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02 精霊姫

タイトルの正妻ヒロイン登場。

 「失礼するわね。ギルマス? 私の言いたい事は分かっていますね?」


 そう尋ねられたマスターの顔は蒼褪め、ブルブルと震えていた。


 エミリーは入室してきた女性を見て唖然としていた。


 誰もが見惚れるきめ細かい銀髪を短く纏め、スタイル抜群で、理知的な眼鏡がよく似合うエルフ族の王族であるハイエルフ。女性冒険者の憧れの頂点に君臨するSクラス冒険者の一人。


 Sクラス冒険者『精霊姫』ケレブレス


 それが目の前の美少女の正体である。


♦♢♦♢


 「そんな震えていないで、私の質問に答えて貰えないかしら?」


 ヤレヤレといった感じにケレブレスはギルマスに問いかける。

 正気を取り戻したエミリーがケレブレスに話しかける。


 「あの、『精霊姫』様はギルマスにどのようなご用件が?」


 「二つ名ではなく、名前で呼んでくれて構いませんよ、エミリーさん」


 エミリーは多くの女性冒険者の憧れの存在に自分のような受付嬢が名前を憶えられているとは思わず、驚きをあらわにする。


 「貴女の事はマーレから良く聞いていましたから。いつも元気で励みになると」


 自分の事をそんな風に言ってくれていたと知り、つい嬉しさと、なんとか心の底に蓋をした筈の悲しみが再び湧き上がって来る。


 「……間違いがあっては良くない。改めてお前の用件を聞こう」


 なんとか調子を取り戻したギルマスが、両肘を机に着き手を合わせ祈るようなポーズを取り、ケレブレスへと問いかける。


 「私の用件は、相棒であるマーレの行方です。精霊に何度頼んでも感知できないと言われましてね」


 『精霊姫』は引退したマーレの相棒であった。


 この世界には、魔族のみが扱う闇属性の他に、火、水、風、土、光の五大属性が存在している。

 ケレブレスは当時、風の精霊王から加護を授かり慢心していた。

 そんな矢先に知り合ったのが、無自覚の間に水と光の精霊王から加護を授かっていたマーレであった。


 プライドが高い彼女は、マーレに勝負を持ち掛け、自分が勝ったら精霊王を紹介しろと迫る。

 エルフ族は森人とも呼ばれ、風と水の精霊と相性がいいとされている。

 

 いつかは水の精霊王とも契約を交わしたい考えていた最中、愚鈍だと見下す対象でしかない人族が、平然と水の精霊王と、今では居住地すら不明である光の精霊王から加護を授かっていたのである。プライドが高い彼女には、それが我慢ならなかったのだ。


 マイペースなマーレはあの手この手と面倒事から彼女の猛追を退け、いつしか彼の実力を認め相棒と呼ぶようになった。彼女が手にする事が出来なかった存在に認められているという事も大きかったのかもしれない。


 さて、そんなマーレと彼女の馴れ初めを語った訳だが、マーレは一言もケレブレスに引退する事も故郷に帰る事も相談していなかった。それは何故か?


