蒼空のシリウス 二十三話
最終話まで平日の夜9時に毎日更新します。
(注)カクヨムでも掲載されています。
トラムプル・ライノとの戦闘に向けて集められた人たちのなかでもニケーはラードが艦長を務めているジャックシップと共に最前線に出る第一艦隊に配備された。
時間になると第一艦隊からアルカナを出発することになる。
ゲートの大きさもあって一斉にと言うわけにはいかないが、ニケーはアルカナ軍のジャックシップやクイーンシップに混ざって他のトライブの戦艦よりも早く発進したのだった。
「第一艦隊に組み込まれたトライブはニケーの他にはもう一つだけみたいね」
高速艦が先陣を切って進むさなか美玲が各艦隊の構成リストを見ながら呟いた。
操縦桿を握る陸が思い出したように答える。
「確か【恐竜隊】だっけか。重量級のジーンばかり使うトライブって聞いたけどよ」
「はい。恐竜隊のジーンが使っている武装は破城槌のような形状のものが多く、今回のトラムプル・ライノにはそれが有効とされているために第一艦隊に組み込まれたみたいです」
「普通は取り回しが利かない武器だから倦厭されがちなのに、良く使い続けてたわね」
「なんでも威力こそ正義と謳ってトライブの発足時からずっと武装の変更は行われていないようです」
「えっ、ずっと?!」
「はい。ずっと」
「まだまだ私の知らない変わったトライブもいるのね」
真鈴が恐竜隊の情報を確認しながら答えると美玲は関心したように呟いていた。
「よっぽどこだわりを持って使ってるんだろうよ。今回はそれが活躍するとなれば使い続けてきた本人たちにとっても本望ってやつだろ」
艦隊を組みながら進行するニケー及びアルカナ軍の戦艦。
その数は全体からみれば僅か十パーセントほど。大半の戦力は後から来るトライブ主体の第二艦隊と密かに戦力的に心許ないと判断されたアルカナ軍、トライブ合同の第三艦隊に分けられている。
第一艦隊はニケーのようにトラムプル・ライノに有効な装備を持つ戦艦とありったけの攻城兵器を積んだアルカナ軍の戦艦のみ。
事前にトラムプル・ライノについての情報が公開されて明言された通り、この戦闘において最も構成員の少ない第一艦隊こそが主力とされている。第二艦隊の役割はトラムプル・ライノが引き連れているとされる他のオートマタの撃滅。第三艦隊はその援護といざという時に負傷したライダーや戦艦の乗組員の救助の役割が宛がわれていた。
「そろそろ見えてくる頃ね」
メインモニターを見つめて美玲が言った。
全員の視線がメインモニターに集まる。
遠くからでは山の影のようにしか見えなかったトラムプル・ライノがその全貌を現わしたのだ。
「あれが……」
メインモニターに映るそれはまさに巨大なサイ。全身を覆うぶ厚い皮膚は鋼鉄の鎧を彷彿とさせ、鼻先から伸びる刃はさながら巨大な剣のよう。
周囲を見渡している三対六つの瞳は不気味な輝きを宿している。
実際に目の前にするとその巨体の程がよく分かる。ジャックシップくらいの大きさは軽く凌駕されていて、アルカナ軍の中型艦であるクイーンシップよりも確実に大きく、ともすれば大型艦であるキングシップに匹敵するほどのサイズ感がある。
『第一艦隊、戦闘準備は出来ているか』
険しいリューズの顔が映し出される。
呼びかけられた艦の艦長たちは異口同音に完了の意を伝えていた。
『これよりトラムプル・ライノ撃滅作戦を始めます。第一艦隊、ジーンを発進させてください』
リューズの指示を受け、アルカナ軍の各戦艦からデルガルが飛び出した。それぞれの手にあるのは巨大な杭を打ち出す攻城兵器や重く大きな砲弾を撃ち出すことのできる大砲などの武器。普段のオートマタ戦では小回りが利かず使えないとされているそれが今回の戦闘に限っては主兵装となる。
