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最終課題

その日の講義の時間には、中宮歩氏が訪れていた。

「みなさん先日はわたしの生辰のために祝ってくださってありがとうございます。嬉しかったわ」

 上品に微笑む歩氏。

「でも、これは練習です。次の課題が本番ですよ。きたる重陽の節句(九月九日)は太子さまの生辰です。これを各二人以上の組になって、太子さまへの贈り物を差し上げるのです。手作りのものでもよいですし、何かの芸でもよいですよ。必ず二人以上になることは守ってくださいね」

 少女達は戸惑いながらも、返事をした。


 その後の休憩時間になると、三々五々に少女達は分かれて、話し合い始めた。

 子玉は両肘をついて考え込んだ。

「うーん。何をやろうかしら。まず、みそっかすのわたしを受け容れてくれるかどうかが問題よね」

「子玉さん」

 隣の芮淑静が声をかけてきたので、そちらを向くと、珍しく芮氏は顔を紅潮させていた。

「芮さん、なあに?」

「子玉さん、お願いがあるの」

「?」

「わたしお芝居をやってみたいの!」

 芮氏はよほど恥ずかしかったらしく、顔を手で覆ってしまった。

「へー。芮さんお芝居好きなんだ。わたしも好きよ。芝居小屋にはよく行ったし。でも、何を演りたいの?」

 そう聞かれると、芮氏はもじもじと羞じらった。

「笑われるかもしれない……。でも、虞姫の舞を演じてみたいの」

「楚漢の戦い……覇王別姫ね……二人ではできないから、仲間を集めましょう!」

「協力してくれるかしら?」

 芮氏が躊躇っていると、後ろに立つ影が現れた。

「その話、わたしも乗った!」

 謝青蝶だった。

「おおこれは力強い味方が登場したわね。で、謝さんは何の役をやりたいのかしら?」

 子玉が座ったまま謝氏を見上げた。

「わたしは監督、脚本、演出よ。覇王と虞姫の芝居なら飽きるほど観てきたわ。今回のために短く再構成してあげるわよ」

「まぁ、力強い味方だこと!」

 芮氏は目をきらきらさせて喜んだ。

 実は謝氏は、才女ぶりが鼻について、他の少女達とは相容れず、仲間に入れなかったのである。

「歓迎します!親方!」

 子玉が謝氏の手を取ると、振り払われた。

「監督だって言っているでしょう!!」

「面白そうね。わたしも入れてくれるかしら。踊りの組より楽しそう」

 そう言って近づいてきたのは、丁虎娘。手にはなぜか木刀を持っている。手放すと落ち着かないらしい。

「わたしも入れて頂戴。虞姫の侍女役くらいならできると思うの」

と言ってきたのは文啓妹。前回の歩夫人の生辰の宴では、花鳥画で褒められ、大虎王女からも褒美をもらった少女である。大人っぽい顔立ちをしていて、いつも控えめな態度だった。

「本当に侍女役でいいの?」

 芮氏が尋ねると、文啓妹は微笑んだ。

「あまり目立つのは得意じゃないの」

「でも、あなたは有望株じゃない?」

 謝氏も尋ねた。

 文氏は顔をほんのり赤らめて答える。

「いいのよ。もともと下級役人の家の娘なんですもの。目立たない方が安全だわ」

「本人が望むならいいわ。文さんは侍女役で決まりね。舞台が華やかになるわ。で、丁さんは何の役がやりたいのかしら?」

 謝氏の問いかけに丁氏は堂々として答えた。

「台詞のない役をやりたい。暗記は得意じゃないんだ」

 丁氏の正直な答えに、みんなひっくり返った。

「丁さんなら堂々とした項羽を演じられそうなのに……」

 謝さんは惜しそうに呟いた。丁氏は十八で背も高かった。

 丁氏は笑って、子玉を指さした。

「馬童さんはわたしより腕が立つと見える。体操の動きを見てもただ者ではなさそうだ。一度手合わせ願いたいものだな」

 謝氏は腕を組んであごに手を当てて考え始めた。

「項羽の立ち回りは体力が要るわ。丁さんがだめなら、馬童さん、あなたしかいないわよ」

「えー!!わたし!」

 講堂に子玉の悲鳴が響いた。

 このころになると、みんな「馬童さん」の呼び方で慣れてしまって、本来の名前をわすれられている子玉だった。


 それから、芝居を演じる組となった五人はそれぞれ活動を始めた。

 謝氏は脚本の執筆を始め、芮氏と文氏は衣装を縫い始めた。子玉と丁氏は後宮の宦官の役者も参加させて立ち回りの稽古を始めた。

 五人ではとてもできないので、裏方と音楽と出演者に宦官と宮女の応援も呼んだ。

 あと一ヶ月で仕上げなければならなかった。


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