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蒼空のシリウス 一話

新作投稿始めました。

最終話まで平日の夜9時に毎日更新します。

(注)カクヨムでも掲載されています。


 戦場に魅入られたことがあるのかと聞かれれば、確かにそうなのだろうと御影神住(みかげかすみ)は自嘲混じりに答えたことがある。

 だけど、それは誰にだったのだろう。

 肩を並べて戦った戦友だったような気もするし、ただの同業者だったようにも、そのどちらでもなかったようにも思える。

 事実、御影神住という人物にとってそんなことはどうでもいい、些細な疑問にすらならないことだった。

 大切なのは目の前のこと。

 人々が生きる都市を破壊し、自分たちの生命を脅かす存在【オートマタ】という自立行動型の機械という外敵を倒すことで襲撃を防ぐこと、そしてその残骸を売却することで手に入る金銭の方が何倍も大切なのだ。

 特別な贅沢をするつもりなどない。ただ、今日と明日の生活費になればいい。

 欲が無いと言われることがある。都市を守ろうとする気概が無いとなじられたこともある。けれど御影神住にとってはそんな人の声など過去に投げかけられた質問と同じようにどうでも良いことだった。


 世界の至る所に建設された特殊な外壁に囲まれたドーム型の都市【アルカナ】。

 そこは今や人が安全に暮らすことのできる数少ない安息の地となっている。

 旧暦の時代、全ての国々は船や飛行機で自由に行き来することができたらしい。しかし、現代では到底無理なこと。アルカナの外では常に世界のどこかでオートマタが自動生成されており、絶えずどこかの場所で戦闘が発生しているのだから。

 オートマタの基本的な行動理念は星の保全であり、有害物質の分解排除とされている。当初、排除の対象は自然を破壊する有害物質であったり、違法投棄された廃棄物だった。だが、時が流れるにつれて対象がより根本的なもの、生み出している人類そのものへと変化していった。

 星を守るために星を蝕む人類を排除する。単純かつ明快で、人にとっては到底受け入れられない最悪の決定だったとしても、既に人のコントロールを離れてしまっていたオートマタを止められる者は誰一人としていなかった。

 きっかけがなんだったのかなど知る人はいない。

 ことが起きたのは今や百年以上も昔の話。御影神住が生きるにとってはオートマタが襲ってくるということそのものが至極当たり前の現実に過ぎないのだから。


 突然、ザッとノイズのような音がした。

 続けて聞こえてくる誰かの「来たぞ」という緊張混じりの声。

 視界に広がる無数のオートマタが迫る光景。自己進化を繰り返したことで既存の動植物と酷似した形状を獲得したオートマタが一様にアルカナに迫って来た。


「お前ら! 気合いを入れろよ!」

「俺達のアルカナに近付けさせやしないぜ!」

「いしょっしゃあっ。たっぷり稼がせてもらうとするか!」


 オープンチャンネルの無線通信を通して聞こえてくる名も知らぬ人たちの声。それは自分を、あるいは共に戦闘に参加している誰かを勇気づけるためであるように聞こえた。

 その後も途絶えることなく発せられる言葉によって人々の熱が高まっていく。

 オートマタの群勢の戦闘が最接近するまで残り千メートルほど。

 このくらいの距離になればそろそろ自分達の長距離砲の弾丸が届く。

 間を置かずして放たれる一発の弾丸。

 戦場を切り裂く銃声が号砲となって戦闘の始まりを告げたのだ。


 オートマタの群勢の中で巻き起こる爆発。

 もくもくと立ち込める黒煙と一瞬にして広がった爆炎に怯むことなく後続のオートマタが次々と襲いかかって来た。

 迫るオートマタを迎え撃つべく、アルカナの外壁から数百メートル離れた場所で待機していた数十体もの鋼鉄の巨人が一斉に飛び出した。

 それぞれの鋼鉄の巨人には様々な武装が装備されていて、近くに迫るオートマタに攻撃を開始していた。


 鋼鉄の巨人――【ジーン】と呼称されるそれは生物ではない。全長約二十メートル、重量およそ八十トンにも及ぶ巨大な人型の兵器、俗に言うロボットの類である。【ライダー】と呼ばれる操縦者が乗り込んで操る現代の人類の最高峰の戦力だ。