デルガルに混ざり恐竜隊のジーンが走っている。トライブの名前の通りに人が二足歩行の肉食竜の着ぐるみを着ているような外見をしているジーンだ。機体名称は【ディノ】という。ディノの背中には巨大な一本の鋼の杭が装填された武器がある。これが彼等が普段から使っている特殊武装のようだ。
「御影君、行ける?」
「いつでも。こっちは問題ないよ」
美玲の問いに格納庫でシリウスに乗り込んでいる神住が答えたのと同じくしてニケーの下部ハッチが開かれる。
次は真鈴の仕事だ。
シリウスの進路と発進システムをチェックしていく。準備が完了したことを確認して真鈴が神住に告げる。
「発進のタイミングをシリウスに譲渡します」
「了解」
シリウスが立つ整備ハンガーの土台が発進カタパルトに移動する。
全身の固定が外され、シリウスは飛行の事前体勢を取った。
「御影神住、シリウス。出るぞ!」
急加速を伴いシリウスはニケーから飛び出していく。
片翼のシールド・ウイングを広げて背部に浮かぶ青色の光輪を置き去りにしたシリウスは空へと高く舞い上がった。
『戦闘開始!』
リューズの号令と共に多くのデルガルがその手に持たれている砲台から破城槌を撃ち出した。
杭の硬度が足りないのか大半の杭はトラムプル・ライノの脚に命中したものの貫くことなく拉げて折れ曲がってしまっている。それでもいくつかはトラムプル・ライノの体表に突き刺さり、その瞬間に爆発を引き起こしていた。
元々の破城槌とは異なり、今使っているのは刺さった瞬間に爆発するように改良が施された鋼鉄の杭はそれそのものがいわば巨大な弾丸であり爆弾。
並みの武装に比べて遙かに重い自重故に持って動けるのは最大で二つ。
既に一発を撃ったデルガルは続けての第二射に備えている。
「あれでも大したダメージにはならないのか」
破城槌の爆発を目の当たりにした神住はコクピットのなかで独り言ちる。
眼前のトラムプル・ライノは破城槌の爆発を受けて獣のように吼えた。
六つの瞳が近付く全てデルガルとディノを捉える。それと同時に鈍重な動きながらもトラムプル・ライノの巨大な脚は破城槌を構えるデルガルを雑に蹴り飛ばした。
装備の自重故に回避が間に合わなかったデルガルは自身の外部装甲の欠片を撒き散らしながら敢えて衝撃に身を任せるようにして後ろに吹き飛んでいる。
注意すべきはトラムプル・ライノの脚が機体に当たったその瞬間にデルガルの外部装甲が自ら爆発して衝撃を緩和したように見えたこと。それが無ければ、デルガルは甚大な損傷を受けていたころだろう。
「なるほどね。あの着膨れして見えるのは炸裂装甲だったってわけか」
自分たちが改造できたのは三機のデルガルだけ。それ以外は既存の装備で挑まなければならなかったのだが、アルカナ軍はその中でもトラムプル・ライノに有効な装備を選択していたらしい。
衝撃を相殺するために敢えて自ら爆発する装甲は正しくその性能を発揮している。
外部装甲の一部が剥がれ落ちたとはいえ、内部装甲が無事なデルガルは問題なく戦闘を続行することができるようだ。
残る破城槌を撃ち出して身軽になったデルガルが起こる杭の爆発を背にしながらそれぞれの母艦へと武装の換装のために戻っていく。
入れ替わるように飛び出した別のデルガルが大砲を構えて撃ち出す。
破城槌のように表皮を貫くことはできないが、命中して弾けた大砲の弾が引き起こした一機に燃え上がる炎はトラムプル・ライノの体表に瞬く間に広がった。
メラメラと燃えるトラムプル・ライノは体に残る炎を振り払うべく鬱陶しそうに全身を震わせる。
