蒼空のシリウス 二十話
最終話まで平日の夜9時に毎日更新します。
(注)カクヨムでも掲載されています。
時は少し戻り、ニケーが停泊している待機港区画にフェイカーが襲撃を仕掛けて来て間もない頃。
ニケーのメインブリッジは蜂の巣をつついたように騒がしくなっていた。
「神住から合流地点の連絡はまだか!」
艦の操縦桿を握る陸が声を張り上げる。
「まだです。神住さんからはまだ何も……」
「では、御影君が言っていた通り、フェイカーを引き付けつつ本艦は待機港区画を離脱。アルカナの外でフェイカーと本格的な戦闘を試みます」
「りょうかい!」
「はい!」
美玲の指示を受けて陸と真鈴は素早く行動に移る。
先ず真鈴がニケーの進路の状況を確認し、それに続いて陸がニケーを動かす。
この間も絶えず聞こえてくる爆発音。それはフェイカーがニケーに向けて砲撃を放っている証。
響き渡る轟音に何が起きたのかと集まってくる人がいる。
戦闘が始まったと勘付いて臨戦体勢を取る人がいる。
悲鳴を上げてこの場から離れようとする人もいる。
彼等の安全を考慮した上でニケーは反撃することなく艦の周囲に発生させたエネルギーシールドで砲撃を防ぐだけに止めていた。が、それがフェイカーのライダーには自分の攻撃でニケーは手も足も出ないと思ったのか、エネルギーシールドに弾丸が阻まれているにもかかわらず、攻撃の勢いは徐々に強くなっていくのだった。
艦体の側面と後方にエネルギーシールドを纏わせたままニケーは上昇し移動を始める。
待機港区画からアルカナの外に繋がる通路はいくつか存在しているが基本的にはそれらは遮断式のゲートによって閉ざされている。無論戦艦が強引に突破することは難しくないがそれをしてしまっては多大な罰則金を支払うことになる。だからこそ待機港区画にある戦艦がアルカナの外に出るときは一定の間隔で開かれるタイミングを狙うか、申請を出してゲートを上げてもらう必要があるのだ。
「アルカナからの応答がありました。緊急措置としてゲートが上がります」
「どこのゲートだ」
「ここから最も近い三十八番ゲートです」
「あそこか。良い選択だ」
ニケーの発進に伴って出していたゲート開閉の申請の返答を読み上げた真鈴の言葉を受けて陸がニケーの進路を決めた。
巨大な艦が方向を変えつつ前進する。
待機港区画の中にいるために速度はある程度制限されているが、それでも一般的な車よりかは速い。
フェイカーの追跡を振り切ってしまわないように気を配りながらニケーは待機港区画にある戦艦用に作られた道を飛んで行くのだった。
「オレグさん。私の声が聞こえていますか?」
艦の操縦は陸に任せるのが一番。
各方面の情報やニケーが現在置かれている状況を把握するのは真鈴に任せておけばいい。
ならば美玲がするべきなのは先を見据えた準備だ。
メインブリッジのメインモニターを使わず、自身の席に備わっている小型のモニターを使い格納庫にいるオレグに連絡を入れた。
格納庫の壁をバックにいつものツナギを着たオレグが美玲が使う小型モニターに映し出される。
『どうした? 何があった?』
「シリウスの発進準備をお願いします」
『それは構わんが、坊主がまだ戻って来てないだろう』
「御影君と合流してすぐに発進できるようにしておきたいんです」
『わかった。そういうことなら任せておけ』
オレグとの通信が切れる。すると真鈴が二人に聞こえるように声を大きく告げる。
「神住さんから合流地点の連絡がありました。指定ポイントはアルカナから三キロほど離れた地点。進路はこのまま真っ直ぐです」
驚いたように声を張る真鈴に陸は苦笑を漏らしていた。そして小さく呟く。
「あいつ、この状況を読んでやがったな」
ニヤリと笑い、陸はニケーを加速させる。
既にニケーは待機港区画を脱しており、フェイカーは狙い通りにニケーを追いかけて来ている。唯一の懸念材料であった神住との合流地点という憂いは晴らされていて、ここまで来ると少しばかりフェイカーを離しても問題は無いだろう。
事実これまで一定の間隔を保っていたニケーとフェイカーとの距離は徐々に開かれていた。
「もうすぐ指定のポイントに着くぞ。神住は確認できるか?」
「いえ、まだ来ていません」
『ナイスタイミングだ、陸』
「御影君!? そっちはどうなったの?」
