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05 報告と猪戦

 初仕事の仕事を終えた後は村の人達からとても喜ばれた。


 猪の肉は貴重なたんぱく源であり、村中の皆で分け合う事になった。

 狼の肉は筋が多く、食用には適さないが、毛皮は冬を越す時などに重宝する。


 そして、俺ことマーレはある事が気になり、初日以降も一人で調査を続けていた。


 「こいつは……まずいな」


 そして、数日掛けた調査結果を報告するべく村長のお宅へと足を運んだ。


♦♢♦♢


 「それで? マーレの気になっていた結論とやらを聞かせてくれ」


 今、この場には村長であるデイモンさんを始め、村の腕利き達が勢揃いしている。

 時期村長であるアグラディアも同席しており、代表者であるデイモンさんに尋ねられる。


 「ああ、まず、結論から言わせて貰うと、そう遠くない内に猪か狼、そのどちらかが縄張り争いに敗れて森を追い出される。その結果、餌を求めて村を襲われる可能性がある」


 俺の出した結論に、一同が驚愕の声をあげる。

 だが、デイモンさんがすっと手をあげ、一同を落ち着かせる。


 「それは確かなのか? マーレ。事の次第によっては町に救援を求めなきゃいかん」


 「現在縄張り争いをしているのは間違いない。何度か双方の部下と思われる奴同士が衝突している場面にも遭遇した」


 あっと何かに気づいたアグラディアが口を開く。


 「もしかして、『水音』って魔法で調べたのか?」


 「ああ、森の奥で大型の魔物同士の衝突を感知した。双方のボスが既にぶつかり合っているのなら、その結果が出るのにそう時間はかからないだろう」


 アグラディアの質問に正解だと返答し、自身の予測を告げる。


 「しかし、そうなると救援が間に合わない可能性が出てくるな」


 「親父、俺が馬で今からでも救援の依頼をしてくるよ。万が一、猪の群れが襲い掛かってきたら、村の戦力だけじゃ踏みつぶされかねない」


 そうだな。とデイモンが返答し、席を立ちあがり部屋の奥へと姿を消し、小さい麻袋を持って戻って来た。


 「これは町の冒険者ギルドへ依頼する支度金だ。無くすなよ」


 「任せてくれ。マーレ、万が一の時は頼む」


 俺は頷き、アグラディアを玄関まで見送った。少しして、馬が駆ける足音が遠ざかっていくのを聞き、俺も会議へと戻る。


♦♢♦♢


 アグラディアが町へと旅立ってから二日が経った。

 現在、村中で警戒態勢を敷かれており、村の男衆だけでなく、女達も戦いに備えていた。


 狼が相手であれば、村の子供達でも複数で襲い掛かれば勝てなくはない。

 だが、猪が相手となると、大人の男達でなければ厳しいだろう。


 まさか、帰って来てほんの数日で襲撃戦に合うとは思わなかったが、俺は運がいい。

 何故なら故郷を知らない内に失うという悲劇を回避できそうだからだ。


 冒険者時代、故郷の状況を知らないままでいたり、訃報を知らされ、後悔に悩まされる奴等を見て来た。俺はそんなのは御免だ。そういう意味では俺が故郷に帰って来たのは必然だったのかもしれない。


 そんな事を考えていると、家の外が騒がしい事に気づいた。

 何事かと玄関の扉を開くと、村の少年が入り口方面から駆けてきて何かを騒いでいた。

 徐々に彼が近づいて来て騒いでいる内容が耳に入る。


 「猪だ! 猪がきたよーー!! 今村の外で兄ちゃん達が戦ってる!」


 俺は大急ぎで家の中へと戻り、準備をしていた道具や装備を纏い、家を飛び出す。


 「猪の群れは俺が足止めする! 村の皆は焦らず準備を整えてくれ! 心配するな、事が終われば猪肉パーティーだと思っておけ!」


 村の若い男達や子供がパニックになりそうだった為、俺は村の入り口へと駆け出しながらも声を張り上げた。

 村の人間は俺が元冒険者だと知っている為、少し冷静さを取り戻し、方々から「わかった」「頑張って」と声をかけられる。


 さあ、猪ども。中年を舐めるなよ?


