(2)
サントは本名を当てられ、さらに唖然となった。
相棒の片手が肩に乗せられる。
「おい、サント。お前の知り合いか?」
「い、いや」
「ふふっ、あなた。ずいぶん大きくなったわね」
可愛らしく首を傾げた少女の言葉に、サントは「ありえない」と内心でつぶやいた。
「き、君はあの時の子なのか? いや、まさかな」
あの時から少なくとも十年以上が経っている。相手が同じ少女の姿をしている訳がない。
しかし、彼女はあの日と変わらぬ可憐な顔で笑んだ。
「ふふふ、知りたいの?」
「い、いや。あ、それよりも、外が嵐なので、その」
「泊めて欲しいのね?」
「はい、できれば」
男たちは顔を見合わせてから、少女の方へ向き直る。
彼女の背後に大きな人影を見た。
「食事を用意しよう」
そうつぶやいたのは漆黒のコートマントを羽織った男だった。
柔らかな色味をしたアイボリーの髪は耳元で切り揃えられており、年齢は二十半のサントたちとあまり変わらないように思える。
「うふふ、ハーシェはいい子ね」
コートマントの男は「やめてくれ」と言い残して闇の中へ消えていった。
サントは遠い過去の記憶と同じような展開に呆然としていた。
相棒に肩をつつかれて、ハッと現実へ戻される。
ロイドにそっと耳打ちされた。
「なぁ、あの子。いいよな?」
相棒の顔を見ると、どうやら真剣な話のようだった。色男はこれだからとサントは内心で呆れてしまう。
「……今回はやめといた方がいいと思う」
「なんでだよ。歳は十三か、四といったとこだろ。一番うまい頃だぜ?」
ロイドが慎重な面もちで顎へ手をやり、「そうなると……男が邪魔か」とつぶやいた。
どうやら相棒は本気のようだ。
「サント、お前、そんなに心配性だったか。いつも通り、手早くやりゃあいいんだからよ。な?」
いつも通りと言われれば、そうだ。
サントとロイドが担いでいた荷の中身は、他者から盗んだが殆どを締める。
金になりそうな品物は全て奪ってきた。二人は、世間では賊と呼ばれている。
盗みも殺しも犯しもなんでも、やりたければやるし、やりたくなければやらない。
自由気ままな暮らしである。
「今回はいやな予感がするんだよ」
「まぁ、あの男は気になるな」
「そういうことじゃない」
「だが、それだけだ」
「まぁ、そうだが……」
飄々とする相棒に流されるように、サントは小さく頷いた。
過去に見たような食事を終えると、聖像の真下にある寝台で休むようにとすすめられた。