『真犯人の確保と事後処理はアルカナ軍に任せたから問題ないはずだ。後は俺達がホープを破壊すれば今回の襲撃事件は解決する』
「ホープってなんだ?」
初めて耳にする単語に陸がオウム返しで聞いてきた。
『フェイカーの正式名称らしい、ってそれは別にどうでもいい。もう少しで合流ポイントに到着するぞ』
「御影君は何処にいるの? こちらからはまだ確認できていないけど」
『大丈夫、俺からはニケーが見えているさ』
「だったらここで止まって待っていてやるよ」
「エネルギーシールドを艦体右方向に集約展開。フェイカーを近付けさせないで」
「はいっ」
「ニケーは下部ハッチを開いたまま待機」
停止したニケーが艦体下部にあるハッチを開く。それは格納庫に直結している扉であり、いつもはシリウスの収容や物資の搬入に使っている通路だった。
開かれたハッチが地面すれすれにまで下りていく。そうして作られた道は今まさに来訪者を待ち構えている。
「神住さんが到着しました」
真鈴が告げるとメインモニターの一部にバイクに跨がった神住の姿が映し出される。
砂埃を巻き上げながら近付いてくる神住は一般道路ならば明らかに速度超過。それでもこの状況においてニケーに比べれば明らかに遅いそのスピードは些か歯痒く思えてしまう。
半透明なエネルギーシールドの向こうにフェイカーが見える。過去に出現したどのフェイカーとも異なる両手に持たれた一対のミサイルバズーカの銃口がニケーに向けられた。間を置かずして撃ち出される砲弾はエネルギーシールドに阻まれるものの凄まじい爆炎と衝撃を一面に広げていた。
「こいつ、ニケーが動かないからといって好き勝ってに撃って来やがる」
「堪えて。反撃は御影君と合流した後に。万が一にも御影君に当てるわけにはいかないわ」
「わかってますって」
戦艦であるニケーには武装が搭載されている。ジーンが戦場の主役になって久しい昨今、それらを使用するほどの大規模戦闘は稀だが全く使えれないわけではない。寧ろ今回のフェイカーのように戦艦にしつこく纏わり付いてくるオートマタを牽制、あるいは迎撃するために使用されるのだ。
エネルギーシールドの合間を縫って射撃することはそう難しいことではない。大きさの違いが威力の違いになるのならば、戦艦に搭載されている武装はジーンが使う量産品の武器に比べて威力が高い。
このことはフェイカーのライダーも知っているはずなのに、ニケーを襲ってきているフェイカーはエネルギーシールドによって阻まれ起こる爆発すら楽しんでいるかのように手を止めることなく、弾が尽きるまで砲撃を繰り返していた。
神住は爆風と衝撃にバランスを崩すことなくバイクを走らせて開かれている艦体下部にあるハッチに乗り上げた。
存外に急勾配な道をアクセルを噴かせて駆け登っていく。
格納庫にある指定の場所にバイクを止めると神住はそのままシリウスが固定されている整備ハンガーに向けて走った。
「来たか」
神住の到着に気付いたオレグがシリウスの陰から現われて駆け寄っていく。
「シリウスは?」
「いつでも行ける。全武装、問題無く動かせるぞ」
「さすが!」
「ぬかせ。これは一体何がどうなってやがる。あれは本当にフェイカーなのか?」
シリウスの整備の最中、余裕をみては格納庫にあるモニターから外の様子を観察していたオレグが神住に問い掛けていた。
神住はライダースーツに着替えながらそれに答える。
「ああ。フェイカーと同型機なのは間違いないさ」
「フェイカーってのは光学迷彩で姿を消すのが特徴なんじゃなかったか」
「それを聞くってことは今回は姿を消して襲ってきたわけじゃないんだな」
「いや、いつの間にかニケーに接近してきたってことだから、姿を消して云々ってのは間違いないと思うがよ、それ以降はずっとああやってバカスカ撃ってくるだけだ」
「それは多分今乗り込んでいるライダーの性格じゃないかな」
「あん?」
「フェイカー、いや、正式にはホープって言うらしいんだけどさ。それは乗るライダーによって戦い方を大きく変えるんだ。その理由は単純にライダーが違うからなんだけどさ」
「ってことはなんだ? フェイカーってのはその性能を百パーセント活かすための専属のライダーがいるわけじゃなくて、適当なライダーが乗り込んでは暴れているだけってことかよ」