 旧代の戦闘機や戦車ではオートマタの機動性と攻撃力に対応することができない。その為に生み出されたジーンという存在はある種の技術的ブレイクスルーそのものでもあったらしい。実際、開発当初のジーンはどうにか破壊することができたオートマタの素材を流用した戦車の派生でしかなかった。それが徐々に人型になっていったのは単にオートマタが人の形状だけは取ることがなかったことに対するアンチテーゼだったとされている。


 もはや歴史の授業で学ぶような事柄は現代に生きる人、それこそジーンに乗り込んで自ら戦場に飛び込んでいくような人たちにとってはどうでもいいこと。

 神住にとっても昔どこかで習ったかなとぼんやり覚えている程度のことで、歴史を解明しようなどとは微塵も考えてもいないことだった。

 そういうのは得意な学者にでも任せておけばいい。


 戦場の至る所で始まったジーンとオートマタの激突。

 いくつもの爆発が起こり、聞こえてくるのは人々の喝采と悲鳴。

 悲喜交々とは良く言ったものだとこの瞬間にはいつも思う。


「さあて、そろそろ俺も行きますか」


 小さく宣言して神住はコクピットにあるコントロールステックを軽く握る。

 神住の意に反応して飛び出していく一機のジーン。

 ジーンの操縦はコントロールステックやペダルを使って行うものではない。正確に言うのならばそれらを用いて操作することもあるが、大抵そういうものはジーンに取り付けられている装備を使うためのものである。

 ならばどう動かすのか。その答えは全てのジーンのコクピットに搭載されているライダーの思考をトレースして機体を動かすシステムにあると言える。それを補助するためのものがライダーが着ているライダースーツであり、重要なのはそこに内蔵されている【感覚共有装置】と呼ばれている高性能な特殊センサーだ。

 旧代の兵器と性能が著しく異なる点もそのシステムが大きく影響していた。

 自分の体と認識してジーンを動かすという特性上、本来の自分の体にはない部位、例えば姿勢制御のために取り付けられた翼や機体に内蔵する武装等をあたかもそれが付いていることが自然なことであるように現実の体との違和感を拭うことがライダーになるための第一歩とされている。

 思考をトレースして機体を動かせるからこそ、ライダーは頭で考えてから機体を動かすのでは動かすのでは遅い。半ば無意識下の思考でジーンを操れるようになって二流。武装をジーン本体と同様に操れるようになって一流とされているのだから。


 そういう意味では御影神住は一流のライダーといえる。ジーンという巨人をまるで自分の体であるように、それどころか自分の体以上に操っているのだ。

 御影神住が駆るジーンの名は【シリウス】。

 黒色の【素体骨格(コアフレーム)】が基礎を成し、その上にある白い【内部装甲(インナーアーマー)】が機体の大まかなシルエットを決める。その上には鎧のように各部を覆う青色の【外部装甲(アウターアーマー)】が取り付けられており、それにはそれぞれのジーン固有となる武装が取り付けられている。

 シリウスで特徴的なのは背部右側のみにに備わる可動式の【シールド・ウイング】。バランサーとスラスター、そしてブースターの役割も兼ねているシールド・ウイングの外側にマウントされている長短一対の四本の剣。それよりも大きく、刀身が長い一振りの直剣が背部装甲の中心にある。これらの剣の刀身は特殊金属【クリスタニウム】によって形成されていて、使用時には仄かな青い光が宿ることで耐久度と切れ味が増す特殊素材だ。

 右手にあるのは銃身の長いライフル。背中の剣と同じクリスタニウムで作られた刀身が取り付けられているそれは一見すると一振りの大剣であるかのよう。撃ち出すのは実弾ではなく、高密度のエネルギー光弾。所謂ビームというものだ。

