プロローグ
春。
多くの人間に出会いと別れをもたらすこの季節。
国立魔魂高校にも同じように出会いがもたらされていた。
普通とは少し異なるのは、その出会いが良くも悪くも印象的だったことだろう。
「ようこそ、新入生のみなさん。ここは君たちみたいな低能にはとてもいい学園だ」
入学式にて生徒会長である公原淳から新入生に向けて投げられたその言葉は、その場の新入生全員には行き届いていないが、何名かの生徒に強い印象を与えるものであった。
「特に目標もなく、なんとなく『スキル』があるから、『スキル』持ちだけが入れるこの学園を選んだ。しかもこの学園はそんなに難しくも簡単でもない程度の入学難易度だからね。君たちが何を考えてこの学園を選んで入学したのかは手に取るようにわかるよ。」
新入生の感情を逆なでするような口調も相まって、先ほどよりも多くの生徒に強い印象を残した。あたたかな日差しが降り注ぐ体育館の空気も少しヒリつき、日差しとは別に冷ややかな空気も漂っている。
「そんな考えなしの君たちは本当に幸運だ。この学園は似たような人がたくさんいるし、卒業後も大半の人は今の君たちと同じようになんの考えもなしに大学へ進学する。」
壇上の生徒会長、公原淳はうっすらと笑みを浮かべながら、淡々と話を続けている。
他人を見下して煽るような文言ではあるものの、口調はゆったりとしていて柔らかく、まるで独り言をつぶやいているかのように小さな声量であり、言っていることと口調が不協和を生んでいるようでさえあった。
「つまり、君たちは今のまま、何も考えなくていいんだ。そのままの、ありのままの君たちでいよう。」
最後の一言はきれいな言葉であったが、それが素直な言葉でないことはその場にいた全員が分かっていた。しかし、この言葉が多くの新入生に印象を植え付けたかと言われれば、多くの生徒は無関心であった。
公原も壇上から新入生の顔を眺めながら、それを察する。それでもうっすらと浮かべた笑みは変わらずに。
「以上、生徒会長公原淳。」
とゆったり柔らかい口調のまま残すと、壇上を後にした。