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06 相棒参上

ヒロイン遂に合流

 「さあて、第二ラウンドと行こうか!」


 マーレは改めて自身に気合を入れなおし、魔力を練り上げる。


 「ここからはスピード勝負だ! 『水の板(アクアボード)』」


 マーレは足元に水の板を形成し、軽やかに飛び乗り『水の板』と自身の足を固定させる。


 「てめえ等には何もさせねえぜ! 『噴射(ブースト)』!」


 板の後方から勢いよく水を噴出させ、猪の群れへと突撃する。

 人間が予想もしていなかった行動をとり、銀猪は眷属に指示を飛ばすのが遅れる。

 マーレはその隙を逃さず、魔法を繰り出す。


 「はっ! かかったな、アホが! 『噴水(スプレッド)』三連!」


 猪が群がる場所の足元から、水柱が三本吹き上がる。

 その勢いは強力で、大人が三人がかりで持ち上げれる体躯を軽々と吹き飛ばす。


 「まだまだ続くぞ! 『酸の雨(アシッドレイン)


 マーレが天へと片手をあげ、詠唱を唱えると、少し小さな雨雲が形成され、猪たちに雨が降り注ぐ。

 その雨を浴びた猪たちは、自慢の毛皮が酸の雨で溶け出し激痛に襲われる。


 周囲には猪たちの悲鳴とも言える鳴き声が響き渡る。

 しかし――


 「ブギュルアアアアア!!」


 鬱陶しい! と言わんばかりに銀猪が咆哮を上げ、『酸の雨』の雨雲が霧散する。


 「流石はBランクの魔物。そう簡単には倒れてくれねえな」


 マーレは『水の板』を操作し、高速で移動しつつも銀猪の動きを観察していた。

 

 ちなみに、マーレは当然のように複数の水魔法を様々な形に変化させ、移動や攻撃に転じているが、王宮魔法師団のようなエリート集団が見れば、目玉が零れ落ちる程驚愕する高度技術である。


