強引なさよなら
――いた。
みいやんは、いつもの場所に座っている。けど……表情が険しい。いつものみいやんと、何かが違う。
声をかけられないまま、少し離れた場所で立ち尽くしていると、みいやんが私に気付いたみたいだった。
「優妃!」
ちりちり、ちりちり。
近づいてくる鈴の音。
悲痛な声で、叫ぶようにして、みいやんは言葉を発する。
「どうしてここに……!」
「……鈴の音が、聞こえたから」
そう答えると、少し怒ったような声が問う。
「どこで?」
「学校で……」
ちりちり、という音と共にみいやんは首を振る。
「それは空耳よ、あるいは良くない『不思議』の悪戯かしら。絶対にあたしじゃない。……昨日ははっきり言えなかったのだけれど、もう決めたわ。
……あたしたち、会うのをやめましょう」
今、なんて言った?
会うのを、やめる――?
「どうして!」
「ごめんなさい、優妃。あたしもお別れなんてしたくないの。でもこれは、あなたのためよ。やっぱりあたしには……わがままは、許されなかった」
分からない。理解できない。
「私のためってどういうこと? わがままって――」
「あたしは独りでいなきゃいけなかったのよ!」
聞いたこともない、鋭く胸を刺す叫び声。
「……独りで……?」
「あたしは、友達なんて作ってはいけなかったんだわ。友達なんて作らなければ……作らなければ、大切な人を巻き込まなくてもよかったのよ」
みいやんの目には、涙が浮かんでいる。
「優妃。ここまで平穏な日々を送れたことの方が奇跡だった。もしあなたがあたしのそばにいれば、きっと不幸に巻き込まれる。だから、もうあたしのことは……忘れて」
――あたしも、忘れるから。
ぼろぼろと泣きながら、そう呟くみいやん。
泣きたいのは、こっちの方だ。
「訳わかんないよ……別れたくない……」
目頭が熱くなって、頬を冷たいものが滑り落ちる。
「……仕方ない、わね」
悲しげな声で一言、みいやんはそう言った。
そして、何故か震えている手を持ち上げて、そっと、私の頭を、撫でた。
「どうかあたしのことは忘れて。……さようなら」
――どうして私は、泣いているんだろう。
何故か、涙が止まってくれなかった。
……ちりりん。
鈴の音が聞こえて、顔を上げる。
着物姿の少女が、こちらに背を向けて歩いていた。
ふと、少女が振り返る。もちろん、知らない人だった。何故か涙を流し続けている、その琥珀色の目は綺麗だった。
キッ、と彼女は前を向き、走り出す。
その後ろ姿を、何故か私は眺めていた。
ずっと。その影が見えなくなるまで。