舞い散る火花の奥でトラムプル・ライノの灰色の体色が微かに赤く発熱しているのがわかった。熱により体皮が幾許か柔らかくなるのを狙ったのだとしたら、その効果は如何ほどのものか。
次弾が放たれるのを待つことなく神住はこのタイミングだとシリウスをトラムプル・ライノへと向ける。
「行くぞ」
自分に向けて呟いて、シリウスは急降下をしていく。
地上から攻撃を仕掛けているアルカナ軍や恐竜隊では届かないトラムプル・ライノの背後に回ったシリウスは右手に持つライフルで鋼鉄の装甲も同然の体皮の隙間を狙い撃った。
一陣の光がトラムプル・ライノを貫く。
光粒子が集約して放たれる光弾が引き起す爆発は確実にトラムプル・ライノにダメージを与えていた。
「アービング隊。行きます!」
最初に出撃したデルガルが破城槌補給のためにそれぞれの母艦へと戻って来たのと入れ替わるようにラナの小隊が出撃した。
それぞれの手にあるのは破城槌ではなく充電式の高出力エネルギーライフル、イプシロン。
オレグが改造を施した二機は射撃の反動を抑えるために両脚の踵部分からパイルアンカーを撃ち出して機体を地面に固定することができる。機体を固定した二機のデルガルはすかさずイプシロンを放つ。
特徴的な銃口から撃ち出されるエネルギー弾がトラムプル・ライノに命中した。
シリウスが放つライフルの光弾と同レベルのそれはトラムプル・ライノの頭部に命中して小規模な爆発を起こしていた。
高出力が故に一発毎にインターバルを要するイプシロンを持つ二機のデルガルは素早く足の固定を外してその場から移動する。
唯一神住が改造したラナのデルガルだけはイプシロンを連続して放つことができている。威力は変わらずに連続性を持たせることができた最大の要因はラナのデルガルが大幅な修復を要したことが起因する。元のデルガルに戻すこともできたが、神住はイプシロンとラナのデルガルに取り付けた充電装置が絶えずイプシロンにエネルギーを供給するように改良していた。それだけではなくデルガルの素体骨格にも連続射撃に耐えるだけの耐久性を持たせているのだ。
これにより、ラナの持つイプシロンは充電装置のキャパシティ内ならば連続して撃つことが可能となり、デルガル自体の耐久性も他の二機に比べて格段に上昇していた。
機体のエネルギーラインを充電装置に繋げれば活動時間を延ばすこともできたのだが、それでは他の二機と足並みが揃わないと判断して神住は行っていない。
地上にいるラナたちの奮闘を余所に神住は一人上空からトラムプル・ライノに攻撃を続けていた。
「オッサンが持ってきたデータにあった通りシリウスの攻撃は効果があるみたいだな。とはいえ、このまま簡単には倒させてもらえないだろうけどさ」
確かにトラムプル・ライノの巨体は脅威。ただ歩くだけで並のジーンは踏み潰されることだろう。しかし、その個体としての攻撃はあまりにも鈍く重い。防御は出来なくとも回避は容易に思えるそれは未だ何か牙を隠している。でなければ最初の交戦でアルカナ軍を壊滅状態に追い込んだりなんてできないはずだ。
冷静に状況を見極めている神住の視界の端に先程までは見られなかったオートマタが出現し始めた。
先陣を切っている第一艦隊に襲い掛かると想像できるオートマタの出現に素早くリューズが指示を飛ばす。
『第二艦隊、出番です! トラムプル・ライノの周囲に現れたオートマタを殲滅してください』
いつしかトラムプル・ライノの周囲には無数のオートマタが集まりだしていた。
上空から見ていたからこそ分かる。その中の一部はトラムプル・ライノの装甲の下から現われていた。どうやら“超級”と称されたトラムプル・ライノの巨体の中には小さなネズミ型のオートマタが巣を作っているらしい。
