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04 初仕事

 昨日は流石に疲れた。マーレは一人心の中でぼやいていた。

 

 あの後、マリンが各民家へと『癒しの水』の事を伝え、奥様方が殺到したのだ。

 マーレの帰郷は全員が歓迎してくれたし、素直にうれしかったのだが、やはり女性。

 便秘(アレ)の悩みは王都も田舎も関係なく同じだったらしい。


 効能を知って、是非分けてくれと突撃してきたのだ。

 一家庭につき二樽を配り、その日はそれぞれの家で快音が聞こえて来たのは言うまでもない。


 次の日には、ツヤツヤ顔の奥様や少女達の顔を見れば一目瞭然である。


♦♢♦♢


 俺は今、初仕事の為の準備を整えている。

 そろそろ準備が終わるという時に、玄関の方向からノックの音が聞こえた。


 待ち人が来たことに気づいた俺は軽く返事をし、玄関の扉を開いた。


 「おう、おはよう。アグラディア、マリン」


 「「おはよう」」


 マーレの村での初仕事、それは村に隣接している森の調査である。

 村長のデイモンの話によると、時々大型の猪や狼が出没する事があり、森には村の女性が山菜採りや薬草の素材集めに入る時があるため、被害が出る前に対策を取りたい。

 

 と、いうことであった。


 しかし、村の腕利きの男は少なく、森も奥に進めば進むほど危険性も増すため、人海戦術も取れなかった。そこで白羽の矢が立ったのが、経験豊富なマーレである。

 幸いな事にマーレは基本ソロで活動していて、探知や罠といった魔法の扱い方は、水魔法の真骨頂といえる。

 対価としてマーレには、一人暮らしで十分な食材を分けて貰う事で合意した。


 では、何故アグラディアとマリンの兄妹が着いてくるのかというと、単に俺の仕事ぶりを見てみたいという好奇心からだった。

 門兵が非番の時くらい休めよと言ったのだが、熟練の技というものを直に見てみたいという話であった。


 「お前たちも物好きだなぁ。俺の魔法なんて大した事ないぞ?」


 「「いやいやいや、それはない」」


 マーレの言葉に兄妹は揃って同じ返事を返す。

 平民で魔法を扱える存在は珍しいが、全く居ない事はない。

 どの村でも探せば数名は名乗りをあげるだろう。そういった人材はそれぞれの村で重宝される。


 だが、そんな中でも水魔法は尤も地味で、扱いが難しいと言われている。

 理由は単純で、火なら燃やす、風なら切る、土なら耕す、守ると分かりやすいが、では水は? と聞かれると、飲む? という選択肢になるが、一般的に魔法で生み出した水は美味しくないというのが定説で、畑に撒くぐらいしか用途がない。


 だが、それなら井戸から水を汲んで撒く方が疲労も溜まらず、効率的という事もあり、水魔法の需要はかなり低い。

 光魔法は扱える人間がそもそも稀で、使える人材は大抵教会へと預けられ、教会の管理の下、人々の役に立つ要職に就く事が殆どである。


 故に、水魔法使いでSクラスへと至ったマーレは異端といえる。

 

 「ま、いいけどな。んじゃ、準備は出来たし早速出向くけど、解体は任せていいんだな?」


 「「任せとけ!」」


 着いてくるからには、働いて貰わばければ困るとマーレが告げると、二人は解体を名乗り出たのであった。マーレとしても、獲物を狩って放置する訳にもいかないし、解体してくれるなら助かると思い、二人の同行を許可したのである。


♦♢♦♢


 三人で行動を開始して、早くも一時間が経ち、森へと足を運ぶ。


 「さて、ここからは俺が先頭で進むが、万が一に備えて警戒は怠らないでくれ」


 「ああ、俺もマリンも狩りで森の怖さは知っているつもりだ」


 「心配しないで。足手まといにはならないつもりよ」


 マーレが警戒を促し、兄妹は各々の装備を再確認する。

 アグラディアは片手剣を、マリンは槍を所持しており、構えもそれなりの形になっていた。


 【フロスト村】では、老若男女誰もが何かしら戦う術を持っている。

 理由は単純で、そうしなければ生きていけない理由があるからだ。


 例えば強力な魔物、あるいは野盗。この世界では理不尽が当然の様に降りかかる。

 そして、先に述べたように、腕利きの男衆は数が少ない。

 なので、子供の頃から訓練を積み、生き残る力をつけざるを得なかったのだった。


 だが、その事が幸いし、今現在疫病以外での死者は他の村と比べると少ない。

 他村から流れて来た者は【フロスト村】を見て、村人達の強さに驚かれる事もしばしば。


 近場の町から兵士にならないかとスカウトが来るほどである。


 「よし、じゃあやるか。『水音(ソナー)』」


 マーレが目を閉じ、魔法を唱えると、マーレを中心に薄い水の波紋が起こる。

 アグラディアとマリンの兄妹はマーレが何をしているのか分からず、揃って首を捻っている。


 暫くして、目を開き森の奥へと進みだす。慌てて二人もマーレを追いかけるが、彼が何をしたのか気になり、説明を求めた。


 「マーレ、さっきの魔法は何をしたんだ?」


 代表としてアグラディアがマーレへと問いかける。


 「ああ、そういえば説明していなかったな。今のは俺のオリジナル水魔法で『水音(ソナー)』って言ってな。水魔法で薄い波を発生させて、その波が何かにぶつかった水の振動で周囲を探知したんだ」


