プロローグ②
『ねぇお母さん』
『どうしたの?』
『勇者ってどんな人なの?』
不思議そうな顔をしている少女は、微笑みを浮かべた女性に問いかけた。
『どうしてそんなことを聞くの?』
『だってこの本、勇者について全然書いてないもん!』
女性の問いかけに少女は不満を交えながら大きな声で答えた。
だけど女性は、太陽のような笑みを崩さずにこう答えました。
『きっと太陽のようにまぶしい人だったのよ』
『太陽のようなまぶしい人?』
『そうよ』
ふーんっと少女は不貞腐れた顔をしながら女性の膝に顔を埋めた。
『そう不貞腐れた顔をしないの、きっとわかる時が来るわよ』
そう言い、寝かしつけるように頭をなでた。
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死んだ母さん、今この記憶が思い出されたのはきっと走馬灯ではないのだと思う。
きっと目の前にいるこの少女が、太陽のようにまぶしい人に見えたからだろう。
「あの、助けていただいてありがとうございます!」
倒れている女性が剣を持った少女に向けて言った。
すると、まるで今初めて女性に気づいたように驚いた顔で女性に顔を向けた。
「…」
(気…気まずい…)
互いに見つめ合いながら沈黙が流れる、女性は今1度少女の容姿を見た。
(すごい美人だなぁ)
先程まで死を悟っていた者が能天気に考えていた。
少女は誰が見ても美しいと思う容姿だ。吸い込まれるような深紅の目と白く輝くその髪は、森の木漏れ日が照らし、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだと錯覚するだろう。
だがそんな1シーンに1つの邪魔が入るだろう。
グルゥ
と獣のような声がする、それは先ほどまで倒れていた狼からした。
(まさかもう起きたの!)
少女と女性はすぐにそちらを向くが、すでに狼の口は少女を喰らわんと大きく開けていた。
少女は表情を変えず大きく開けられた口を眺める、女性は次に起こるであろう凄惨な光景を幻視し目をつむり、次に聞くであろう音を想像した。
だが、聞こえてきた音は「詰めが甘い…」と言う疲れがにじみ出ている声と、
想像をはるかに超えた爆発音だった。
(なになになに!何があったの!)
びっくりした少女は、すぐに目を開け爆発音の音がしたほうを向くだろう。
そこには、黒焦げになった狼だと思われる塊と、先程までと同じ格好でいる少女、
そして、先ほどの声の主であるだろう茶色いフードを被った人物が少女の傍らに存在していた。
まだ誰も名を名乗っていないだとぉ…