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鈴音響けば  作者: 秋本そら
『不思議』が集まる場所
7/18

放課後の戸惑い

 いつの間にか、私は家に向かって走り出していた。

 無意識だった。そして走っていると気づいた後も、何故か足は止まらない。

 あまりに普段と違うことが起こりすぎた。

 生暖かい風、不穏な鈴の音に、謎の違和感。みいやんの様子がおかしかったこと。彼女が別れを切り出したこと、私よりも早くいなくなったこと、「また明日」の一言がなかったこと。そして、別れ際の忠告じみた言葉。それらが鮮明に思い出されて、胸を締め付ける。

 あれは一体……何だったんだろうか?

 おさまらない胸騒ぎと息切れのせいで、かなり苦しい。

 なのに、なのに。

 心身共に、いうことを聞いてくれなかった。


「……き、優妃!」

「うわあっ!」

 我ながらはしたない声が出てしまったけれど、本当にびっくりした。

「波津子、驚かせないでよっ!」

「ごめん。でも優妃、だいぶ上の空だったから……大丈夫?」

 不安げに私の顔を覗き込み、尋ねられる。……とりあえず、今の状況を思い出してみよう。

 あたりを見回す。ここは美術部室だ。時計を確認してみると、今は部活の時間。目の前にはスケッチブック――そう、絵を描いていたんだ。波津子は人物画を、私は窓から見える風景を。そうしたら、だんだん空が赤く染まりだして、夕方だなあ、なんて思っていたら、昨日のことを思い出して……それで今に至る、か。

「……うん、大丈夫」

 ようやく私は、頷くことができた。

「本当に?」

「うん……」

 疑うような波津子の声に首をかしげていると、「だって」と真剣そうな声。

「だって、優妃震えてたから」

「震えてた……?」

 嘘だ。

 そんなわけ……いや、昨日のことを思い出していた、と考えれば不自然じゃない。

「ごめん、心配かけて。ちょっと嫌なことを思い出してたから……そのせいかも」

「そっか。なんかあったら、言ってくれれば相談乗るからね?」

「うん、ありがと」

 心配そうな顔はそのままだったけど、波津子は絵を描く作業に戻っていった。私も再開しようかと思ったけど、このまま黄昏時の絵を描いていたら、また昨日のことを思い出してしまいそうだった。

 目の前のスケッチブック。その一ページをビリビリと破り捨て、目の前にある筆箱のデッサンをすることにした。


 ――ちりちりん。

「――みいやん?」

 鈴の音が、聞こえた。

「どしたの?」

 手を止め、波津子が尋ねてくる。

「今、鈴の音……」

「鈴の音? 空耳じゃないの?」

 首を傾げられたが、信じられなかった。

 あんなに鮮明な空耳があるものか。

「……ごめん。やっぱり、帰る」

「えっ? ……わ、分かった。気を付けてね」

 戸惑いながらも送り出してくれる、そのことがありがたかった。

 簡単に片づけて、鞄を手にし、私は走る。

 いつもの、あの場所へ。

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