肌寒い黄昏時に
「温かいわねぇ」
コンビニのイートインコーナーで、みいやんがコーヒーを手に持って笑っていた。
「ね。あったかいっていいよね」
私はそう答えて、ほかほかの肉まんにかぶりつく。
結局コンビニで買ったのは、ホットコーヒー二つ、肉まん一つ、そしてカイロが一つだった。
一度暖房の効いた空間に入ってしまうと、寒い外にはなかなか出られない。ちょっと高くてもいいやと通常通りの税金を払い、イートインコーナーを使うことにしたのだ。
「――にしても懐かしいわねぇ。肌寒い黄昏時に出会い、コーヒー片手に語らったこと。そして、また明日も会いましょうと約束したこと」
ああ、そういえばそうだったな。初めてみいやんに会った日、私たちはコーヒーを飲みながら自己紹介をしあい、意気投合したんだっけ。
私は深くうなづいた。
――それは、少し肌寒かった四月のこと。
学校帰り、親に牛乳を買ってきてほしいと頼まれてコンビニに寄ろうとした時のことだった。
正直に言おう。初めて彼女を見た時、私はギョッとした。
今時見ない着物姿に、琥珀色の目。そして髪を縛るのはゴムではなく赤い紐で、さらにそれには鈴がついているのだ。明らかによく見かける「普通の女の子」ではない。
でも、それ以上に驚いたことがあった。
初めて会った日、コンビニの前に置いてあるベンチに腰掛けていた彼女は、それはそれはひどい姿だったのだ。
薄桃色の、桜が散る模様が織られた着物は所々薄汚れていて、しかも着崩されていた。……いや、着崩されていたというよりかは、激しく動いたために崩れてしまった、という方が正しそうな感じがした。
顔は何故か蒼白で、そしてあちこちに傷があった。琥珀色の目は視点が定まらず、茫然と何処か分からないところを見ていた。
髪の毛はもちろんボサボサ。この日も三つ編みであったことには間違い無いのだが、その編み目は緩くなり、所々髪の毛が飛び出していた。
こんな人を見たら、普通は触れないのが一番、と放っておくと思うのだが、この日の私は違った。
コンビニに入った私はホットコーヒーを二つ購入し、ベンチに腰掛け、一つを彼女に差し出したのだ。
「あの、これ」
そう声をかけると、ゆるりと彼女は振り返り、こちらを見る。ようやく、目の視点が定まった。
「……えっ」
「これ、どうぞ」
彼女は、私とコーヒーを見比べた。
何度も、何度も、視線を動かす。
「……あ、あたしが、怖くないの?」
ようやく放った彼女の言葉に、私は首を振る。
「どうして怖がる必要があるんですか?」
「……ほら、だってあたし……こんな目、してるし……」
どうやら、琥珀色の目がコンプレックスだったらしい。あと、彼女が喋るところを見てようやく気付いたが、彼女の犬歯は普通の人より少し鋭い。もしかしたら、そのこともさっきの「怖くないの?」の発言に繋がったのかもしれない。
でも、怖くなんかなかった。
「その目、私はとっても綺麗な色で好きですよ」
もう一度、どうぞ、とカップを差し出すと、今度こそ彼女はそれを受け取った。
おずおずと、戸惑いながら。