 左腕にアタッチメントで取り付けられているシールドはその先端をアンカーのように撃ち出すことができる。

 近接特化のようでありながら遠距離戦闘もできる機体。それがシリウスというジーン。


 神住は自分の体を動かすように自然な感覚でシリウスを動かしていく。

 ライフルを構えて狙うは射線上にいるトカゲの姿をしたオートマタ。

 撃ち出される光弾は外れることなくその頭部を吹き飛ばしていた。


「…ひとつ」


 シリウスが頭部を撃ち抜いたオートマタはトカゲのような形をしている。

 オートマタは自己進化の途中で実在する何らかの動植物の形を模倣することが多い。それ故に強力な動植物と同様の特徴を獲得することもあるが、それ故に既存の動植物と同様の弱点を持つこととなる。動物の姿を模倣したオートマタ全般に現われる弱点がその頭部や心臓に位置する部位を破壊されると高確率で機能停止してしまうこと。植物を模した個体はその限りではないが、どちらにしてもオートマタにはその体のどこかに他に比べて温度が高くなっている場所がある。そこにはオートマタの動力炉や制御装置がある場合が多く、基本的にライダーが狙うのはそういう場所だった。


 機体を僅かに地面から浮かせて、空中を滑るようにシリウスは自らが倒したトカゲ型のオートマタに近付いて行く。

 念のためにと再びオートマタが動き出すことを警戒しながら、ライフルの銃口を向けて近付き、数秒ほど待った後に神住は完全に倒したと判断してシリウスの腰のサイドアーマーに備わる小型の転送装置を射出した。小さな円盤状の転送装置はオートマタに着弾すると同時に白色の光る円環状の光を放ち始めた。動かないオートマタを包み込んだ光はものの一秒も掛けずにそれを予め設定しておいた場所にオートマタの残骸を文字通り瞬間移動させていた。


 よくよく見れば同種の光は戦場の至る所で見受けられた。

 倒して機能を停止したオートマタを送る転送の光の狭間にある動かなくなったジーンとそこから立ち込む炎と煙。

 どうやら倒されたのはオートマタだけではないようだ。

 けれどそれは戦場(ここ)では日常の出来事。自分達だけが一方的に相手を蹂躙することなどありえないのだから。


「――次っ」


 転送の光を見届けて神住は近くに居る別のオートマタに狙いを定めた。

 今、シリウスの近くにいるオートマタは二体。一体はイノシシを模した個体で、もう一体はサルを模した個体。

 この二体を同時に相手にしたのでは自分が不利になる可能性がある。だとすれば二体を分断させたほうが懸命だろう。そう考えた神住は素早く行動に移った。ライフルで狙い撃つのではなく、イノシシ型のオートマタに向けて左腕のシールドの先端のアンカーを撃ち出したのだ。

 強靱で柔軟なワイヤーによって繋がれたアンカーは狙い通りにイノシシ型のオートマタに突き刺さった。瞬時に左腕を引くことで伸びていたワイヤーが巻き戻されていく。釣り上げる動作で引き寄せたイノシシ型のオートマタをライフルに備わる刀身で斬り付ける。仄かに青く光る刀身はさほど抵抗を見せずにイノシシ型のオートマタの頭を根元から切り落とした。


「逃がすかよ」


 アンカーが突き刺さったまま動かなくなったイノシシ型のオートマタの胴体をハンマー投げの要領でサル型のオートマタにぶつける。

 ぐしゃりと潰れて動かなくなったサル型のオートマタに近付くと、イノシシ型のオートマタと同じようにライフルの刀身でサル型のオートマタの頭を斬り飛ばした。

 頭部を失い動かなくなった二体のオートマタにシリウスは小型の転送装置をそれぞれ打ち込んだ。


「さて、俺個人の目標としてはこれで十分なんだけど……」


 転送されていく二体のオートマタを見送って神住はコクピットのなかで独り言ちる。するとコクピットの360モニターの一部にシリウスのオペレーターである怜苑真鈴(れおんまりん)という少女の顔が映し出された。


『何を言っているんですか。まだ戦闘は終わっていないんですよ?』

「だよな。このまま終わるワケがないか」

『第一、神住さんはそれでいいかもしれませんけど、わたしたち全員の稼ぎに換算したら全然足りていないですからね。もっと頑張ってください』

「まあ、仕方ないか」


 やる気無しにそう答えた神住を見て、真鈴は溜め息交じりに「お願いしますからね」と念押して通信を切っていた。

 もはやアルカナ側が優勢であることは変わりようがない。けれど神住たちが事前に想定していたよりも襲撃に現われたオートマタの数が多いのは事実。戦場では今も戦いが続いている。

