蒼空のシリウス 十三話
最終話まで平日の夜9時に毎日更新します。
(注)カクヨムでも掲載されています。
テーブルの上の書類に三人の署名があることを確認して水戸は一言「失礼します」と告げてソファから立ち上がって部屋から出て行った。
三人が部屋に残されたあと、真っ先に口火を切ったのは天野だった。
「では、これからの私達の具体的な方針について話し合うとしようじゃないか」
「手掛かりひとつない状況でオッサンが丸投げしてきたわけじゃなさそうで安心したよ」
「と言っても目を惹く新情報が手に入ったというわけじゃないんだがな」
「はあ?」
「やはり今回の一件で一際浮いて見えるのはこのジュラ・ベリーという男だと私は思う。そもそもな話、ルーク・アービングがフェイカーから引きずり出された時にジュラ・ベリーの姿をしていた理由が分からない。自分の姿を偽装することが目的なら何もその男の姿を使う必要は無かったはずだ」
「つまりそこに俺達が知らない必然性があると?」
「でなければ説明が付かないだろう」
「かもな」
神住が嘆息混じりに肯定する。
「とりあえずはもう一度ジュラ・ベリーについて調べてみるってことでいいのか?」
「ああ。安心しろ。それに関しては既に元技術開発部隊だった人達をギルドに呼んで集めてあるぞ」
「はい?」
「流石に全員というわけにはいかなかったがな。それでも話を聞くだけなら十分なはずだ」
「いや、そういうことじゃなくてさ。流石に手際が良すぎないか」
平然と言う天野に神住は首を傾げながら問い掛けた。
「まあ、タイミング良くギルドで面会する予定があったとだけなんだがな」
「……どんなタイミングだよ」
「簡単なことだ。以前、女王蜂がフェイカーと戦った後に元技術開発部隊の人達の所にはギルド職員が話を聞きに行っている。それこそギルドだけじゃなく、警察やアルカナ軍もそうだろう。しかし、警察やアルカナ軍はわざわざその後のことを報告しに来ることはない。だから彼らは精々ニュースとなって報じられた程度のことしか情報を知る術がない。ならば残る一つに話を聞きに来るのは自然なことだろう。それこそ彼らは当事者の一人でもあるのだからね」
「ギルドはどこまで話すつもりなのですか?」
つらつらと淀みなく答える天野に顔を顰めるラナが訊ねていた。
「アルカナ軍が秘匿している情報もあるのにか」
「そうです」
「現時点でギルドが秘匿すべきことは何もないと考えている。元々ジュラ・ベリーと同じ部隊にいた人達だ。ニュースで流れたフェイカーの姿を見ただけでそれが何を積んでいるのか大方の見当は付いているだろうさ。変に隠し立てしたところで意味は無い。違うかい?」
「それは、そうかも知れませんけど、しかし……」
「そもそも彼らがギルドに来たのはことの信憑性を確認しに来たと考えて間違いないはずだ。となれば変に隠し立てするよりも、彼らが持ち、未だ外部に告げていない情報を聞き出すことの方が大事なんじゃないのかね」
技術者ではなく、ギルドの上層部の一人としての顔で天野が言い切った。
アルカナ軍とギルドで立場が異なっている現時点ではラナには天野の提案を止める根拠を示すことはできない。それでもと、軍の機密に当たる情報は秘匿して欲しいと懇願するので精一杯だ。
互いの立場の違いは理解しているようで天野も間髪入れずに「わかっているさ」と答えていた。
「さて、そろそろ行こうか。連絡を入れてあるとはいえ、彼らに応対しているのは私直属の部下じゃないのでね。間違って帰してしまっては二度手間になってしまう」
和やかな笑みを浮かべている天野に連れられて神住とラナはエレベーターを使いギルドの別の階層へとやってきた。小規模な会議室と応接室が並ぶ、謂わば来客用の階層だ。
使われている部屋には文字通り『使用中』の札が掛けられ、空いている部屋は扉すら閉められていない。
「ここだ」
天野が立ち止まったのはまさに使用中の札が掛けられている第二会議室。その中から数名の話す声が漏れ聞こえてくる。
「失礼します」
数回ノックして返事を待ってから扉を開けて天野が部屋に入っていく。神住とラナが続けて第二会議室に入っていった。
この時のラナの服装はギルドの職員の制服へと替わっていた。眼鏡を掛けて黒髪のカツラも被っている。天野曰くアルカナ軍の人だとバレないための変装とのことだが、それ以外にも目的があるように神住は思えてならなかった。