呆れたというように言って退けたオレグに神住は苦笑を返していた。
自身もジーンの技術者である神住はオレグが言わんとしていることは重々理解していた。ホープの制作者であるステファン・トルートがいたその場では言わなかったが、自分の感覚からすれば彼女が誰でも良いとライダーを選んでいたのは失策でしかない。
無調整のデルガルのような量産機ならばまだしも、機体固有の特別な機能を持たせようとするのならばやはりそれを使うための技量を持つライダーを育てる方がいい。でなければ十全に機体性能を発揮させることができないからだ。
実際に神住が戦ったのは捕まったルーク・アービングだけだが、彼はフェイカーの性能を余すことなく発揮させていたように思う。彼が特殊だったのか、あるいはその前も似たようなものだったのかはわからないが、とりあえずただ無策にミサイルバズーカで砲撃を繰り返しているだけの今のホープのライダーとは比べるまでもない。
ライダースーツに着替えを終えた神住はシリウスのコクピットに続く即席の通路を駆け上っていく。
「フェイカー、じゃなくってホープだったか。とりあえず、それについて現時点で分かっていることを教えておくぞ」
「頼む」
「まず見ても分かるように使っている武装はあのミサイルバズーカだな。まあ、背負っている予備の弾倉の形状を考慮するとそろそろ弾切れになるはずだ。それからは別の武器に持ち替えることになると思うが、現状それらしい武装は確認されていない。見た目は以前のフェイカーとそれほど大差はないが、少しばかり出力が高いように思う。エネルギー効率が良くなったのか、別の動力炉を積んだのかは分からんがな」
コクピットに座りシリウスを起動する。
各部のチェックを行いながら神住はオレグの言葉に耳を傾けていた。
「ニケーのシールドを貫くことは無いだろうからまだ余裕はあるが、次に何を仕掛けてくるか分からないって意味じゃ不気味だ。破壊した時に坊主が倒したフェイカーと同程度の爆発をするとしてもアルカナから離した今、際立った被害は出ないだろう。好きに戦っても問題無いはずだ」
「了解」
シリウスを固定している整備ハンガーのロックが外されていく。
機体を支えていた作業アームが離れたことにより機体に掛かる独特な自重をコクピットを通して感じていた。
『神住さん。いつでも発進できますよ』
準備を終えてコクピットに乗り込んだことを確認した真鈴が殆ど間を置かずに告げた。
シリウスの左腕にはいつものシールドが取り付けられ、右手にはいつものライフルが握られている。
シリウスは格納庫から発進カタパルトの定位置へ立っている整備ハンガーの土台ごと移動していた。
オレグは既にその場から退避していて、真鈴が言うようにいつでもシリウスはニケーから飛び立って行ける。
シリウスのコクピットに進路を示すガイドラインが浮かぶ。
「シリウス。発進、どうぞ!」
「御影神住、シリウス、出るぞ!」
神住の宣言に続いてシリウスの後方に一瞬、青い光の輪が現われた。
足下の整備ハンガーの土台がもの凄い速度で前方にスライドしていくと背後の光の輪はいとも簡単に霧散してしまう。
コクピットの中で感じる加速に耐えつつ、神住は足下のペダルを踏み込んだ。本来ジーンを動かすだけならば必要の無い動作だが、この時のそれは土台とシリウスの足の固定を解くための動作である。速すぎれば加速に乗り切れず、遅すぎれば土台に足が取られてしまう。
ベストなタイミングで解き放たれたシリウスは天高く舞い上がった。
重力から解放されたシリウスは空中で体勢を整えるとライフルの照準を地上でニケーに砲撃を繰り返しているホープに向けた。
突然のシリウスの発進に気が付いたホープは頭だけを動かしてそちらを見た。
単眼のカメラアイがシリウスを映す。
ホープが両手に持つミサイルバズーカの砲門をシリウスへと向ける。
ホープのライダーの指が引き金を引くよりも速く、シリウスが構えるライフルから一筋の光が放たれた。シリウスが撃ち出した光の弾丸はホープが構えているミサイルバズーカの片方を貫く。
高温のバーナーによって金属板に穴が開けられる時のように、歪み破壊された砲身を伝う熱は装填されている砲弾を誘爆させる。爆発の直前に素早く破壊されたミサイルバズーカを手放したホープにシリウスは続けて残るミサイルバズーカを狙いを定めてもう一度撃つ。
