プロローグ
*--------------------------------------------------------------------------------*
森の中、まだ真夏の太陽が昇りきらない時間…
「ハァ…ハァ…ハァ」
わたしは必死に走っていた。
足が重い…体の節々が痛く、休みたいと体が脳に伝えてくる。
そんな体の警告を無視し、自らの服やスカートが破れようとも必死に走る。
自分の鼓動や荒い息遣い、聞く音がそれだけになるほど集中して走る。
だがその集中を一瞬にしてかき消す音がした。
背中から木々をなぎ倒す音がしてくる、
それが自分に近づいていることが否でもわかる。
先ほどまで汗をかくほど熱くなっていた体が、
音が近づくたび芯まで冷えていくのを感じる。
足を動かし体が悲鳴を上げようが無視をし、
追いつかれれば消え去る魂をすべてつかい生きようと必死に走る、
たとえ先ほどまでの音が自分の真後ろまで迫ってきてようとも。
吠える声が聞こえる、人を恐怖に陥れる声がする。
その声が真後ろから聞こえてくるだろう。
人とは好奇心旺盛なものだ、どれだけ自分が危機的状況だろうと
振り返ってしまえば恐怖で足がすくんでしまうかもしれないのに、
振り返って音の正体を知りたいと思ってしまうのだから。
好奇心が勝ってしまった私は後悔するだろう、東洋の言葉で「好奇心は猫を殺す」
と言うがまさにその通りだと振り返った私は思った。
「―ッ!」
振り返って咆哮の正体を見た私が思ったのは、恐怖と後悔の二つだった。
咆哮の正体は口からよだれをたらし自分を食べようとする、軽く3m以上の巨体をした狼だった。
逃げることしか考えていなかった脳が恐怖ですべてが無理やり塗りつぶされ、
生きようとしていた体は硬直し、前方にある障害物に足が引っかかりこけてしまった。
「なッ!」
視界が目まぐるしく変わり、体に激痛が走る。目まぐるしく変わる視界が地面と目が合った時、自分がこけてしまった事実を理解した。
既に限界を迎えていたのだろう倒れた体は、
起きなければ死ぬことがわかっていようと立つことができなかった。
「いたた…ッ!」
グルルと喉を鳴らす音がした。
反射的に音のほうを向いた私は絶望する。
先ほどまで追いかけてきた狼が覆いかぶさるように存在し、
私を食べようとしているのだから。
声が出ない、恐怖で体が冷えていくのを感じる。
狼が私目掛けて口を開けたとき、目をつむり自らの死を感じた。
だがいつまでたっても痛みを感じない、私は気になり目を開けてみると
そこには、横たわっている大きな狼と
血まみれの剣を持った美しい小さな女の子だった。