「あれは下からは狙えないな。だとすれば俺はあの出現ポイントを集中的に狙った方が良さそうだ」
瞬時にシリウスが自身の位置と狙いを変える。連続して撃ち出された光弾がネズミ型のオートマタの出現地点の一つを爆砕した。
「まだだ、あと五つ」
神住が見極めた出現ポイントは六つ。
それはトラムプル・ライノの瞳の数と同じ。背中だけではなく腕の付け根にも見つけられたそれを一つずつ確実に破壊していく。
難なく射撃を行っているシリウスがいるのは空中とはいえ安全ではない。地上に比べれば確かに攻撃の勢いは弱いが、頻繁にトラムプル・ライノの背中から無数のミサイルが撃ち出されてシリウスを狙ってくるのだ。
オートマタは無機物でありながら有機物のようでもある。ジーンや戦艦が使うミサイルとは違う、いわば生体ミサイルとでも呼ぶべきそれがシリウスに狙いを付けて撃ち落とそうと迫る。
急上昇して急加速するとそれまでシリウスが居た場所で生体ミサイル同士がぶつかりあって爆発が起こる。
爆風のなか飛び出してくる生体ミサイルをシリウスは左腕に備わるシールドから先端のアンカーを撃ち出して破壊した。
この時のシリウスのシールドの先端には青い光が宿っている。それはライフルに備わる刀身の光と同じもので、ルクスリアクターを通して供給される光粒子が満たされて切断力が増した証だ。
「そこだっ」
シリウスの前方の爆炎から二筋の光が降り注ぐ。
狙いを付けていたトラムプル・ライノの背中にあるネズミ型オートマタ出現ポイントが激しく爆砕した。
「これで全部かな」
トラムプル・ライノの体から立ち込める黒煙は六つ。神住が確認したネズミ型のオートマタ出現ポイントと同じ数だ。
地上ではデルガルがトラムプル・ライノに攻撃を仕掛け続けている。
恐竜隊のジーン、ディノがその背部にある固有の武装から巨大な杭を打ち出した。アルカナ軍が使っている破城槌よりも硬度が高いそれは折れることなくトラムプル・ライノの脚に突き刺さった。
こちらの攻撃は有効で受けた被害は微々たるもの。
誰の目にも優勢に見える戦闘は突然のトラムプル・ライノの咆吼で情勢を変えた。
鼻先を天に向け、身を大きく仰け反らせるトラムプル・ライノ。
一瞬、前脚を浮かせた格好で停止した次の瞬間、鼻先の刃が一回り以上大きくなるように展開したのだ。
「あれは拙いだろ! 避けろっ!!」
思わず神住が叫んでいた。
この後に繰り出される攻撃は誰にでも分かる。
『全軍、回避!!!』
リューズが叫ぶ。
指示を受けるまでもなく、射線上にいる地上のアルカナ軍は急いで退避して、各トライブのジーンと戦艦もまた同様にその場から逃げ出していた。
「間に合え!」
シリウスは素早く移動して展開している鼻先の刃にライフルの照準を向ける。
撃ち出される光弾は違わずに命中しているが、驚いたことにトラムプル・ライノの体皮の装甲よりも硬いのか鼻先の刃には一切傷が付かない。
それならばと顔を狙うもトラムプル・ライノはさほど気にした素振りを見せず、大勢の予想通りに鼻先の刃を振り下ろした。
退避が間に合わなかったアルカナ軍の戦艦は例えクイーンシップであったとしても大きな被害を被り、ジャックシップは再起不能に思えるほどの損傷を受けている。直撃していなくても掠っただけで、生じた衝撃波を受けただけでこれだけの被害だ。直撃してしまったものに関しては言うまでもないだろう。
必死に指示を送るリューズが乗るキングシップにはギリギリで刃が届いてはいなかったものの、それと同時に強く地面を踏み付けたことで生じた突風が地面にいるジーンと戦艦を後方へと吹き飛ばしていた。