 少しずつ眷属たちの数を間引いていくマーレ。だが、銀猪もやられてばかりではない。


 「ブルルルギュアアア!!」


 銀猪が吠え、眷属たちに何かしらの指示を出したと察したマーレだが、それは予想していなかった行動だった。


 なんと、マーレを無視して村へと駆け出したのだ。


 「ちぃ! てめえ等の相手は俺だって言ってんだろうが!」


 マーレは高速で移動し、先頭の猪から狩っていく。

 少しでも数を減らし、村人達の負担を減らす。それが今のマーレの仕事だ。


 「フゴゴゴ」


 「てめえ、今笑いやがったな!」


 言葉が通じない銀猪とマーレだが、それでも銀猪の態度は分かりやす過ぎた。

 それと同時に、現状のマーレの弱点もである。


 この人間は恐ろしく強い。だが、この人間が庇う者を攻撃すれば隙が生まれる。

 そして、致命的な隙が生まれた時こそ、自身の自慢の牙で一突きにしてくれる。

 そう考えた銀猪は、眷属の猪たちに目の前の人間は無視して、先程の人間達が飛び込んだ場所を襲えと指示を飛ばす。


 それからというものの、これまでマーレ目掛けて飛び込んできた猪たちが、面で攻めてくる。

 一頭でも多く、目の前の人間を越え、ボスの指示を全うせんが為に動きに工夫が加わる。


 「厄介な連中だな、だが、舐めるなよ! 水魔法は一対多が最も得意なんだ」


 そう猪たちに叫び、マーレは地面に両手をつき、新たな魔法を唱える。


 「『水の広場(ウォーターフィールド)』そんでもって、『水の枷(アクアバインド)』」


 面で来るなら、こちらも面だ、とマーレは自身を中心に水のフィールドを発生させ、その水に触れた猪たちを『水の枷』で動きを止める。


 「水に斬られた経験はあるか?『水の斬撃(ウォーターカッター)』」


 一列に足止めされた猪たちの頭上に水の玉が形成され、そこから圧縮された水の斬撃が降り注ぎ猪たちの首が落ちる。


 あまりにも一方的な攻撃に、流石の銀猪も動きを止める。


 「へっ、どうしたよ銀猪さんよ! 一気に子分がやられてビビっちまったかい?」


 この魔物は人間の言葉を理解している。これまでの行動からマーレはそう結論づけて挑発する。

 全てはこれ以上、村へと近づけさせない為だ。だが、マーレはある大事な事を忘れていた。


 確かに今対峙している魔物は強力で、知恵もある厄介な相手である。

 だが、この魔物は縄張り争いに敗れた()()()だという事を。


 そして、勝者が敗北者をどう扱うかは勝者が決める。それが自然の摂理であり、弱肉強食の世界である。

 そして、その勝者が決めた答えは――


 マーレは咄嗟の判断で身体を捻り、後方へと下がる。

 意識した訳ではなく、数多の経験を積んだマーレだからこそ出来た行動であった。


 自分の取った行動からすぐに意識を切り替え、自身が元居た場所へと視線を向ける。

 そこには銀猪と同じような銀の体毛と、強靭な脚と爪を持ち、鋭い牙をギラつかせる巨大な狼が鎮座していた。


 「マジかよ――月狼(ルナウルフ)。Aクラスの魔物じゃねえか! どうなってやがる」


 「ヴォオオオオオン!!」


 月狼が雄叫びを上げると、森の奥からガサガサと何かが駆けてくる音が聞こえる。


 「ウォンウォン」


 ばっと勢いよく飛び出して来たのはこの数日、何匹か狩った狼であった。

 だが、飛び出して来た数が半端ではない。ぱっと見ただけでも百は越えている。


 マーレの額に冷や汗が流れる。流石のマーレもこの数を捌ききるのは厳しい。

 狼は元々群れで行動する生き物であり、強力なリーダーがいると、その難易度は大幅に跳ね上がる。


 おまけにこの月狼は俺が自身の眷属を手に掛けた事に気づいている。

 でなければ、彼等からすればたかが人間一人にここまで強大な殺気をぶつけてこないだろう。


 こうして予期せぬ乱入者が混じり、三つ巴の第三ラウンドか始まった。


 「くそったれ! 俺を狙う前に魔物同士で決着をつけろよボケェ!」


 マーレは悪態を吐くが、銀猪も月狼も何故かマーレを狙い続けてくる。

 なんとかこの二匹の攻撃を避け、双方の眷属の数を削っているが、それでも数が多い。


 すでに何頭か猪が村へと向かってしまった。

 すぐにでも駆け付けたいが、中々厳しい。


 「くそっ、手が足りねえ! せめてこいつ等のどちらかを受け持ってくれたら何とかなるんだがな」


 マーレは必死に思考を凝らし、鋭い一撃を避け、弾き、受け流す。

 だが、一瞬攻撃を避けそこない体制を崩してしまう。