今回の事件、一応の犯人として捕まっているのがルーク・アービングという青年で、ラナ・アービングはその姉だ。曲がりなりにもここに集まっているのは元アルカナ軍の人たち。既に引退しているとはいえ全くの一般人と同じように考えていたのでは足下を掬われるかもしれない。万が一、彼らが捕まったルーク・アービングのことを知っていた場合、ラナの顔も知られている可能性もあるのだ。
ラナを見て何か警戒を抱かせてしまうかもしれない。無駄になる可能性が高いとしても警戒せずに不要な確執を生むよりはましということだろう。
「私は東条天野。ギルド第三管理部部長を務めている者です。そしてこちらは今回の事件の調査と解決に協力をして頂いているトライブ、ニケーの代表である御影神住」
「初めまして」
「彼の隣にいるのは“レリア”という私の秘書です。ここでの会話の記録のために同席することを了承してもらいたいのですが」
レリアというのは天野が適当に決めたラナの偽名だ。
ギルド役員としての顔で天野が話を切り出した途端、部屋のなかにいる人の視線が神住たちに集まった。
会議室にある備え付けの椅子に腰掛けているのは妙齢の男女が四人。品の良い女性用の礼服を着た穏やかそうな雰囲気を纏った老婦人。休日のお父さんのような服を着た恰幅が良く気のよさそうな笑みを浮かべている男性。気難しそうに腕を組み、まるで神住たちを値踏みするかのように睨み付けている作業着を着た男性もいる。
そして残る一人。どこかの会社の重役かと思わんばかりに高級時計や高級そうなスーツを纏った男がすっと立ち上がった。
「構いませんよ」
「有り難うございます」
礼を述べる天野に向けて男が挨拶代わりと握手を求めてきた。
にこやかに笑みを浮かべて天野が男の手を取る。
「こちらも自己紹介をした方が宜しいですかな?」
「お願いします」
まっすぐ神住たちの顔を見てスーツを着た男が言った。微かに振り向いた天野は神住が頷くのを見て答えると、男は自身のスーツの胸ポケットから名刺を取り出して天野と神住に手渡してきた。
「私は【クラエス・バドソン】。以前はアルカナ軍技術開発部隊に在籍していました。今は、そうですね。自分が起こした会社を息子に任せて悠々自適な生活を送っているただの老人と言ったところでしょうか」
「あら嫌だわ。バドソンさんがただの老人だなんて言ったら、あたしはどうどうなっちゃうのかしら?」
「貴女は」
「あたしは【ステファン・トルート】。今は孫の世話を見るのが生きがいになっている普通のおばあちゃんよ」
人当たりの良い笑みを浮かべてステファンが言う。
「俺は【トール・ガンデファ】。大きなパン屋っていうパン店をやっているよ。商業区じゃなくて居住区にある小さな店だけどね。味は間違い無しだから今度買いに来てよ」
恰幅の良い男性――トールが店のチラシのようなものを神住に手渡した。
「【アドル・紅林】。車の整備工だ」
ぶっきらぼうにそう告げるアドルに天野は苦笑を返しながら全員に向けて、
「よろしくお願いします」と告げた。
全員が自己紹介を終えると天野は四人に再び座るように促してその向かいに神住たち三人も椅子に座る。
事前に何らかの話し合いが行われていたのだろう。テーブルに置かれているタブレット端末の電源が入ったまま。
何気ない仕草でそれを取り、表示されている画像に目を向けると神住はタブレット端末を慣れた手付きで操作していた。
「それで、私達に聞きたいことがあるとのことですが?」
全員が席に着き最初に話したのはクラエスだった。他の三人は表情一つ変えず、天野たちの返答を待っている。
天野が隣に座る神住に視線を送ってきた。どうやらここでの会話を主導するのは神住の役割だと捉えているらしい。ギルドの役員である天野が話を聞こうとすれば先程までの繰り返しに取られかねないと考えたようだ。
それならばと神住は敢えて事件の真相の調査よりも自分が知りたいと思っていることを聞くことにした。
「では俺からいいですか?」
念の為に了承を取ると、四人は構わないと頷いて応えた。
「まず、皆さんはここに映っているフェイカーというジーンに見覚えはありますか?」
「えっと、アルカナ軍が使っているデルガルという機体ではないのですか」
