(1)
深い森の中、二人の男が強風と豪雨に巻き込まれていた。
大きな荷を担いでいた色男が、視界を濁らせる雨粒を必死な様子で払っている。
少し前方を進んでいたもう片方の男が、精一杯の声を張り上げた。
「ロイド、この辺りに、聖堂があるはずだ!」
「何言ってやがる。サント、
こんな森の中にそんなもんがあってたまるかよ!」
「本当だ。父さんと一度、来たことがある。ほら、そこだ!」
「おい、まじかよ」
目の前に現れた朽ちた聖堂の中へ先に飛び込んだのはサントの方だ。
続いて飛び込んできた相棒のロイドが、手にしていた荷を床へと手放す。
二人は建物に入った安堵感からか、その場ににへたり込んだ。
互いを背にしながら、しばらく荒い呼吸を整える。
「あー、死ぬかとおもったぜ。
しっかし、本当に聖堂があったんだな」
「ああ、昔の話さ。……さすがに、もう誰も住んでいないだろうがな」
サントは顔だけを動かして、礼拝堂の中をぐるりと見渡した。
支柱は辛うじて天井を支えているような状態である。
壁には所々に亀裂が入り、窓枠は木材で補強されていたが、ガタガタで不安定な様子だ。
礼拝堂の、祭壇、イス、燭台、そういった殆どのものは排除され、一番奥の方、聖像の真下には大きな寝台がある。
それは、記憶の中の景色と、あまり変わりがないかと思われた。
サントは、確かにこの場所で父親と共に助けられたのだ。
「まだ、あったんだな」
「おいおい、無い可能性があったのか? 勘弁してくれよ」
「悪い、悪い」
「それにしても、不思議なもんだな。外はあんなに寒かったのに、ここは暖かい気がするぜ」
「そういえば、そうか」
服はじっとりと雨に濡れている。それにも関わらず、身震い一つ起きなかった。
これは、もう神に感謝せざるを得まい。二人はゴロンと床に寝転がって笑い合う。
「あら、お客様?」
どこか聞き覚えのある声がして、サントは跳ね起きた。
懐に入れていた短剣を声の主へかざすと、闇の中に紛れる小柄な人物が確認できた。
それは、修道服を纏った少女だ。
大きな黒い瞳、同色の髪は、サントの記憶にしっかりと残っていた。
幼い頃に初めて恋をした、何度だって思い起こしていた姿が目の前に立っている。
「あら、あなたは。もしかして、イーサンではなくて」
相手が大きな瞳をにんまりと歪めた。