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その線香はラベンダーの匂いがする

作者: 竹原しろうと

人生50年とするならば、そのうちの2分。

あなたの人生の1/13140000を、この素人の為に分けてはくれませんか?

チーンというりんの音が静かな居間に響き渡る。



「ねーねーお母さん。元気にしてる?お誕生日おめでとう。あ、そうだ、88歳って米寿っていうお祝いするらしいよ。」

「はぁ、まったくあんたもおせっかいね。若いんだから、あたしなんかに構ってないで好きなことすれば良いじゃないのよ。」



仏壇の前で手を合わせる彼女の口元は少し笑っていた。



「お母さんこそ、今日誕生日なんだから好きなことすれば良いのに。」

「やることなんてあんたと喋ることくらいしか無いのよ。」

「お互い暇してるってことね。」



仏壇の周りを線香の香りが包む。



「ラベンダーのお線香。うん、良い匂いね。」

「そんなに良いかい?あたしにはさっぱりだわ。」

「女子力ってやつよ、女子力。」



網戸から涼しい風が入り込んでくる。チリーンと風鈴が涼しげな音を奏でる。



「そういえばお父さん、そっちで元気にやってる?」

「それはそれは楽しそうに卓球とかゴルフとかやってるわよ。」

「やっぱりあの頑固親父は体動かすのが性に合ってるってことね。」



彼女が病で他界した10年程後に彼もまた他界した。



「そういえばさ、お父さんのお葬式でさ、」

「うん。」

「ビックリしちゃった。」

「なんで?」

「あんな頑固な人だったのにね?」

「うん。」

「まさか、あんなにお香を焚きにくる人がいるなんて。あたしも泣きつかれちゃったの。」

「あの頑固親父に、そんなに友達がいたとはね。」



退職後は近所の仲間達と散歩に行ったり運動したりとアクティブな彼だった。が、徐々に体が動かなくなると一日中家の中で新聞を読んだり、テレビで野球を見ては文句を言ったり、正真正銘の頑固親父へと変わっていった。



「まぁ、やっと、これであたしも一人でゆっくりできるってことよ。」

「とか言って、寂しくなって、すぐにこっちに来ないでよ?」

「さすがにそんな早くはくたばらないわよ。あと20年は生きなきゃね。」

「108歳か、やるねお母さん。でもほんとに、早く来ちゃダメだよ?」

「あんたが早く行き過ぎただけよ。」



強い風が網戸を通って線香の香りごとどこかへ運んでしまった。



「ほんとに、おせっかいな娘なんだから……。」



彼女の目に映る、仏壇の若い女性のはじけるような笑顔は、ぼんやりにじんでいた。

人生88度目の誕生日の朝の出来事だった。

ありがとうございました。

今作品はカクヨムコンテストの方で応募させていただいたものです。練習のつもりで執筆してみました。

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