「くぅぅぅッッッ」
真下から噴き上がってくる突風を盾を構えて耐えるシリウス。
必死にガクガクと揺れる機体のバランスを取っていると眼下ではそれまで優勢だった状況を嘲笑うような惨状が広がっていた。
ほぼ壊滅状態。そんな言葉が相応しいような有様だ。
『第三艦隊は急いで負傷者の救出を行ってください。第二艦隊はすぐに体勢を整えて周囲のオートマタを警戒。第一艦隊! これ以上トラムプル・ライノを自由にさせるわけには行きません。全力を以て討伐してください!』
全軍に行き渡るリューズの声。
それに交ざって聞こえてくる大勢の悲鳴と叫声。
最初のアルカナ軍を壊滅に追い込んだトラムプル・ライノの攻撃を目の当たりにしてなお、戦意を失わなかったのは皮肉にも力不足と判断された第三艦隊の者が多かった。
「第一艦隊のアルカナ軍が攻撃の勢いを弱めました」
ニケーメインブリッジの自分の席で戦場を分析していた真鈴が告げる。
すかさず陸は顔を顰めるが、美玲は淡々と「無理も無いわね」と答えていた。
「御影君は無事なの?」
「はい。損傷を受けてはいないようです」
「それなら、私達まだ戦えるわね。状況はどうなっているの?」
「モニターに出します」
仮にやられてしまっていたらすぐにでも救助に赴くべき。そう思いながらも無事だったことに安心しつつ、美玲は真鈴に指示を出してメインモニターに戦場の様子を映し出させた。
「これは――」
「酷いな。動ける機体を探す方が難しそうだ」
言葉を失う美玲と素直に感想を告げる陸。
「真鈴、ラード艦長に繋いでくれるかしら」
「はい?」
「彼等はまだ無事なはずよ」
メインモニターの映像には確かに機能しているジャックシップが映っている。しかしそれだけではラードのジャックシップなのかどうかはすぐに判別できない。
モニターの映像を見て美玲がそうであるとすぐ気付くことができたのはジャックシップの傍に独特な武器を装備したデルガルの姿を見つけたからだ。
『怜苑艦長か、無事で何より。だが、何の用だ?』
ラードの顔が映し出される。
改造されたデルガルを擁するかの艦はジーンの補給のために戦場の只中にいる。
「そちらのジャックシップの武装は使えますか?」
『ん、ああ。まったく問題はない。そちらのお節介が役に立ったようだ』
神住とオレグはそれぞれデルガルの改造と平行してラードのジャックシップに改造を行っていた。
二人はトラムプル・ライノとの戦闘に対して一つの懸念を抱き、ラードのジャックシップの武装の一部をニケーが搭載している武装と同型の物に変えることを持ち掛けていたのだ。実弾が通用しない相手にはエネルギー弾が有効。ジーンに比べて大型の動力炉を搭載している戦艦ならば撃ち出されるそれの威力はジーンの比ではない。
この時代戦艦が前に出る戦場は珍しい。そもそもトライブが用いる戦艦は戦艦であるということ以上にトライブの家としての顔を持っていた。家が戦場に赴き最前線で戦うなんてことはありえない。そんな風潮すらあるのだ。
しかし相手が超級のオートマタともなればそうも言っていられない。確証は無かったものの戦艦が前に出て戦うこともあり得るのだと言ってラードを説得した神住とオレグはラードのジャックシップに大型のエネルギー砲を取り付けて、同時に防御力の向上を目的として艦体に装甲板を追加した。
ニケーの主砲であるエネルギー砲【アラドバル】の予備パーツで組み上げられたそれはこの状況において強大な武器たり得る。
「では、ただ今よりニケーは前線に赴きシリウスの援護とトラムプル・ライノに砲撃を試みます」
乗員といってもメインブリッジにいないのは格納庫にいるオレグだけだが、オレグと真鈴と陸の三人に伝わるように告げた美玲。
