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わたしと薬と水色の魔法  作者: 結城コウ
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チアキ編 4-3

彼とわたしとライムとミント、四人で街に降りる事になった。

今回は馬車ではなく徒歩だ。

シアンさんとアイリスさんはアイリスさんが休みという事もあり、家に残った。

一応、セキュリティは万全だが、様々な可能性を考慮して、いざという時に彼を呼べる魔法の札を二人に渡していた。

呼べると言っても、街からは結構距離があるのでは、と彼に聞いてみた所。

「……君達を置き去りにすれば、一分半程で戻れるよ」

なんてとんでもない事を言った。店から街まではわたしの尺度では一駅離れているくらいの距離があるように思える。

ちなみにその時は迎えが来るまでは、適当な店で飲み物だけ注文して待っておくようにと言われた。

「ところで、此方に来る前はどんなものが好きだったんだい?」

「好きなもの……」

よくよく考えると趣味らしい趣味はなかった。

色々なものに手を出して、途中で飽きて投げ出す事が多い。

わたしの部屋には読みかけの小説と殆ど引けないギターとあまり使っていないテニスラケットと作りかけの模型と一度しか使わなかったお茶のセットとプロットだけの小説と中盤まで進めたまま手を付けてないゲームが置いてある。

「お、音楽?かなぁ……」

「ん、楽器かい?それとも歌?」

「あ、いえ、やる方じゃなく、聴く方です」

思えばいずれの時も……流石にギター。ゲームは例外として音楽を流しながらやっていた覚えがある。

と言っても特に拘りがある訳ではなく、その時の気分にあった曲を延々とリピートさせていただけだった。

「聴く……君の家は音楽団でも雇っていたのかい?」

「あ、いえ……えっと……」

音楽データのやり取りや、CDなどの存在の説明を全く知らない人にするのは難しい。

「なんというか……録音?した物を何度も再生する方法があるんです」

「ああ、成る程。そういうのならこっちにもあるよ。特殊な石に音楽を記憶させて再生するんだ。ただ、魔法で動くから、魔力切れの度に補充しないといけないけど」

元の世界でも電気で動いていたのだし、この世界はその代わりに魔法があるという事だろう。

「補充、ですか?」

「ああ、そう難しいものでもないけど。やっぱり、魔法を使えないと厳しいかな」

「魔法が使えない人はどうするんですか?」

「魔力の提供を生業(なりわい)にしている魔導士も多い。一般人の多くはそういう魔導士と契約して必要な量の魔力の提供を受けるような形が多いね」

言うなら、電力会社みたいな物が個人経営で複数いるようなものだろうか。

「まぁ、チアキが欲しいと言うのなら、魔力の補充くらいは僕がやるけど」

「そ、そうですか!?」

何故かその言葉が嬉しくて思わず声が上ずった。

「ただ、チアキは此方の音楽を聴いた事ないだろう?」

「あっ」

「まぁ、試してみて気にいるようなら、の話だね」

「そ、そうですね……」

「それで……ライムとミントはどうなんだい?」

「!」

「え、ええ……」

二人は会話に参加しようとしていなかった。

その理由は予想できる。

二人は彼の事をまだ信用していない。

だからこそ、警戒していた中で声をかけられたから驚いたのだろう。

「……」

「森の中ではあまり娯楽らしい娯楽はありませんでしたので……」

「ふむ、じゃあ普段はどんな事をして遊んでいたんだい?」

彼はそれを承知で、話しかける。

「遊び、ですか……その、襲われた時の自衛の訓練で自由時間は余りなくて……」

わたしには彼がその理由を理解しているように思えた。

「他の時間は家事等に明け暮れていましたし……」

二人の主人はわたしでも、二人を買ったのは彼なのだ。

「それでも、生活には癒しが必要だったんじゃないのかい?」

理不尽と言うなら、理不尽な理由。

「……でも、後は仲間や家族の供養で精一杯で」

それでも、彼はそれを受け入れた上で、二人を受け入れようとしているように見えた。

「……お墓参り、お花育てる。沢山、沢山育てたら、お婆ちゃん喜んでもらえる」

「み、ミント?」

「そうか、花か。娯楽と言えるかはわからないが花は癒しだよな。育ててみるかい?」

「……いいの?」

「ちょっと、ミント。敬語を使いなさいよ!」

「ああ、いいよ。帰りに花屋に寄ろう。折角だから種から育ててみようか」

「うん!」

「ミント、聞いてる!?」

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