スカーレット編 2-7
正しい事、というのは唯一不変だと考えていた。
だけど、少なくともワタシの『正しい事』と教会の『正しい事』は違っていたのだ。
「……それを踏まえた上で聞いて欲しい」
「なん、ですか?」
「状況を振り返れば分かると思うけど、恐らくは僕らは教会の排除対象になっているだろう」
「排除対象……敵ですか」
「ギリギリだったが、法の網目から抜けていた事で正面からぶつかってくる事はないだろう。追加で法案を通すにしてもこの所の世論を見る限り、通常よりは難しいと思う」
魔導士殿は新聞の一面を見せた。
詳しく読まなくとも見出しには新法案に対する不満が書きなぐられていた。
「だからこそ、非公式に、そして非合法な手を使ってくる可能性がある」
「っ……」
その意味はわかる。でも、教会が、この国の正義がそれを行うと事など信じたくなかった。
「教会の息がかかったゴロツキ……くらいなら何とでもなるだろう。だが……」
「教会の……暗部」
「!」
「聞いた事があります。噂話程度に……教会にとって邪魔な……手を出しづらい存在を抹殺する特殊組織……信じてはいませんでしたが」
「存在の是非は知らない。だけど、そういう連中やそれに準ずるモノが在るのなら、この店や僕、ブルー家自体を狙ってくる事は十分考えられる」
「……それが、一番の目的ですか?そんな相手から守るのが」
「その通りだと言っておくよ。形としては教会から対立する形になるだろう。でも、君の正義からは外れるものじゃないはずだ」
「!!」
それは確かに真だ。
ただ、正義がそうであっても道理まで、そうという訳にはいかない。
一度は聖騎士となった身だ。
教会に剣を向けるのは今でも違うと思っている。
「……少し考えさせて下さい」
「仮とは言え、この契約は双方が納得してこそだと考えている。幾らでも納得いくまで考えてもらっていい」
「そのような悠長な事を言ってしまっていいんですか?」
「契約には信頼関係が重要だと考えてるんだ。僕は君を信用するし、君にも僕を信用してもらう必要があるんだ」
「どうして、ワタシをそんな……」
「君の事は当に信用している。営業許可証の件の時点でね」
「……」
卑怯だ。
こんな時に叔父の影と重なるなんて。
「わかりました、ではワタシから一つお願いがあります」
「なにかな?」
「魔導士殿、貴方は先程戦えるのはワタシを除けば自身のみだと仰られてましたね?」
「そうだね、厳密には戦わせられるのは、だど」
「では、一度手合わせ願いたいと思います」
「……それは何故だい?」
「戦いの場に出ないというのなら、それでも構いません。ですが、場合によってはとは言え、戦うのでしたら、背中を預けられるのか、或るいは盾とならなければならないのか見極めたい、そういう訳です」
「成る程、僕を試したいという訳だ」
「い、いえ、そういう言い方は……」
「いや、構わないよ。元聖騎士で、それも騎士長だったという事で実力を心配してはいなかったけど、確かに力量を見極めておいた方がいい。互いにね」