♦♢♦♢

 

 村の入り口を飛び出し、森の方へと足を向けると、村の若い連中が猪の猛攻を避けていた。

 通常、猪一体につき村人だと大人5、6人でなんとか対処できると言われている。


 だが、今マーレの目の前には猪が10頭はいる。


 はっきりいって、死人が出ていないのが奇跡的だと言えるだろう。


 「加勢する! 今は避け続ける事を考えろ!」


 俺が到着した事に気づいた青年達の表情に安堵の色が映るが、油断は出来ない。


 「油断はするなよ、まだボスが居ない。間違いなくこいつらは前座だ! 本命がいると思っておけ!」


 俺の警告に村の連中も表情を引き締める。


 「いくぞ、まずはこいつだ『水の刃(アクアエッジ)』」


 水の刃を数十本形成し、一斉に襲い掛からせる。

 猪たちは、突然の反撃に傷を負う者、必死に避ける者と様々だった。


 「傷が深い奴を狙え! 『水の枷(アクアバインド)』」


 俺の指示に従い、青年達は傷が深く、水魔法で足を取られた獲物に一斉に襲い掛かる。


 「深追いはするなよ、周囲をよく見て攻撃を加えろ! おら、お前はこっちだ!」


 指示を出しつつ、『水の刃』で猪たちの動きを牽制する。

 だが、ある一頭が覚悟を決めたのか、せめて道連れにしようと青年へと襲い掛かる。


 青年は自身が狙われると気づいたのか、恐怖で足が竦んでいる。


 「させるかよ、『水の壁(アクアウォール)!」


 マーレが村人と猪の間に水の壁を形成させる。一般の水魔法使いであれば、ただの薄い膜といえる強度でしかないが、マーレは改良を施し、柔軟性を獲得した。

 その結果――


 「びぎぃぃ!?!?」


 水の膜へと突っ込んだ猪は、一旦は薄い膜を貫かんとするも、次の瞬間ゴムのような反動で弾き飛ばされ、なんでええ!? と言いたげな鳴き声をあげる。


 勿論そんな隙を逃さずマーレは『水の刃』で止めをさす。


 少しずつ敵の数が減っていき、村人にも余裕が見えてくる。

 マーレを除く青年達は、もうすぐこの戦いが終わると確信していた。


 だが、そうは上手く行かないと嘲笑うかのように、二回りは大きい毛色が全く違う大猪が姿を現した。


 「おいおい、シルバーボアかよ……」


 マーレはポツリと言葉を漏らす。シルバーボアとはそのまま銀猪の異名を持つ銀色の毛色をした猪の魔物だ。ちなみに、普通の猪はこげ茶色である。


 動物の猪とは違い、危険度が高い魔物であり、討伐難度はBランクとされている。

 間違いなくこんな田舎に居ていい魔物ではなく、おまけに子分のように猪を数十頭も引き連れている。仕方がないと、マーレは思考を切り替える。


 「小僧共、急いで村へ戻って避難してくれ。ただの猪だけなら皆でなんとなかると考えていたが、奴は銀猪(シルバーボア)。Bランクの魔物でお前達を庇っている余裕はなさそうだ」


 「だが、あんただけ残して行くなんて!」


 青年達にとって、マーレは久しぶりに帰って来た大先輩である。

 自分達の為にみすみす死地へと追いやる事を、素直に認める事ができなかった。


 「おいおい、勘違いすんなよ? 俺はまだ全力なんてかけらも出してねえぞ? だが、お前達を庇いながらだと、流石に巻き込んじまいかねないんでな。雑魚を取りこぼすかもしれないから、村で警戒してくれている方が余程安心だ」


 えぇ……とマーレの言い分にドン引きする。


 「別にサボっていた訳じゃねえぞ? 俺が常に参戦できるとは限らないから、これも集団戦闘の訓練みたいなもんだって村長に頼まれたんだ」


 そう、最初マーレはデイモンに、群れで襲われたら大技で吹き飛ばそうか? と提案していた。

 しかし、デイモンからの答えは極力若い連中に達に戦わせて、戦闘経験を積ませて欲しいというものだった。

 体格で勝てる要素がある狼が相手であれば、村の女や子供達まで参加させると言い出す始末。

 これもまた理不尽に対抗するべき訓練の一環にするべき! と村長や腕利き達が判断したのだった。


 「ほれ、分かったらさっさと引け! 戦略的撤退って奴だ。今は俺を警戒しているから攻撃してきてねえが、いつ痺れを切らすかわからん。急げ!」


 マーレが真剣な表情で告げた事で、渋々ながらも青年たちが村へと駆け出していく。

 この間も、マーレは常に銀猪に向かって殺気を放っており、常に牽制していた。


 「さあて、第二ラウンドと行こうか!」


 

読んで頂きありがとうございます。


【マーレの魔法】


『水の壁』:薄い水の膜を張る。とても柔軟性に優れており、物理攻撃をゴムのように跳ね返す


【魔物】


シルバーボア:巨大な体躯と牙を持ち、毛皮の色から銀猪と呼ばれ恐れられている魔物。猪の群れのボスになる事がある。討伐難易度はBランク。

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