黄昏時の日常
「ねえ、優妃。今日は何があったの?」
みいやんは琥珀色の目を輝かせ、私に問う。いつもの、お決まりの質問だ。この時の、興味津々、って感じの顔をして私を見つめる彼女は、まるで猫みたいに見える。
「えー……、今日はね……そう! あのね、私同じクラスの男子に告白されたの!」
「まあ、告白⁈」
こんな時も変わらない口調と、普段は細い目が驚きのせいで丸くなっている様子がなんだかおかしくて、少し笑えた。
「ふふっ。そう、告白。びっくりでしょ? 十二月とはいえ、まだクリスマスでもないこの時期にされるとは思わなかったし、自分からしたらただの男友達って子にされたからダブルでびっくりだったよ」
私がそう言うと、みいやんは一瞬困ったような顔をして、でもまたすぐに猫みたいな表情に戻って。
「……それで、優妃はなんて答えたの?」
「ごめん、今はどうしても恋愛対象と思えないから、友達として仲良くしてほしい……って」
「なかなか手厳しいこと言うわねぇ。でも、あたしもそう答えていたかもしれないわ」
冬の黄昏れた空の下、私たちの声が弾けていく。
ひゅるり、ひゅるり。
突然、冷たい風が吹き、私たちの頬を撫ぜた。
「うう、さ、寒い……」
思わず呟くと、みいやんもそれは同じらしく「そうよねぇ……」と言ってぶるりと体を震わせた。みいやんが白い息を赤くなった手に吹きかけるのを見ながら、私は両手をポケットの中に突っ込んだ。
――ふいに、軽やかなメロディとともに、左から暖かな気配を感じて振り返る。すると、ちょうどコンビニから誰かが出てくるところだった。その手には、温かそうなコーヒー。
そうか、どうしてコンビニの前にいながら気付かなかったんだろう。コンビニになら、温かいものが色々売っているってことに!
「ねえみいやん、何かあったかいもの買おうよ!」
「あら、いいわねぇ。あたし、コーヒーが飲みたいわ。あとは……ホッカイロね。あの不思議なぽかぽかするものが大好きなの!」
立ち上がり、すぐ近くの自動ドアに近付く。音もなく扉は開き、暖房で温められた空気が私の黒縁眼鏡を曇らせる。そして、さっき聞いたばかりの軽やかなメロディとともに、気怠げな「いらっしゃいませー」の声が聞こえた。
レジの方を見てみると、私と同い年くらいの男の人がつまらなそうな顔をして突っ立っている。ぼんやりと私を見て、みいやんに目線を移した瞬間、驚いたように目を丸くする。
「あらあら、そんなに驚かなくってもいいじゃない?」
みいやんはそう小声で言ってくすくすと笑っていたが、突然琥珀色の目をした着物の少女が店に現れたら、少しはびっくりするだろう。
私は店員さんに少しだけ同情した。