神住の狙いと違わずに残るミサイルバズーカを貫く光。
至近距離で立て続けに起こる二度の爆発を受けたホープは自身の外部装甲の一部を失っていた。
「さて、どうする。これでオマエの武器は無くなったぞ」
敢えて本体を撃たずにホープの動向を窺っている神住はコクピットで独り言ちる。
無線通信を繋いでいるニケーのメインブリッジや格納庫を除いてコクピットの中にいる神住の声は聞こえない。当然ホープのライダーにも聞こえていない。だというのにあからさまに自分を攻撃できる機会を無視して余裕振りを見せ付けてくるシリウスにホープのライダーは激昂して獣のように吼えた。
「ふざけるなっ。オレを馬鹿にしてんのか!」
馬鹿なのか自分の姿すら曝け出して全方向に届けられたホープのライダーの声は若い男のものだった。
真鈴が美玲の指示を待たずに映像の男を警察のデータベースと照合した限りではホープのライダーの名前は郷良一郎というらしい。暴行による逮捕歴がある郷良という男の口調や言葉の端々から感じる印象の通り彼は所謂街の不良というやつだった。少しばかりジーンを動かせるのかも知れないが、それを生業にしているわけではない。
ホープというジーンと相対するときにあった唯一の警戒要素であったライダーの技量は神住が想定していたよりも低いらしい。万が一、熟練のライダーが報酬に目を眩ませて乗り込んでいたとしたら厄介だと思っていただけに、ただの街の不良程度ならばと変に安心している自分に神住は笑いを禁じ得なかった。
「降りてこいっ。今すぐボコってやんよ!」
フェイカーと同様にホープは素体骨格の質が良いはず。なのに纏う装甲がデルガルの物を流用した内部装甲と外部装甲では自身の挙動を阻害する拘束具も同然に思えてしまう。
思い起こせば以前のフェイカーも装甲が万全にある時よりも装甲を全て失い素体骨格だけになった後の方が機動性が増して格闘性能が上昇していたようにすら感じる。
こればかりはステファン・トルートにとっても想定外だったのだろう。予め予測していたのであればそれに見合う改修を施していたはずだ。
などと考えながら神住はシリウスを地上に降ろしていた。
上空から一方的に撃ち倒したのでは何も面白みがないと思っただけではなく、ミサイルバズーカを失ったホープが両手で鋼鉄製のメイスを握ったのを見て格闘戦を仕掛けてくると判断したからだ。
郷良からすればようやくシリウスが自分の手の届く距離に来たことに喜色を浮かべる要因になったが、神住からすればホープの格闘性能を再確認できる絶好の機会を作っただけに過ぎない。
「オラああああああああああああああッッッ」
シリウスの着地を見計らったように郷良が叫び襲い掛かってくる。
妙に慣れた印象がある右手のメイスを振り上げたその格好はライダー自身が生身のケンカで日常的にメイスと似た道具を使っていることを物語っていた。プログラムで挙動が決められている従来の機械とは異なりライダーの意思を読み取り動くジーンだからこそ浮き彫りになる事実であり現象だ。が、ジーンの攻撃としてはあまりにも不格好。ケンカには慣れていてもジーンを用いた戦闘には慣れていないのだろう。
シリウスの着地の瞬間を狙ったこと自体からも素人感が拭えない。
確かに人が高所から飛び降りて着地すれば足が痺れて動きを止めることはままある。しかし、それは人だかこそ。機械であるジーンにそのような現象が起こるはずもなく、事実シリウスは着地した瞬間にも的確にホープを迎撃することができていた。
振り下ろされるメイスをライフルで狙い撃ち、放たれる光弾が正確にその先端を吹き飛ばしていた。
「ばかなっ!」
郷良が驚愕に満ちた声を上げる。
神住は聞こえてくるその声を無視してもう一度引き金を引いた。
狙いは残るもう一方のメイス。
せっかく両手に武器を持っているのならそれを活かした戦い方をすれば良かったのにと思わずにはいられない。それが素人である所以なのだろうが、神住からすれば残念なことこの上ない。
光弾に貫かれてホープの左手に持たれていたメイスがその根元から折られてしまう。重い音を立ててホープの足下に落ちた金属の塊が陽の光を反射して鈍く輝いていた。