持ってきていた自身の端末にフェイカーの画像を表示して、それを見せながら神住が問う。
神住の質問は四人の老人にとって最初の質問と予想していたものとは違ったのだろう。一瞬だけ戸惑うような表情を浮かべるもすぐに元の表情に戻ったクラエスが代表して答えていた。
「違います。皆さんが見ても一目瞭然だと思いますが、これはデルガルではありません。その皮を被った全くの別のものです」
持参してきた資料の一つ。数枚のフェイカーの写真を見せながら断言する神住に一際大きく反応したのはアドルという男。しかし何かを言うのではなく、他に比べて大きく表情を変えただけでそれ以上は何も答えなかった。とはいえ次の質問を投げかけるでもなく、四人の返答を待っている神住を見てトールはわざとらしいほどにあどけた様子で言ってのける。
「いやはや、流石に現役を退いてからジーンというものには触れてこなかったものでしてね。写真を見ただけじゃわかりませんよ。そりゃあね、ニュースやなんかでは見ることはなくは無いですけどね。繰り返すようだけど、こんな写真を見ただけじゃさっぱりですよ」
「ですが、貴方達は優秀な技術開発部隊だったと聞きます。全くの素人というわけでもないでしょう。どんなに小さなことでも構わないんです。これを見て何か気付いたことがあれば教えてもらえませんか?」
飄々としたトールに知らないと言われるも神住は穏やかながらも強い口調でさらに問うていく。
「……何が知りたい」
「アドルさん?」
不意に口を開いたアドルにステファンが驚いたというようにその名前を呼んだ。
「トールが言ったように、わしらは現場を退いて長い。きみたちが知らず、わしらが知っていることなど殆どないようなものだ」
「それでも構いません。俺も技術者の端くれ。自分が知らないジーンについては興味があるんですよ」
「ほう。技術者というか」
「何と言っても俺が使っているジーンは自分で作り上げたものですから」
「なるほど。だが、一人で作り上げたわけではあるまい」
「そうですね。勿論、トライブの整備チームの人の手も借りていますよ」
神住の発言の真偽を理解している天野は表情に出さないまま心の内で「嘘だな」と断じていた。
確かにトライブの整備員の手を借りているのは事実。しかし、実際に神住が乗るジーンであるシリウスを製作したのは神住一人。それを可能とする特別で大掛かりな設備がある施設の存在も天野は知っているのだ。
アドルと神住によるジーン談義が続いている。
その中にはジーンの根幹に関することも含まれていたが、確かに本人たちが言うようにアドルの指摘する部分や知識は少しだけ古い。流石に二十年も前のままアップデートしていないというわけではないようだが、それでも最新の技術には追いついていない。
二人の話を聞きながらこの人たちが関わっていると考えたのは間違いだったのかと思い始めた矢先、神住は会話のドサクサに紛れて別のことを聞いていた。
「わしらが技術開発部隊で行っていた研究だと?」
「はい。今もこうしてジーンに対して造詣が深い皆さんです。以前に行っていた研究はそれはもう当時最先端のものだったのでしょう。よろしければそれを俺に教えてはもらえませんか?」
そう言い切った途端、クラエスの表情に変化が見えた。
言おうかどうか迷っているというよりも、そんなことを聞いてくる神住を警戒しているかのような表情だ。
「いや、それは…」
「時間が経っているとはいえ、軍での研究は口外してはならないことになっているのよ。ごめんなさいね」
歯切れの悪くなるアドルをカバーするようにステファンが助け船を出してきた。
「そうですか。では、俺の話を聞いてはもらえませんか? 内容は…そうですね。このフェイカーに対する俺の私見では如何ですか?」
困ったような笑みを浮かべているステファンとバツが悪そうに下を向いたアドルの隣で変わらぬ警戒を向けてくるクラエスと冷や汗を描き始めたトール。四者四様の態度を見せながらも、誰一人として神住の話を止めようとはしなかった。
人知れず神住の瞳に獰猛な獣のような光が宿る。
「まずこのフェイカーが持つ特別な機能。それは高精度な光学迷彩と場所を選ばない高精細なホログラムの投影でしょう」
