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鈴音響けば  作者: 秋本そら
『不思議』に囲まれて
9/18

鎌鼬もどき

 ――何か、大切な約束を忘れている気がする。


 放課後の、部活の時間。

 少しずつ赤に染まっていく空を見ながら、そんな思いに駆られていた。

「優妃、どうしたの?」

 降ってきたのは、波津子の声。

「……ううん、なんでもないよ。なんか忘れてる気がして、少し考え込んでただけ。思い出せないし、きっと気のせいだよ」

「そっかそっか。そういうことってあるよねー」

 気にすることないよ、と波津子は笑う。

 私はうなづき、スケッチブックをめくった。今日は、何を描こうかな……。

 ……あ、紙が一枚無くなっている。紙の切れ端が、リングに絡まっていた。

 確か……そう、この間、窓の外を絵に描こうと思って、だけど何故か破り捨てちゃったんだった。

 ――なんでこんなことしたんだろう。

 リングに絡まる紙切れを取り外そうとして、手を伸ばしかけた。けれど、思い直してそっと引き戻す。

 なんとなく、やめておこうと思った。


 紙の上を鉛筆が滑り、踊る。

 机の上に放置されていた絵具セットをデッサンすることに決め、筆を走らせてからどれだけ経っただろう。もう少しで描きあがりそうだ……。

 じん、と右手の甲に熱が走る。

 からころ……鉛筆が転がる音。

 カッ、と燃え上がるような……痛み。

「い……った……」

「優妃? どうしたの?」

 呑気な波津子の声に、場違いなものを感じる。

「ね、ねえ、波津子……私の手……どうなってる?」

 怖くて、自分では見られない。

「……! ど、どうしたの! 小指の付け根から手首にかけて斜めに、獣が引っ掻いたみたいな真っ赤な痕がついてるよ!」

「分からない……でも、痛い……」

「明らかに人が引っ掻いた痕じゃないもんな……何これ……」

 困ったように唸り、波津子は考え込む。

「……うっ」

 痛みに耐えるので精一杯で、思考が働きそうにはない私を、新たな痛みが襲う。

 思わず、左手で頬を押さえていた。

「どうしたの、優妃!」

「こっちも……頬も、痛くなった」

 恐る恐る手を外すと、それを見た波津子は息を飲む。

「こっちも赤いよ……! なんか、叩かれた後みたいになってる」

「そんな……どうして……?」


 ――謎の痛みは、消えるどころか増えていく。

「なに……なんなの、これ?」

 あちこちに赤い痕が出来ているんだろう、戸惑う波津子の声に、私は何も答えられない。

 ぎりぎり、自分が歯を食いしばる音が聞こえる。

 涙がこぼれそうになって、それを防ごうと上を向く。

 窓から見える、黄昏時の空。

 ちりちり……鈴の音が、聞こえた気がした。


 ――『不思議』がいつも、あなたにいいことをもたらすとは限らない。そして、黄昏時は逢魔が時。何が起こるか分からない――。


 突然脳裏に浮かび上がった、そんな言葉。

 誰に言われたのかも、どんな声で言われたのかも、覚えていない。いや、言われてすらいないかもしれない。何かの本で読んだのかも。

 分からないけれど、けど、何故か納得のいく言葉だった。だって、今、私を襲っている『不思議』は……どう考えても、いいことをもたらしてはいない。

 だからだろうか。

 いつのまにか、何も考えずに、その言葉を繰り返していた。

「……『不思議』がいつも、あなたにいいことをもたらすとは限らない」

「優妃?」

「黄昏時は、逢う魔が時……何が起こるか、分からない」

「――それだ!」

 突然、波津子が大声を出す。

「……何?」

「原因が分かったよ、優妃!」

今回のサブタイトル『鎌鼬もどき』について


鎌鼬【かまいたち】:ちょっとした拍子に、うちもしないのに皮膚に鎌で切ったような切り傷が出来る現象。


……らしいです。

優妃が受けた謎の傷が切り傷ではないのと、大きく範囲が広いことから『鎌鼬もどき』にしました。


難読漢字なのに(私も初めて見たときは読めませんでした)平仮名にしなかったのは、そうしてしまうとお笑いコンビを想像してしまう方がいらっしゃるだろうと思ったからです。

「なんだこれ」と思った皆様、すみませんでした。


調べてみると「鎌鼬という妖怪がいる」という内容のWebページが出てきましたが、今回はその妖怪は関係ありません。

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