 歴戦の猛者である二頭はその隙を見逃さず、一気に攻め立ててきた。


 「ぐっ! やべえっ!」


 咄嗟に『水の壁』を張り、二頭の猛攻をはじき返すが、それでも追撃の手を緩めない。

 がりがりとマーレの精神力を削っていく。万事休すか、と最悪の事態を考えたが、状況は急転する。


 ヒュンヒュンと鋭い風切り音が耳に入り、狼や猪たちが悲鳴をあげる。


 何者かの介入が入ったと感じ取ったボスの二頭はマーレへの追撃を止め、一旦後退し周囲を警戒する。

 マーレもほっと一息吐くと、馬が駆ける音が聞こえて来た。


 「マーレ! 援軍を連れて来たぞ! って、うわっ!なんだこの数!」


 アグラディアの感想を無視して、猪や狼に目を向けると絶命しており深々と矢が刺さっていた。

 どうやら幼馴染は中々の凄腕を連れて来たようだ。


 「例の縄腹リ争いの延長戦みたいなもんだ。だが、助かったぜ。奴等の数が半端なくてこのままじゃ流石に厳しい所だった。それで、援軍は? 何人いるんだ?」


 「すげーな……って悪い。援軍だが、一組しか雇う事しかできなかった」


 「一組か……。いや、贅沢は言うまい、アグラディアは急いで村へ戻ってくれ。何頭か俺の包囲網を抜けて村への侵入を許しちまった。準備を整える時間は稼いだ筈だから大丈夫だとは思うが、油断はできねえ」


 「わかった。援軍の人達はもうすぐ追いついてくる筈だ。すげえ美人で弓の達人だったぜ」


 「女か。まあ、今は腕前が信用できれば問題ねえ。急げ!」


 おう! とアグラディアは答え、馬で勢いよく駆けて行った。

 周囲の狼たちがアグラディアの後を追おうとしていたが、『水の刃』で牽制する。


 銀猪も月狼もどうやら警戒心が高いらしく、俺とアグラディアが会話をしていても攻撃を仕掛けてこなかった。


 暫くして、再び鋭い風切り音が聞こえてくる。


 「ウウヴォオン!!」


 「ブギイイアア!!」


 二頭のボスが各々の眷属に避けろと指示を飛ばすが、中には避けきれず致命傷を負う者もいた。


 「こいつは中々期待できそうだな。これほどの腕前、Aクラスか?」


 そう感想を漏らしつつ、マーレ自身も隙が生まれた眷属たちに攻撃を仕掛け数を削る。

 暫くして、何者かが勢いよく群れへと飛び込んできた。


 「やああああ! 爆砕撃!!」


 聞き覚えがある少女の声と共に、激しい衝撃と土煙があがる。

 だが、すぐさま一陣の風が吹き、視界が戻った。


 目を凝らすと、そこにはなんと、長年自身を担当していた王都冒険者ギルドの受付嬢『エミリー』が身の丈ほどある斧を肩に背負って佇んでいた。


 これにはマーレも唖然と口を開き呆然とする。

 エミリーもまたマーレの存在に気づき、笑顔で駆けよって来る。


 「お待たせしました、マーレさん! 援軍到着であります!」


 笑顔でそう答え、マーレは目を大きく見開く。


 「エミリーの嬢ちゃんこんなに強かったんだな。しかし何故こんな辺境に?」


 「ふふん、勿論マーレさんを追いかけて来たんです! 恋する乙女は強いんですよ!」


 マーレはエミリーの言い分が理解できず、苦笑いを浮かべる。


 「よくわからんが、さっきの一撃を見ても実力は申し分なさそうだ。他の仲間はいるのか?」


 「ええ、もう一人超強力な人物が来てますよ。あっ、来ましたね」


 エミリーはそう述べ、こちらへ向かって来る人物へ向けて視線を向けた。

 マーレもその視線を追うと、額を押さえ、眩暈に耐える仕草を取る。


 猪や狼たちが彼女に襲いかかろうとするも、見えない壁に阻まれるように弾かれていた。

 そして、ずんずんと歩みを止めず、マーレの隣へと並び立つ。


 「最高の援軍だな、相棒」

 「ふふっ、待たせたわね。相棒」


 マーレはかつて背中を預けた相棒と再会を果たした。

読んで頂き有難うございます。


【マーレの魔法】


『水の板』:マーレの高速移動手段。サーフィンボードのように操作できる。


 『噴射』:『水の板』の追加詠唱。水が噴出し、一気に加速する時に用いる。


 『噴水』:水柱を発生させる。


『酸の雨』:雨雲を発生させ、酸の雨を降らせる。


『水の広場』:水魔法を広範囲で扱う為のフィールドを形成する。


【魔物】


ルナウルフ:美しい銀毛を持ち、高い知性を持つAクラスの魔物。月狼の異名を持つ。

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