ギルドだけじゃない。アルカナ軍や警察が持つ資料にも記されていることでありながら半ば箝口令が引かれているも同然の情報を平然と口にする神住に天野を挟んだ向こうに座るラナがギョッとした表情を浮かべた。
「正確なシステムの詳細までは分かっていませんが、それこそがこのフェイカーというジーンがアルカナ軍の駐屯地を襲撃する際に使用していたものであり、フェイカーの持つ機能で最も警戒すべき機能なのは間違いないでしょう」
そこで区切り神住は目の前の四人に視線を向けた。
一度息を吸い込んでから再び言葉を続ける。
「おそらくアルカナ軍はその再現を試みるはずです。例え国際条約によって禁止されているとしてもそれ自体が存在するならば、それに対して無知のままでは自衛することすら叶いませんからね」
「自衛だけで済むのでしょうか?」
重く、そしてどこか怯えたような声色でクラエスが問い掛けた。
「そうはならないと?」
天野がそっと聞き返す。
被りを振ってクラエスが続ける。
「人は愚かではありません。ですが、賢くもない。目の前に置かれた誘惑を確実に断ち切れる者などそうはいないのではないでしょうか」
「確かに。解析の結果、再現できると判明した段階で開発を止める確証はありません。しかし、一度作られてしまったものは作られる前には戻せません。“ある”と前提した上で考えることが重要だと私は考えています」
「やはり、皆さんが技術開発部隊で研究していたのはこのフェイカーが搭載している光学迷彩とホログラム投影だったのですね」
ゆっくりと確証を得たというように言い切る神住に、目の前のクラエスは項垂れるように首を縦に振った。
「完成させていたとは驚きです。それも二十年も前に」
本心から出た天野の一言に今度はトールがそれまでの飄々とした雰囲気とは異なる重々しい雰囲気でぽつりと呟くように答える。
「残念ながら完成には至りませんでした。まあ、だからこそ俺たちは技術開発部隊をクビになったんですけどね」
「それはどういうことですか?」
予想外の一言に天野が思わず聞き返している。
「言葉の通りですよ。理論はできたんです。しかし、それを作り出す技術は当時の俺達にはありませんでした」
「そうね。あの時代は今ほど技術が発達してはいなかった。ましてジーンという巨体の全てを覆うほどのホログラムの投影も、その全身を隠してしまうほどの迷彩技術なんてものも、実際に作ることなんてできなかったのよ」
抱いているのは後悔か、それとも安堵か。ステファンは声のトーンを落として言ったのだった。
昔を懐かしむように告げるステファンに神住は無言で耳を傾けていた。
二十年。声に出すと短いその単語も実際には限りなく重い言葉。
ジーンに限らず技術の世界は日進月歩。突然のブレイクスルーが起きて急激に進歩することもあるが、そうでなくとも研究者達は日々今日できなかったことを明日にできるようにと研究しているのだ。
そんな世界での二十年というのは出来なかったことがそれ以上に出来るようになるまでの時間としては十分に考え得る時間だった。
重い沈黙を破り天野が問い掛ける。
「実際には作られなかったとしても、その技術の研究データはどうなったんですか? 皆さんが解散した後に破棄されたのですか?」
「軍がデータを抹消したなんてことはありえないわ。何故ならあの時、データを消したのはあたしたちの部隊の専属テストライダーだったジュラ・ベリーなんだもの」
「えっ!?」
思わず声が漏れたラナにステファンの視線が向けられる。
ラナは「失礼しました」と言って素早く視線を下げ、手元のメモで顔を隠した。
「何故、ジュラ・ベリーはそのようなことを?」
ラナの代わりに天野が訊ねる。
「そうね。もう二十年も経ったのよね。それくらい話しても構わないのじゃないかしら」
「そうですね」
ステファンが目を瞑り考え込んでいるクラエスに訊ねると、クラエスはゆっくりと目を開いて呟いていた。
目の前のラナに視線を送り告げる。
「ちょうどアルカナ軍の関係者もここに居るようですから」
目を伏せてメモで顔を隠しているラナに向かってそう言ったクラエス。今度は天野が驚きの表情を浮かべていた。
「気付いていたのですか」
「こう見えて私はまだ軍と太いパイプがありますからね。全員の顔とまではいきませんが、今回の事件の重要人物の顔くらいは記憶していますよ」
自分では隠居した老人と称していたクラエスがあっけらかんといた口調で言い放った。
