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わたしと薬と水色の魔法  作者: 結城コウ
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スカイ編 1

名前さえ奪われた彼がスカイ=ブルーになったのは八歳の頃だった。

彼が五歳の時、血の繋がった家族と、初めの、ある意味では本当の名前を失った。

その頃の記憶は余り覚えていない。

ただ、両親と兄弟が殺され、唯一生き延びた彼も奴隷となった事は覚えている。

経緯も曖昧。

だが、その過酷さは今でも夢に見る。

幼い身であったが、人がやりたがらない過酷な労働を強いられた。

朝は陽が昇らない内から、夜の月が昇り切った後まで働かされ続けた。

与えられる食糧も最低限。

それで動けなくなれば、()()()になるだけだった。

彼と歳の近い子供も多くいたが、その殆ど()()()はとなった。

肉体は限界に近かったが、それ以上に心が壊れていた。

彼は自分も近い将来、()()()になると感じていたが、それに対して何ら感情も抱かなくなっていた。

そんな中、彼の仕事は終わりを迎えた。

と、言っても奴隷から解放される訳ではない。

必要のなくなった奴隷の生き道など決まっている。

限界の近い者は大抵用済みに、まだ使える者は新たな主人に売られるだけだ。

彼自身は限界が近かったが、先に心が壊れた分そのサインを極力出していなかった結果、まだ使えると売りに出された。

そこで義父であるローモンド=ブルーとその娘との出会いがあった。

それは彼らにとって奇跡に近い出会いだった。

ローモンドは名の売れた魔導師で魔術生成薬師であった為、それなりの財産を持ってはいたものの、魔導師という職業柄、必要ではない奴隷を買う機会などなく、本来なら彼と出会う事はなかった。

だが、たまたま町に娘と出た際、娘が馬車に運ばれていく彼を見つけた。

そして、彼の魔術の才能を娘が感じ取った。

ローモンドは娘からその話を聞き、奴隷市へと向かった。

そして、彼を見つけたローモンドも、彼の魔術の才能に気付いた。

特に何かをしているところを見る必要はなかった。

ただ、見る者が見れば気付く事だった。

彼は魔術の行使に適した肉体を持っていた。

それもそのはずで、殺された彼の両親はいずれも何代も続く魔導師の家系だった。

だが、見る者さえ見なければ、他の人間は気付かない。

故にこの出会いがなければ、彼がその才能を開花させる事もなく、奴隷として早々に用済みになるだけだった。

だからこそ、ローモンドの決断は早かった。

余計な手順を踏んでいる時間はなかった。

金のやり取りで済むのならそれでよかった。

ローモンドは彼の才能は勿論惜しかったが、心も身体も壊れかけているまだ幼い少年を救いたかった。

その出会いが彼をスカイ=ブルーにした。

そうその時、それまで奴隷だった彼は養子として迎えられ、スカイという名も手に入れた。

ローモンドの妻は病弱だった事もあり、スカイがブルー家に来る前に亡くなっていた。

ローモンドは後妻を(めと)る事もなかった為、それ以上子供を望む事が出来なかったローモンドはスカイを実の息子のように扱い、また娘も突然出来た兄を喜び、スカイは家族の愛によって徐々に壊れた心を癒していった。

そう、心は壊れたままだ。未だに過去の傷は治ってはいない。

それでも、その壊れた心の上にスカイは愛によって新たな人格が生まれた事でスカイは人間らしさを取り戻していった。

それからのスカイはブルー家の人間として恥じないように、魔術の勉強に取り組んでいった。

ローモンドはスカイを養子に迎えた日からスカイを跡取りにする事を考えていた。

ローモンド自身、不治の病を(わずら)っていて、娘を成人まで育てられない事を危惧していた。

そして、不治の病を持つ父と病弱な母の間に生まれた娘もまた、不治の病に侵され、ローモンド以上に永く生きられないと思われていた・

ブルー家はその病にかかり易い家系だった。

ローモンドはその病の治療法を確立しようと研究していたが、自らの死までに間に合わない事を感じていた。

自分が死ぬのはいい。自分の力不足なのだから。

だが、娘だけでも救いたいとローモンドは感じていた。

故にスカイはブルー家の希望の光でもあった。

ブルー家に直接の血の繋がりがないが故に、ブルー家を救いえる存在であった。

スカイ自身もその期待に応えたかった。

そして、魔導学校に入学したスカイは優秀な成績を残し、一年の飛び級を経て義父と同じく魔導師と魔術生成薬師の資格を持ち、十八歳になる前に卒業した。

だが、ローモンドはスカイの卒業を見届けたところでその生涯を終えた。

スカイはローモンドに今際(いまわ)(きわ)に娘とブルー家を託した。

葬儀の後に正式な遺言状が出てきた事で、スカイは正式にブルー家を継ぐ事となった。

スカイはブルー家については亡きローモンドとその娘の意志を最優先にすべきだと考えた。

ローモンドの一番の願いは娘の救済。

不治の病の治療法の確立。

その為の方法を思案した上で、娘に希望を問うた。

娘はスカイを信頼していると答えた。

だから、スカイの思った通りにして欲しいとも。

その答えにスカイの決心は固まった。

魔術生成薬師として、不治の病の特効薬を作る事を。

その為に、暮らしていたブルー家の屋敷を処分し、その金と遺産を開店資金として薬店を始める事にした。

プラン自体は学生の頃から練っていた為、その為のノウハウはローモンドの友人の薬店を幾つか尋ねる事で修得していた。

金は残ったが、商売をやる以上運転資金が必要である事と特効薬の研究費用が必要である事を考え、雇っていたブルー家の使用人は歳が近く、スカイやブルーと幼少の頃からの付き合いでもあるアイリスを除き、再就職の世話をした上で契約解除とした。

そして、今後のめどがたったところでスカイは義妹であり、ローモンドの娘であったシアンを娶る事にした。


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