ミサイルバズーカに立て続けてメイスを失ったことは郷良からすれば一瞬の出来事だったのだろう。
あからさまに動揺している様子がホープという決して誤魔化すことなどできない自己を映した鏡によってはっきりと浮き彫りになってしまっている。
「拍子抜けだな」
落胆の色を隠そうともせずに神住が呟いていた。
ホープというジーンの性能が以前のフェイカーと変わっていないのならば決して低くはない。だというのに落胆するほど物足りなく感じてしまっているのは、現在乗り込んでいる郷良の実力が低いと言っているのも同然。
これではホープの格闘性能を検証しようとしても本来の性能が発揮されるとは考えにくい。それでは本末転倒だと早々に戦闘での検証を諦めた神住はライフルを剣のように構えてシリウスを急加速させた。
「ひっ」
声を引き攣らせて後退するホープ。すると最初に弾き飛ばされたメイスに足を取られてしまい、不格好にも尻もちをついてしまった。
反撃はおろか防御すらまともに取ることのできていないホープにシリウスの持つライフルの刃が振り下ろされる。
倒すと決めたからにはまずは相手の戦力を削ぐのが定石。バタバタと前に出して振っている両手を肘の辺りで斬り飛ばした。
「うわぁっ」
何かの拍子で声が外に聞こえるようになったのだろう。情けない郷良の声がした。
続けてコクピットの中で郷良が生じた衝撃に身を縮こませたのだろう。ホープがダンゴムシのように丸まった。
斬り飛ばされた腕がホープの近くに落ちる。メイスの先が落ちたときとは違う連続するドサッという音に郷良はビクッと体を震わせた。
「やめろ! やめてくれ!!!」
怯えきった郷良の声が響く。が、神住はその手を止めない。逃げられないようにと脚を斬り飛ばそうとしたのだが、ホープが不意に身を丸めたことで起動が逸れてしまい、その頭部を斬り飛ばしていた。
一瞬にして暗闇に包まれるホープのコクピット。
自分の目は見えてはずなのに何も見えなくなったことで郷良が感じている恐怖は最大限になった。
こうなってしまってはホープにまともな戦闘などできるはずもない。動く的どころか動かない的と化したホープに神住は興醒めだというようにライフルの切っ先を下ろした。
「ホープのライダー、聞こえているか」
この時になってようやく神住は外部にも聞こえるように設定を切り替えた。そうすることで神住の声が外にも届くようになる。
「えっ、な、だ、誰だ?!」
「お前に戦う意思がないのならホープから降りるんだ。そうするのならこれ以上攻撃はしない。十秒以内にホープから降りてこない場合、戦う意思があるとして攻撃を再開する」
「は? や、やめろ」
「だったらすぐに降りるんだ」
「ふざけるなっ」
プライドが傷付けられたとでも思ったのだろう。郷良がコクピットの中で吼えた。
虚勢を張っているのか、それとも本当にまだ戦えると思っているのか。冷淡な表情でホープを見ている神住は敢えて狙いを外してライフルの引き金を引いた。
「ひいっ」
撃ち出された光弾がホープの傍で弾ける。
外の様子は見えていないにしても音は聞こえてくるし衝撃も感じられる。寧ろ何も見えていないからこそ恐怖は肥大しているともいえる。コクピットの中で怯えた郷良の様子をホープが忠実に反映していた。
「10、9、8……」
有無を言わさない声色でカウントダウンを始める神住。その口から出る数字が着実に減っていく度に郷良は顔を青ざめさせていく。
律儀にも時計の秒針と同じ間隔で数を減らしていく神住の口から発せられる数が“5”を切った辺りで郷良の余裕は完全に失われた。“3”と言った段階でホープのコクピットハッチが開かれる。それでも数を数えるのを止めない神住に郷良はコクピットから這い出るようにして飛び出してきた。
ジーンの高さを忘れてしまっていたのだろうか。開かれたコクピットハッチの足場の幅すら失念しているかのように勢いよく這い出てきたた郷良は足を踏み外して地面に落ちていった。
作者からのとても大切なお願いです。
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この10ポイントが本当に大きい。
大切です。
製作のモチベーションになります。
なにより作者が喜びます。
繰り返しになりますが、ポイント評価を宜しくお願いします。