責めるでもなく事実を告げただけという顔をするクラエスに神住が聞く。
「クビになったというのは語弊があるのでは?」
「いいえ。私達は正しくアルカナ軍をクビになったのです。ジュラ・ベリーが起こしたデータ消失事件の責任を取る形でね」
「部隊全員がですか? 失礼ですが、データが消えた以上はそれを復元することが可能である皆さんをクビにするメリットなんて無いように思えるのですが」
「普通ならそうでしょう。しかし私達全員が口裏を合わせて復元することはできないと言ったのです。ジュラ・ベリーが消したデータは唯一無二。復元することも、同じ物をもう一度作ることはできないと。頑として意見を変えない私達に当時の上層部はそれを受け入れるしかなかったのですよ」
「どうしてそのような嘘を」
「東条さん、それに御影さんでしたね。お二人が感じていることと同じですよ。当時は光学迷彩技術の使用に関する国際条約なんてものはありませんでした。ですが、私達はそれを完成させてすぐに直感しました。これはあってはならない技術なのだと、確実に争いの種になると。
今でこそアルカナが完成して百年ほどが経ちましたが、当時はまだ八十年ほどしか経ってなかった。アルカナが完成する前の人同士の大規模な争いを知る人もほんの僅かですが生きていた時代です。彼らにとってジーンは自分達を守る存在でありながら、他を脅かし自身を優位に立たせることができる武器でもあったのです。なのにジーンの姿を完全に隠すことができる技術ができてしまった。強力なジーンの武器が開発される度に極めて僅かですが現われていたのです。それを使い他のアルカナを襲撃して自分達を豊かにしようと考える馬鹿な人達がね。そんな人達が完璧な迷彩技術を放っておくと思いますか?
姿が見えなければ襲ったのが自分達ではないと嘯くことができる。責任逃れをすることができる。仮にその技術を両方の陣営が獲得したとき、起こるのは昼夜を問わない争いです。それでは一世紀を遡り、再び人の最大の敵は人になってしまう。曲がりなりにもオートマタという共通の敵が現われたことにより表立った人同士の争いが減少したこの時代に」
長く真剣なクラエスの言葉に神住と天野は深く頷いていたがラナだけはどこか信じたくはないというように顔を伏せてしまっていた。
「だから隠したというわけですか」
「ええ。当時はそうすることが一番だと部隊にいた全員で決めました」
「ジュラ・ベリーさんが死亡したのは何故ですか?」
「それは単純な車の事故ですよ。ジュラは退役後、街で車の送迎の仕事をしていました。当時は今ほど自動運転が普及していなかったために、今よりも自動車の事故というものも多かったのです」
「その事故が事故では無かった可能性は?」
「どうでしょうね。当時調べていれば何か分かったのかも知れませんが、生憎と全員が軍を離れて新たな人生を歩み出したばかりの頃でした。軍にいたときのような本格的な調査を行う余裕は時間的にも金銭的にも精神的にもない時代でしたから」
まるで過去を悔いているような口振りのクラエスの隣に並び座っている三名もまた同じように過去を思い出しているようだ。
重い沈黙を破るように神住は再び資料にあるフェイカーの写真を指して問い掛ける。
「もう一度だけ聞きます。本当にこのフェイカーというジーンに関して、皆さんが知っていることはないのですか?」
さっきと同じ質問だが同じ意味は持たない。今度は単純に聞いたのではなく、クラエスたちが研究していたことを知り、それをフェイカーというジーンに結び付けて問うたのだ。
言外に秘められた意味合いを感じ取ったのかクラエスは脱力したように椅子の背に体を預けた。そして目を瞑り、組まれた手に力を込めながら答える。
「このフェイカーというジーンは知りません。しかし、このジーンが搭載していたとされる技術は当時、私達が開発していたもので間違いないでしょう」
元技術開発部隊の四人を除く神住、天野、リタの三人が同時に息を呑んだ。
作者からのとても大切なお願いです。
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大切です。
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