シーン1 ボクは・・・
シーン1 ボクは・・・
ボクは最強のぬいぐるみなんだ。だって、さきちゃんがクリスマスのプレゼントに、ボクを欲しいって言ってくれたから。
ゴーゴーと音を立てて電車が走る。真っ黒なトンネルの中を通り抜けてゆく。
なん度目?あと何回ガマンしたら、お家?
トンネルは嫌いだ!!暗くて怖い。
網棚にいるボクを見上げて、パパが笑いかけてくれる。
青い蝶ネクタイを着けたボクは、どんな風に見えてるんだろう。パパ、さきちゃんはボクを好きになってくれるかな?大切にしてくれる?仲良く出来るかな?ねえ、パパ、ボクは何をしたらいい?
沢山の人が乗ってきてパパが遠くなる。パパはスマホを見た途端に怖い顔をした。パパはもう僕に笑いかけてくれない。電車から出たパパが、スマホを見ながらホームを歩いてく。「ここにいるよ!パパ!ここだよ、パパ!!」僕を忘れたパパは僕に気づかない。ゴーゴーと音を立てて暗いトンネルに電車が飲み込まれていく。
「怖いよ!置いてゆかれた!!」
ボクは1人ぼっちになった。
可愛くないから?
もう要らないの?
どうでもよくなった?
だから、捨てちゃったの?
誰も僕に気づかない。
きっと、僕は透明になったんだ。だから、パパも僕を忘れた。
もう、さきちゃんとは会えない。
次の駅に停まると、僕の隣に傷だらけのかばんくんが座った。
あちこち白くなってる、かばんくんに「大丈夫?」と声を掛けたら、「ほっといてくれ」と乱暴に言い返された。そしてかばんくんは「どうせ、買い替えられるんだから」と寂しそうにトボリと言った。「きっと、修理してくれるよ」、「気休めを言うなよ!人間みたいにさ!大事にされてないから、こんなに傷だらけなんだろうが!!」かばんくんはすごく怒ってる。そうだよね、僕らは物でしかなくて、替えはいくらでもあって、代わりがきく。
それでもかばんくんは、スマホばかり見てる持ち主から目を離さない。
僕らはここにいるしかないんだ。
動けないし、気まぐれな持ち主の思うがままで、いつも誰かに身を預けるしかないから。
かばんくんが手を引っ張られて降りてゆく。「痛いよ」と小さな声で泣いていた。誰も気づかない。誰もが知らんぷりだ。
終点に着くとボクを見つけてくれた駅員さんが、網棚から下ろしてくれた。「今ごろ探してるだろう。お前、しばらくおじさんといるか」そう言ったくれた。駅務室の机の上に座ったボクに「迎えにきてくれるといいな」と言って頭を撫でてくれた。
ボクはこれから……、どうなるんだろう…。