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鈴音響けば  作者: 秋本そら
『不思議』が集まる場所
8/18

強引なさよなら

 ――いた。

 みいやんは、いつもの場所に座っている。けど……表情が険しい。いつものみいやんと、何かが違う。

 声をかけられないまま、少し離れた場所で立ち尽くしていると、みいやんが私に気付いたみたいだった。

「優妃!」

 ちりちり、ちりちり。

 近づいてくる鈴の音。

 悲痛な声で、叫ぶようにして、みいやんは言葉を発する。

「どうしてここに……!」

「……鈴の音が、聞こえたから」

 そう答えると、少し怒ったような声が問う。

「どこで?」

「学校で……」

 ちりちり、という音と共にみいやんは首を振る。

「それは空耳よ、あるいは良くない『不思議』の悪戯かしら。絶対にあたしじゃない。……昨日ははっきり言えなかったのだけれど、もう決めたわ。

 ……あたしたち、会うのをやめましょう」

 今、なんて言った?

 会うのを、やめる――?

「どうして!」

「ごめんなさい、優妃。あたしもお別れなんてしたくないの。でもこれは、あなたのためよ。やっぱりあたしには……わがままは、許されなかった」

 分からない。理解できない。

「私のためってどういうこと? わがままって――」

「あたしは独りでいなきゃいけなかったのよ!」

 聞いたこともない、鋭く胸を刺す叫び声。

「……独りで……?」

「あたしは、友達なんて作ってはいけなかったんだわ。友達なんて作らなければ……作らなければ、大切な人を巻き込まなくてもよかったのよ」

 みいやんの目には、涙が浮かんでいる。

「優妃。ここまで平穏な日々を送れたことの方が奇跡だった。もしあなたがあたしのそばにいれば、きっと不幸に巻き込まれる。だから、もうあたしのことは……忘れて」

 ――あたしも、忘れるから。

 ぼろぼろと泣きながら、そう呟くみいやん。

 泣きたいのは、こっちの方だ。

「訳わかんないよ……別れたくない……」

 目頭が熱くなって、頬を冷たいものが滑り落ちる。

「……仕方ない、わね」

 悲しげな声で一言、みいやんはそう言った。

 そして、何故か震えている手を持ち上げて、そっと、私の頭を、撫でた。


「どうかあたしのことは忘れて。……さようなら」


 ――どうして私は、泣いているんだろう。

 何故か、涙が止まってくれなかった。

 ……ちりりん。

 鈴の音が聞こえて、顔を上げる。

 着物姿の少女が、こちらに背を向けて歩いていた。

 ふと、少女が振り返る。もちろん、知らない人だった。何故か涙を流し続けている、その琥珀色の目は綺麗だった。

 キッ、と彼女は前を向き、走り出す。

 その後ろ姿を、何故か私は眺めていた。

 ずっと。その影が見えなくなるまで。

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