それを受けてラードもまた宣言する。
『いいだろう。我々もそれに続こう。各艦に通達してくれ。各艦はそれぞれの艦長の判断の下、行動することを望む、無理に我々に付いてくる必要はないと』
戦艦の巨体はジーンに比べて大きな的となる。前線に出るだけも大きなリスクを背負う行為をラードは誰にも強いるつもりはないらしい。
リューズに侵攻の旨を伝えてから、並ぶ二隻の戦艦は前進する。
進路上に他のジーンはいない。あるのは全てジーンとオートマタの残骸のみ。
「砲撃用意!」
ニケーの上部中央のハッチから一つの砲門が露出した。高威力エネルギー砲アラドバルである。
同型の砲門がラードのジャックシップの側面から姿を現わした。
「アラドバル、発射!」
『撃てっ』
乗員の足りないニケーの全て攻撃はシステムの補助を受けて行っている。本来引き金を握るのは射手の役目だが、ニケーでは艦長の美玲がそれを担っていた。
自動で照準を定めたニケーのアラドバルから高威力のエネルギーが照射される。
ラードのジャックシップからも同様の光が放たれた。
戦場に走る一筋の流れ星のような光が命中したトラムプル・ライノに大規模な爆発を引き起こした。
爆炎に飲み込まれたトラムプル・ライノの体から砕けた無数の体皮の破片が降り注ぐ。
「第二射、チャージして」
「はい。発射まで残り三十秒」
システムの制御は真鈴が行っている。急速にチャージされていく光粒子をチェックしながら真鈴がカウントダウンを行う。
緊迫する戦場で三十秒ものインターバルは存外に長い。
陸が反撃されないようにニケーを動かしながらその時間を稼いでいるが、トラムプル・ライノの反撃の方が早かった。
頭を下げてニケーに頭突きを放ったのだ。
「エネルギーシールドを展開!」
「だめです。間に合いません!!」
「……全員衝撃に備えて!」
グッと椅子を掴み身構えた美玲。しかし何時まで経っても衝撃は襲って来ない。
おそるおそる目を開けるとニケーの前でシリウスがトラムプル・ライノに立ち塞がったのだ。
「御影君?!」
「させるかよっ!」
シリウスが左腕のシールドの先端のアンカーを六つの瞳に向けて撃ち出していたのだ。
シールドの先端は瞳の一つに突き刺さり、トラムプル・ライノは怯み頭突きを中断してしまう。
苦痛を感じるのか、瞳を一つ貫かれたトラムプル・ライノは悲鳴を上げながら突き刺さるシールドアンカーを外そうとしてもがく。
ワイヤーで繋がれているシリウスはまるで釣られた魚のように機体を大きく打ち上げられてしまった。
「のわぁっっっっ。このっ」
空中で体勢を整えたシリウスは素早く左腕からシールドを排出する。
ワイヤーに繋がれたままのシールドはトラムプル・ライノが頭を振り回したことで外れて彼方へと飛んで行ってしまった。
「今だっ!」
神住が叫ぶ。
「アラドバル、発射!」
美玲が引き金を引く。
アラドバルから高威力のエネルギーが放たれる。
『我々も遅れるな。撃てーっ!』
異なる方角から放たれるニケーのアラドバルと同等の光がトラムプル・ライノを穿つ。
彼方で交差する二つの光。
トラムプル・ライノの両肩が貫かれた。
作者からのとても大切なお願いです。
ほんの少しでも続きが読みたいと思ってくださったのならば、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして『ポイント評価』をお願いします。
この10ポイントが本当に大きい。
大切です。
製作のモチベーションになります。
なにより作者が喜びます。
繰り返しになりますが、ポイント評価を宜しくお願いします。