 自由意志で戦闘に参加している神住がここで撤退したとしてもそれを咎める人はいない。真鈴のような仲間は何か言うかも知れないが、それはそれだ。

 とはいえ、戦闘が終わらない限り倒したオートマタを査定して売却しその報酬を得ることは出来ない。であれば少しでも早く戦闘を終わらせようとするのは自然なことだろう。

 消えた二体のオートマタがいた地点から神住は未だに勢力を衰えさせていないオートマタがいる方を目指すことにした。

 移動の最中、見つけたオートマタはライフルで狙い撃ち抜いていく。それで倒すことができれば上々、できていなくともシールドの先端を撃ち出すことでとどめを刺す。それでも駄目なら接近してライフルで斬る。

 手慣れたシリウスの一連の攻撃は次々と襲い掛かってくるオートマタを沈めることに十分すぎる威力を発揮していた。


「7…8……9………10」


 自身が倒したオートマタを数えながらシリウスはまさに獅子奮迅の活躍を見せていた。


「21、22……23………24! ――ん? あれは……」


 ふと神住が視線を止めた先では攻撃を受けて撤退しているジーンがいた。その背後からは複数のオートマタがとどめを刺そうとして追いかけてきている。それならばとシリウスは素早くジーンとオートマタの間に割り込み、乱暴にライフルで撃ち倒していった。

 この時点で神住は綺麗にオートマタを倒そうとはしていない。

 ボロボロに破壊すればするほど査定は下がる。査定が下がれば当然得られる報酬も下がる。けれどそれは数があればカバーできると考えて神住はオートマタを葬り続けていく。


「さっさと逃げろ!」

『あ、ああ。助かった』


 名も知らないジーンのライダーにそう告げて神住は振り返ることなく戦い続ける。

 選り好みせずに倒した傍から転送装置で送っていると遂にシリウスが搭載している転送装置の方が先に底をついてしまった。

 転送装置が無くなれば当初の目的である残骸を査定して売り報酬を得ることができなくなってしまう。それでは意味が無い。ただ働きをする趣味はない、せめて転送装置を補充してから戦うべきだと考えた神住は後退することを決めた。


「28! ふう、これまでだな」


 帰還の道すがら追いかけてきていた最後のオートマタを仕留めて最後の転送装置を使用した。自分にとってこれ以上の戦闘行為は無意味だと割り切って加速してアルカナへとシリウスを向かわせた。

 道中、動けなくなって救援信号を出していたジーンを一機拾い引きずるようにして掴みアルカナへと運ぶ。


 アルカナは巨大なドーム状の都市。そしてその外殻は二重の壁になっている。さらに外側の外壁にはオートマタの襲撃時に使用されるバリアが備わっている。そのバリアはジーンが接近した際には自動的に部分解除されるようになっており、その役割はオートマタの攻撃からアルカナを守るというよりは敗走、撤退してきたジーンを保護するという意味の方が大きい。

 シリウスが半壊状態のジーンを引きずりながらアルカナに近付くとちょうど一機のジーンが通り抜けられるほどの穴がバリアに開いた。バリアの内部に入ったシリウスは掴んでいたジーンを適当に近くの地面に寝かして自身の拠点へと戻っていった。


『アルカナ周辺のオートマタの撤退を確認しました。アルカナ軍所属の部隊は指定の場所で待機。その他、各トライブ所属のジーンは各々自己判断で撤収を初めてください』


 シリウスが撤収してから殆ど間を置かずに戦場とバリアの内側問わず届くようにオープンチャンネルのアルカナ軍の管制官によるアナウンスが聞こえてきた。


作者からのとても大切なお願いです。

ほんの少しでも続きが読みたいと思ってくださったのならば、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして『ポイント評価』をお願いします。

この10ポイントが本当に大きい。

大切です。

製作のモチベーションになります。

なにより作者が喜びます。

繰り返しになりますが、ポイント評価を宜しくお願いします。

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