 大した事じゃないとマーレが説明し、二人はポカンと口を開く。


 「最初に思いついた頃は目測を誤ったり、対象を誤認したりと苦労したが、今ではほぼ間違いなく感知できるようになった。大体500m先に大型の猪が一頭いたから、これからそいつを狩るから、見ていてくれ」


 マーレの言葉を聞き、何故か兄妹の目が遠くを見つめる視線へと変わるが、マーレは何かあったのか? と首を傾げる。


 マーレの言葉を信じきれない二人はマーレの後を追い、その先で眼を大きく見開く。


 「おいおい、マジで猪がいるじゃねえか」


 「マーレすごい」


 木陰に隠れつつ、アグラディアとマリンはそれぞれ驚愕に満ちた感想を呟く。

 そのマーレはというと、既に狩りをするために行動を開始していた。


 「悪いな、猪さんよ。俺の糧になってくれ『水の刃(アクアエッジ)


 マーレが詠唱を呟くと、マーレの周囲に水の刃が複数形成される。

 そして、マーレの号令で水の刃は一斉に猪へと襲いかかる。


♦♢♦♢ 

 

 猪とて、予期せぬ敵の動きに驚きはするものの、全力で回避を試みる。

 己の命を刈り取らんとする刃を避け続けるも、次第に傷は増えていく。


 少しずつ、少しずつ、自分の命の終焉が近づいて来ている事を察した猪は、最後の抵抗として目の前の人間に突貫を試みようとした。が、それが実行に移される事はなかった。


 「残念、動きを止めたな? 『水の枷(アクアバインド)』」


 男は自身が予想通りの動きをした事で、にやりと嗤い、それが猪が最後に見た光景であった。


♦♢♦♢


 「残念、動きを止めたな? 『水の枷(アクアバインド)』」


 マーレの予定通りに猪が行動し、思わず微笑が零れる。

 しかし、油断はせずに方々に浮かんでいる『水の刃』を一本へと集束させ、猪の脳天へと突き刺した。

 猪は最期に何をされたのかも分からず命を落とした。


 様子を見守っていたアグラディアとマリンの兄妹は、慌てて駆けつけてくる。


 「マーレ凄いな! まるで曲芸だったぜ」


 「本当ね! まるで猪の動きが全部読めてるみたいだったわ」


 マーレにとってはいつも通りの事だったが、幼馴染である二人に絶賛されてむず痒かったので、照れ隠しで発破をかける。


 「んな事はいいから、さっさと解体しちまえ。警戒は俺がしとくから」


 そう言い残し、マーレは再び『水音』を使い周囲を警戒する。

 マーレの言葉は尤もだったので、二人は手際よく猪を解体していく。


 その後は狼を数頭狩り、様々な方法で狩るマーレの実力に二人は驚きの連続であった。


 二人の中で水魔法が不遇という考えは完全に消え去っていた。

読んで下さりありがとうございます。


【魔法】


この世界では火、水、風、土、光、闇の六属性が存在する。


闇属性は魔族しか扱う事が出来ない為、一般的には五大属性と呼ばれている。


五大属性の内、一般的属性評価は以下の通り。


光魔法:扱う人材は希少で、回復魔法や浄化魔法などを使う。教会が管理している。


火魔法:世界中で魔物の危険が多い事から、攻撃系に特化しており、大当たりと評価される。


風魔法:火魔法程火力はないが、当たりとされる。応用力が高い為人を選ぶ傾向にある。


土魔法:防御特化とされ、地味とやや不評ながらも戦闘では重宝され、平民でも畑を耕すなど、村人ならこちらの方が大当たりと言っても過言ではない。


水魔法:威力が低い、地味、飲み水としても不味い、扱いが難しいと最も低評価。応用力の塊だが、まともに扱える人間の方が少ない。


【マーレの水魔法】


『水音』:ソナーの役割で音の反響で障害物を補足する。長年の経験で音の主が何者かまで把握出来るようになった。マーレのオリジナル水魔法


『水の刃』:水魔法の初級魔法。普通は二本出せれば合格と言われているが、マーレは数十本を自在に操作できる。


『水の枷』:粘着性のある水溜まりを形成し、獲物が足を踏み入れるとまとわりつく。マーレのオリジナル水魔法

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