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+(4)+

 国語の教科書を投げつけられた少女は、怯えた様子で地面にうずくまっていた。



「わたしのランドセル持ちなさいよ」


「わーい、わたしのも!」


「こっちも、お願いね~っ」


 少女の前には、合計で四つのランドセルがあった。


 小柄な娘には、四つをいっぺんに運ぶ術がなく、どれかを捨てねばならない。


 考えなくたって分かっている。少女は自分のものをその場に残した。



 背中、お腹、手でランドセルの肩紐を掴んで、という状態で、たどたどしく少女らの後を追う。


「まって……まってよぉ」


 しかし、派手に地面へ転んでしまった。少女たちがズンズンと迫ってきて笑う。


「ドジ」


「まぬけ~っ」


「ねぇ、それ、わたしのランドセル!?」


 腹這いになったことで、一つのランドセルが地面と接触している。


 傷ついたものを見て、持ち主の少女が「わっ」と泣き出す。


 その瞬間、平手が飛んできた。



 頬を打たれ、次に足が向かってくる。顔を踏みつけられて、「ぐへぇ」とカエルが潰れたような醜い声が出た。


「謝れ」


「そうだ、そうだ、あやまれ~っ」


「うわーん、ランドセルがぁ」


 周りを囲まれた少女は、ただひたすら丸くなって耐えていた。


「おい、謝れ。もう一回、つぞ」


「やれやれ~っ」



「わーん、ママのランドセルぅ」


 しかし、次の平手が飛んでくる刹那、眩しい光に包まれた。



 ――聖女様だっ!

 確か、それが第一声だった気がする。




(4)


 多くの大人たちに見守られているそれが、いわゆる異世界召還だということを後から聞いた。


 ママのランドセルが犠牲になったことで、目元を腫らしていた少女、甘えん坊で泣き虫の由浜(しらさき)ほむら。彼女は、目の覚めるような新緑の髪色を撫でていた。


 傲慢そうな態度で仁王立ちをしている少女、リーダー格の坂上万里乃さかうえまりの

 彼女は、光に反射して輝く金色こんじきの髪先を指に絡めた。


 ただひたすら同調するだけの少女、お調子者の山田優希やまだゆうき


 彼女は、深い海の底を連想させるような紺色の髪を誇らしげに見せつけていた。


 そして、薄汚れて傷だらけ、そんな姿のままに転がっていた少女、虐められ体質の篠崎遥香しのざきはるか

 深い闇を湛えているような漆黒の髪。これは以前と変わりがないようだった。



 四人の娘子が、聖女として異国の地へ降り立った。



 お城での豪華な晩餐、お姫様のドレス、格好いい王子様たち。まるでアニメかマンガの世界のようだ。


 少女たちの胸の中は甘いお菓子のようなものに満たされていっぱいだった。四人はふんわりとした夢心地の数日を王様の宮殿で過ごした。


 異変があったのはその後だ。


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