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ただ、可憐なそれに似つかわしくないほど、鋭い鳶のような色味の双眸と、おまけのようにゴツめの双剣を背負う。
ノーラは彼女のことを表現する時、まさに物語上の「ヒロイン」として存在するような子と称している。
当人であるマリアンナは、優しげな雰囲気のままで目を細めた。
「うふふっ、お久しぶりね、ノルン。ああ、すでにノーラという名だそうね? あなたもカリナも今一状況が飲み込めていないようなのだけれど、今は説明している暇がないの。ごめんなさい」
「――マリアンナ!? ねぇ、どうして、えっ? その姿……あなた、なにがあって……」
「ごめんなさい。説明している時間がないの。ねぇ、ノーラは、無理矢理に連れて行かれるのと、大人しく着いてくるの、どちらがいい?」
彼女がわざとらしい仕草で指を頬へ当てた。状況を理解したハイシェルが、瞬間的にサーベルを引き抜こうとする。
だが、一歩、遅い。
素早い動きで双剣の片側を引き抜いていたマリアンナが、一瞬にしてハイシェルの喉元へ刃先を突き立てていた。
可憐な娘の口元には美しい笑み。しかし、瞳の方がまるで獲物を狙う獰猛な鷹のように鋭かった。
「貴方の剣は美しくないわ。そうよ、ね?」
ハイシェルの額に汗が滲んでいる。場の光景を目の当たりにしたノーラは、潔く両手を上げた。
「ごめんなさい、マリアンナ。誰もあなたには適わない。そんなに大げさな実演をしなくても、昔からそうだったじゃない。誰も勝てやしないのは決まっていること。だって、あなたこそ、物語のヒロインなのだから」
ノーラがやれやれと首を振れば、マリアンナは素直に双剣を鞘へ納めた。
彼女は表情を晴れやかにして、「それでこそ、ノルンだわぁ」と両手を打ち鳴らした。
彼女はまるで百面相のようにコロコロと顔色を変えていく。今度は、背筋が凍るほどに恐ろしげな笑みを浮かべた。
「さぁ、来て、ノーラ。わたしね、お話したいことが山ほどあるの」
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. 『聖女✵転生 〜ノルニルの子供たち〜』.
ノーラが、まだノーラでなかった頃の話をしよう。
体感的に数十年、いやもっと前のことになる。
ノーラの体は、十五歳の辺りで成長を止めてしまったので、正確な年月は分からない。
ハイシェルと出会う前にもなるのだから遠い昔のことだという自覚はある。
ずっと、ずっと遙か彼方に消えそうな記憶を辿っていく。それは、できればもう忘れていたい姿だ。
「ちょっとさぁ!」