーサン」
「……はぁ、はっ、はぁ。なんだよ、やめて欲しいのか」
「うふふ。ねぇ、お父様は、お元気かしら」
ハッとして少女の顔を見た。彼女はにんまりと口元を半月状にしている。
瞬間的に体がゾッと振える。
こいつは気が狂れたのか、それとも、まだ余裕ぶっているだけなのか。
この時のサントには、冷静に考えるだけの余力が残っていた。
「さっきから答えてくれないの。イーサン、どうして? あんなにいい子だったのに」