 面倒だったからである。


 相棒としてマーレを認めた後のケレブレスは、それはもう一緒に居たがった。

 貴方の隣に相応しい者は私しかいない。背中を護れるのは自分だけだと、傍から見ればその一言、一言がプロポーズになっていただろうが、マーレの自己評価は途轍もなく低い。


 逃げ回っていた自分が何故これ程気に入られたのか理解できず、美少女に対して耐性が低かった部分もあり、必死に距離を空けていたのだった。

 今回、彼女が受けていた依頼もマーレが持ち上げた結果引き受けた依頼であり、全ては彼に褒められたいが為である。

 しかし、いざ王都に戻ってくると、何処を探ってもマーレの魔力を感知できない。これは流石におかしいと判断し、ギルマスの下へと突撃してきたのだった。


 そんな事を早口でケレブレスが語り、ギルマスは最初こそ彼女の目を見て聞いていたが、今では完全に俯いている格好である。

 どう答えたものか、と悩んでいると


 「あの、マーレさんは先週付けで引退表明をされて、生まれ故郷に帰られたそうですよ」


 「何ですって?」


 燃え盛るケレブレスという名の火山の火口にエミリーが爆弾を放り込んだ。


 「どういうつもりですか!?」


 烈火の如く怒りに燃えるケレブレスだが、ギルマス自身にも考えがあり、マーレの意思をくみ取った事を告げると徐々に彼女は落ち着きを取り戻す。


 「わかりました、では私も彼と同じ条件で引退します」


 「まてまてまて、どうしてそうなる!? お前はまだまだ若いだろうが!」


 「五月蠅いですね、私はもう150歳です、人間だとお墓に入っていてもおかしくありません。老後の事を考えてスローライフを送る。いいではないですか」


 「屁理屈を言うな! 俺は知ってるぞ、ハイエルフ族は人族の五倍は生きる。その計算で行けば人間換算で30歳じゃねーか!」


 「よく知ってるじゃないですか、相棒と同じ歳て引退。素晴らしいですね!」


 「良くねえよ! あいつと違ってお前はピチピチじゃねえか」


 先程までの理知的な会話は何だったのか? と思わせる喧々囂々(けんけんごうごう)の喧嘩腰っぷりにエミリーは心からマーレに助けを求めていた。


 (マーレさん、戻ってきてぇぇえええ)


 暫く怒鳴り合いをしていたが、言いたい事を互いに吐き出したのか、少し落ち着きを取り戻す。


 「Sクラス冒険者の引退をこれ以上認める訳にはいかん。これは決定事項だ。が、俺も鬼じゃあない、ここからは取引だ。落としどころを決める為のな」


 「ほう、いいでしょう。話を聞きましょうか」


 すっと二人は姿勢を正し、冷淡な声を出す。横で話を聞いていたエミリーもゴクリと唾を飲み込む。


 「まず、今後Sクラスの依頼以外は極力お前に振らない様に手配する。これは長期間お前の行動を縛らない為だ。そしてもう一つ。マーレの故郷を教えてやろう。これが俺から提示できる条件だ」


 ケレブレスも高速で脳内で整理する。今後、自身の資金の入用は減るが金銭なんて全く困っていないし、いざとなれば田舎のギルドへ足を運んで依頼を受ければいい。

 そして、何よりも魅力的なのが彼の故郷の場所を知れる事だ。流石の精霊でも遠くに離れてしまえば追う事は不可能である。

 同属性の精霊と契約していれば、上位者として精霊を経由して知る事が出来るが、自身は水と光に適性がそれほど高くなかった為にその手段は取れない。


 「いいでしょう、貴方の条件を飲みましょう」


 「いい返事を貰えて満足だぜ」


 ギルマスとケレブレスは固い握手をする。


 「それとだ、悪いがそこにいるエミリーも連れて行ってやってくれねえか?」


 「ギルマス!?」


 突然の上司の発言にエミリーが大声を上げる。


 「それは構いませんが、彼女はここの受付嬢でしょう?」


 「ああ、だが最近ミスばかりでな。クビにしようと思ってたんだ、どうせなら田舎にでも引っ込む方がいい」


 内容だけ聞けば酷い言い分だが、流石のエミリーもギルマスの真意に気づく。

 彼はエミリーの初恋を応援しているのだ。長距離の移動は魔物や野盗など、危険が多い。

 受付嬢は、血気盛んな冒険者を相手にする為、ある程度戦う術を教育される。国の中心地である王都の冒険者ギルドは当然その質も高いが、それでも不安が残る。


 それだったらいっそ、最強クラスの存在にくっつけてしまえと考えたのである。

 マーレは信頼を置ける男だし、自身の地元まで追いかけてくれば流石に彼女の想いにも気づくだろう。

 この国では一夫多妻制も一妻多夫制も許可されている。彼女達同士が上手くまとまれば今後、国の為にもなるかもしれないという打算も僅かにある。


 「ふむ……まぁいいでしょう。ですが正妻は私です。譲りませんよ?」


 「は、はい。私なんかで良ければ……」


 どうやら、彼女も王族であるところから否定的な意見はないらしい。後はマーレが上手く手綱を握ってくれる事を祈ろう。


 こうしてマーレが知らない所で、二人の恋する乙女が獲物を物にせんと向かい始めるのであった。

読んで頂きありがとうございます。


人物紹介


ケレブレス:銀髪ショート、眼鏡、スタイル抜群、エルフ族の王族ハイエルフ、初対面の時はマーレの敵だった。Sクラス冒険者、二つ名は数々の精霊魔法を使う事から『精霊姫』



風の精霊王:ケレブレスに加護を与える。エルフの里で祀られている


水の精霊王:マーレに加護を与える。人魚の国で祀られているが、旅行好きで大抵不在


光の精霊王:マーレに加護を与える。姿を見た者はいない。


国の幹部貴族:戦力主義者が主に発言力を持っており、マーレをSクラス冒険者の中では最も過小評価していた。

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