シーン 2 ハンドタオルさんと眼鏡くん
シーン 2
忘れもの箱から顔を出したハンドタオルさんが「なんて、お名前なの?」って言った。「ボクのこと?」と聞いてみる。「ええ、そうよ。大きなクマさん。可愛らしいわね」駅員さんと一緒で、ボクを見てるハンドタオルさんは太陽みたいに笑ってる。だけどボクは「名前、まだもらえてないんだ」って悲しい気持ちで言った。ハンドタオルさんが悲しそうな顔になる。悲しみは伝染するんだね。ごめんなさい。
パパはさきちゃんが付けてくれるって言ってたけど……もう会えないボクは、ぬいぐるみって名前になっちゃうのかな……そんなのやだよ!
「所詮、お前はぬいぐるみ。構われたとしても数年さ。落ち込む事ないよ。いずれはこうなる運命だったんだ」箱から顔を出した眼鏡くんが意地悪をいう。
「そんなこと言わないの!」ハンドタオルさんが眼鏡くんを叱る。「おばさんだってそうさ。クタクタで足跡なんか付けてるおばさんなんか、誰も相手にしないよ!」、ハンドタオルさんの顔が赤くなる。「ひどい事いうな!!」って怒ったボクに、眼鏡くんは「黙れ、小僧! 僕はお前たちとは重要度が違うんだ!」と言った。
「重要度?」なんのこと⁈
「何をするにも必要で、無くなったら不自由するってことだよ」眼鏡くんは上から目線だ。「どうしたら、そんな声がだせるの? 汚れているのはハンドタオルさんのせいじゃないし、けり飛ばされて痛かったかもしれないのに、どうしてそんなに意地の悪いことばかり言えるんだ!」ボクの声にツンツンとトゲが生え始める。
失くして困るのは、みんな一緒なのに。
眼鏡くんだって、優しくなれるはずなのに。
どうして、自分のことばかりなんだ。
眼鏡くんが、僕を空っぽにした。
寒くて、冷たい。
こんな気持ちはイヤだ。
「私に意地悪を言ったのは、あなたに経験があるからよね」と言いながら、ハンドタオルさんが眼鏡くんを拭く。「汚れをつけないでくれよ、おばさん。あの人はピカピカの僕が好きなんだ」とメガネくんが言う。なんだか嬉しそうだ。「それで、どうして今日は忘れられたの?」とハンドタオルさんが聞く。
「家にもたくさんあるのに……今日新しい眼鏡を迎えに行ったんだ。お店でかけ替えられて……カバンの中にいた僕は……電車の床に落ちた」ピカピカになった眼鏡くんが曇りだす。そして「ひどいこと言って、ごめんなさい」とハンドタオルさんに謝った。ボクの心があったかくなる……なぜだろう。
ドアを開けた女の人が「あの・・アジサイ模様のハンドタオル、こちらに届いていないでしょうか?」と駅員さんに聞く。椅子から立った駅員さんが「ああ、届いてますよ」と言って、箱からハンドタオルさんを取り出した。
女の人が「良かった」と言いながら、ハンドタオルさんを撫でる。ボクはハンドタオルさんが羨ましくて堪らなくなる。
笑顔のハンドタオルさんが「仲良くするのよ」と僕たちに言って、「おばさんも、元気で」素直になりきれない眼鏡くんも寂しそうだった。
僕たちは自分の気持ちを話すのが上手くない。
いつも何かに遠慮してる。
叱られないように、
嫌われないように、
大切にされたいから。
イメージができていた事に安心して書き始めたのに、苦戦してこれで良いのかなって自信が持てず、探して探して迷子になりました。“慢心してはならない“の戒めを、また1つ頂いた気がします。次回で最終回となります。無事に着地できるを願いつつ、誠実を心して向き合います。(о´∀`о)ホッとした。